大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

文字の大きさ
57 / 96
第6章 反撃

6  小田原攻め

しおりを挟む
 小田原の包囲が完了した。





    一夜城跡砲台がようやく完成した。総数800門。包囲している軍に分散配置で400門。合わせて1200門。史上最大の門数を揃えた。

    「石田征夷大将軍、攻撃準備整いました。」

    「・・・大将で良い。ではいこうか。攻撃開始。」




ルシア小田原要塞司令官ランキン中将

    小田原要塞は周囲9キロを分厚いルシアンコンクリートの壁で囲っている。高さ5メートル、厚さ5メートル。壁の上は兵が詰めている。重要拠点だと、この壁が2重になっている。ルシアンコンクリートの特徴は速乾性だ。すぐに固まり始める。破壊された城壁などには持ってこいなのである。大穴が開けられても、夜にこっそり職人が穴の空いた場所まで降りてルシアンコンクリートを塗り込めば、すぐ乾く。この製法はヨーロッパにおいても門外不出となっている。

    小田原要塞は守備兵力3万、砲60門で固めている。

    「新潟に早馬は出したか?備蓄食料の残高を報告せよ。武器・弾薬もだ。」

     参謀長イーラン少将が答える。

    「食料備蓄3ヶ月分、弾薬も30基数あります。新潟から援軍が来るまでは持ちこたえられるでしょう。」

    「敵は皇国の主力か?10万は軽く越えてるな。きついぞ。」

    「なあに、援軍の来ない籠城ではありません。援軍が来るまで数日の辛抱ですよ。」

    実際はその数日が持たなかった。



皇国東方方面軍砲兵隊椿准将

    椿大佐は千曲の戦いの戦功により准将に昇進していた。林大佐も同じく准将に昇進。皇国砲兵隊は出来たばかりで人材がいない。逆に昇進も早かった。

    小田原の攻囲戦では椿准将が砲兵司令官、林大佐が副司令官となっている。権蔵も少尉として将校に名を連ねるようになった。

    今回の戦いも砲兵隊が主となることは決まっている。ましてや攻城戦なのだ。やらずにどうする?砲兵隊の勢いは強かった。

    今回も間接射撃である。【治兵衛13】800門を山の上に上げるのは大変だった。千曲と言い、なんだか大砲を山の上に上げる作業ばっかりしている。

    だがまあ、勝利に貢献しているのだから文句はない。

    「傾聴(けいちょおおおお)!ただ今より椿司令官閣下より訓示がある。」

    「ええ~、椿です。今回はですね、真田参謀長閣下より最初に敵の砲を重点的に狙うよう命令をいただいております。史上初の砲対砲の潰し合いですね。皆さん、頑張って下さい。」

    次に権蔵が実務注意者として訓示する。

    「ええかあ~、今回も千曲に引き続き、全弾榴弾じゃあ~。試射はワシがする。方向・仰角・距離がわかったら効力射じゃあ。ワシらは1200門、相手は100門もな~い!しかもこっちからは相手が丸見えじゃあ。負けるはずがない。きばれやあ~。」

    「おおおおおっ!」

 一夜城の二の丸の先には物見櫓が建てられている。そこから射撃のための諸元を受ける予定だ。例によって小田原要塞からは見えない位置に砲兵隊はいる。

 さっき椿准将と一緒に最初に撃つ弾の諸元を確認している。

 「あそこだ。砲兵陣地が見えますか?」

    椿准将、権蔵に対しても丁寧な言葉使いが抜けない。

    「見えます。諸元が揃ったら一発食らわせてやりますか。」

    あと2カ所からの観測値で諸元が決まる。権蔵、三角測量はお手のものになってきている。

    「一発目から当ててやりますよ。」

    「撃てえ!」

    要塞の中心部あたりにあるルシアの砲兵陣地で突如爆発が起こった。

    「よし、諸元よし。効力射開始!」

    

ルシア小田原要塞砲兵隊ルシチェンコ大佐

    突如、山の方角から飛来する無数の砲弾。砲弾は見えるが砲は視認出来ない。

    「見えなくても構わん。やまの向こうに撃ち返せ!」


    見えてる1200門とめくら撃ちの数十門。勝負はハナから決まっていた。ルシア側の砲はまたたく間に壊滅する。

    「次はあの食料庫と思われる建物。」

    ドドドドーン!

    「次はあの弾薬庫と思われる建物。」

    ドドドドーン!

    皇国軍は砲が潰されたからと言って、すぐには城門に殺到せず、ピンポイントで砲撃を続けて行く。まあ・・・なぶり殺しだ。

    砲撃を続けること半日、遂にルシア小田原要塞は降伏した。

 以後、ルシアも山から見下ろせる場所に要塞を作るなどとの愚かなことはしなくなった。ただ、これはアーネンの怠慢以外のなにものでもなかった。実はアーネン、小田原要塞を検分していない。

    見ていたら

    「なんじゃ、こりゃあ!」

    と叫んだに違いない。イヤ、こんな下品な言葉使いはしないだろうけれども。




皇国東方方面軍参謀長真田繁信

    「畜生、ウラジオストック艦隊に琉球ラインを脅かされている影響が出てきている。ちょっと弾薬を使いすぎた。」

    今や皇国の弾薬消費量は便所の土をほじくったくらいでは追っつかない。硝石の大量輸入が是非とも確保されねばならなかった。

    海軍の増強を急いで補給ラインを守らねば、皇国の明日はなかった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...