大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

文字の大きさ
58 / 96
第6章 反撃

7 さまよえる関東平野

しおりを挟む
 かくして東方方面軍は関東に進出する。関東平野は広い。ルシアの援軍が小田原を目指して南下しているはずだった。次の作戦目標はこれを捕捉殲滅することだった。

    小田原の陥落を知れば新潟に引き返してしまう。その前に補足すれば、野戦において撃破するチャンスだった。

    だが、どこにいるかわからない。出来る限り早く補足して殲滅しなければならない。北に向かって動きながら索敵するしかなかった。参謀本部は熟慮の結果、司令部を中心に東方方面軍を東西南北の4つに分け、どの軍団が敵に遭遇しても1日で駆けつけられる距離を保ちながら前進することを決定した。

    北が第1軍団、東が第2軍団、西が第3軍団、南を第4軍団が担当した。

    兵法上、軍勢を分割するのはマズイって?その通りだが、現実に10万以上の人数をまとめたまま動かすのは非常な困難が伴った。あなたは人口15万以上の都市の市長をしてみたことがあるか?イヤ、元々そこに居住している住民の長になるだけなら、務まるかも知れない。だが、手足のごとくあやつって移動させ、食わせ、日常に必要な物を毎日過不足なく与え、維持するのは?

    鉄軌道の沿線なら可能かも知れない。だが今の関東平野は敵地で鉄軌道も通っていない。ごく短時間なら大軍をまとめて運用出来るが、長期間に渡っては無理だった。まず兵站部が音(ね)を上げた。

    ここで軍制に手が入れられる。

    師団は通常少将がなる。師団を3つか4つまとめて軍団とする。軍団は諸兵科協働を原則とする。つまり、歩兵・騎兵・砲兵を必ずバランスよく抱えている。兵站もだ。独自の兵站ラインを抱えている。軍団長は中将がなる。この軍団をまとめたものが方面軍だ。方面軍司令官は大将がなる。

    普段は軍団単位で動き、一朝(いっちょう)事あらば集合し、方面軍となって敵を叩く。とまあ、頭で考えた通りにならないことが現実にはしばしば発生する。

    とはいえ今は。関東に入ってから東方方面軍はどこに行っても大歓迎を受けた。待ちに待った解放者が現れたのだ。住民が喜ばないはずがない。だが、進軍速度は確実に落ちた。ルシアは噂はあれど、影も見えない。

    東方方面軍はさらに北上して行く。

    関東平野は広い。

    「山が・・・ない!    見渡す限り平野だ。    日ノ本にもこのようなだだっ広い平原があったのか。」

    真田繁信は信州人だ。信州は日ノ本有数の山国。何しろ8割が山だ。平野は2割しかない。山が見えていないと落ち着かない。

    「異国のような感じを受けますな。」

    平澤少将が答える。平澤少将は准将から昇進し、第3軍団第3師団の師団長となっていた。ああ、そうそう真田繁信も小田原の勝利の後、護国省から昇進の通知を受けていた。今や中将様である。凱旋したら朝廷から新しい官位もいただけそうな雰囲気である。

    真田繁信は方面軍参謀長として通信連絡網の確認のため、各軍団を回っているところだ。

    「いつまで第3軍団に?」

    「すり合わせも終わった。明日の朝帰ろうかと思う。」

    「軍団長は【鷲巣の英雄】の崇拝者ですから、残念がるでしょう。歳も石高も閣下より上なのに、閣下の下で働いてみたいなんておっしゃっていますよ。」

    第3軍団長は前田利常中将だ。40なかば。加賀前田120万石の当主である。

    たまたま真田繁信が第3軍団にいたこと。第3軍団長が繁信の指揮権発動に抵抗がなかったことが、後に第3軍団に勝利をもたらす。だがそれは未曾有の苦闘でもあった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...