大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第6章 反撃

3 皇国の西半分

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     今や祖国の東半分を侵略されてしまった皇国。国土基盤整備省がうなりをあげて道路の拡張、港湾の整備、鉄軌道の延伸を行なっている。

    鉄軌道は博多~長崎、博多~熊本~鹿児島が開通。琉球ルートの流れが一層滑らかになった。本州でも基幹ルートから裏日本へ主要駅から伸びるようになっている。敦賀~京もとっくに開通している。尾張~箱根も。箱根から先はルシアの占領下にある。

    皇国は箱根を、ルシアは小田原城をそれぞれ要塞化して対峙している。北へ目を転じると軽井沢までが皇国側。沼田はルシアの手に落ちている。皇国は西の吾妻渓谷に陣を敷いている。

    越後は大半をルシアに占領されている。かろうじて上越は取り返した。千曲の戦いでルシアが柏崎まで後退したからだ。上杉景勝は春日山城を取り返した。

鉄軌道は善光寺から上越まで延伸された。越後方面軍司令部は野沢温泉近くまで進出している。

    松本と伊那は今や一大兵器廠と化していた。今では5千門以上の砲を出荷済みだ。火力はルシアに対して明らかに優勢であった。鉄は脆いという弱点を克服したとたんに青銅製の大砲を性能で上回った。青銅の融点は銅と錫の比率によって違ってくるが85対15とすると約850度、対して鉄は1500度以上である。

    砲というものは撃てば熱を発する。何発も撃ってるとどんどん温度が上がる。熱で砲身が曲がったりするのである。鉄が曲がり始める温度は青銅より600度以上も高いのである。

    つまり、鉄は青銅よりたくさん撃てる。鉄は銅よりたくさんある。つまり安い。大量に作れる上に強力。火力優勢が皇国側にある以上、アーネン・ニコライも安易に攻勢には出られない。

    一方、皇国側も兵力を消耗しすぎていた。兵力再編の時間が必要だった。又、真田繁信は弾薬補給が出来ない場所で戦いたくなかった。火力優勢を活かすためには当然だった。

    結果として彼は鉄軌道網の完成を待った。大砲が千門あっても撃つ弾がなければ意味がないからだ。もう一つの理由は戦場移動だ。どこを突かれても迅速に兵力を移動出来るようにしたかった。封鎖は解除したとはいえ、まだ制海権はルシア側にある。

    つまりルシア側はどこにでも上陸作戦を展開出来るのだ。しかし、その危険性もアーネン・ニコライはわかっている。今まで新潟以外には仕掛けては来ていない。それでも皇国側としては可能性がある以上、対処せねばならない。対応策は何か?兵力の迅速な移動。これしかなかった。長い海岸線、相手はどこでも選べる。全ての海岸線に兵力を配置することは不可能だ。九州は博多、本州は越後方面軍がその任を担う。四国は・・・。四国はいったん放棄するしかなかった。公には絶対認めてはならないが、そうせざるを得ない。繁信自身は四国には来ないと割り切っている。何故か?案外、遠いのだ。九州回りでも本州側からの南下でも、結構距離がある。例え占領してもルシアの兵站能力が持たない。



越後方面軍司令部作戦会議室

    上級将校と参謀連中が一堂に会している。司会役は真田繁信参謀長。

    「兵力再編は一応終わった。博多の兵力は10万、越後方面軍は15万、箱根に1万、軽井沢に1万、吾妻渓谷に1万、計18万だ。そろそろ攻勢に出たいと思う。」

    おおっと言う声がそこここで上がる。

    「明後日、御前会議が開かれる。その場で反攻についての御裁可を仰ぐ予定だ。1ヶ月以内に作戦開始だ。諸君、兵どもをしごいておけ!」

    「おおっ!!!」








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