上 下
71 / 96
第7章 また混乱

5 博多攻囲戦 4

しおりを挟む
皇国呉軍港

    ようやく蒸気艦6隻が揃った。旗艦畝傍(うねび)3千トン、速力13ノット、30キロ砲36門。30キロとは砲弾の重さを表す。ルシアの160ミリ砲に相当する。160ミリとは砲口の直径だと思ってもらえればいい。36門搭載だが片舷だと18門となる。

    3千トン艦がもう1隻。同形艦江田島だ。他の4隻は千トン艦茶臼(ちゃうす)、古鷹(ふるたか)、古観音(こかんのん)、立(たて)だ。速力13ノット、9キロ砲搭載。

    3千トン級は30キロ砲の攻撃に耐える装甲を持っている。1千トン級は9キロ砲の攻撃に耐える。つまり、同形艦の攻撃には耐える装甲を備えるのが皇国の基本思想だ。これはルシアも踏襲(とうしゅう)している。なぜか?合理的だからだ。同形艦の攻撃に一瞬で装甲をぶち破られたら、皇国の建艦は破綻するだろう。作っても作っても、沈んでしまったら追いつかない。長持ちしてくれないと困るのだ。軍艦はそんなに安いものではないのだよ。

    畝傍艦長生島〔いくしま〕大佐。木島艦長が戦隊長に昇格したのに伴い、副長から昇格した。木島准将が艦橋に入ってくる。生島艦長以下が全員起立する。

    「戦隊長に敬礼!」

    ザッという擬音が聞こえてきそうな感じで、皆一斉に敬礼する。

    「戦隊はただいまより呉を出港し、博多攻撃に向かう。諸君の奮励努力(ふんれいどりょく)に期待する。」

    木島戦隊は畝傍を先頭に単縦陣を組み、しずしずと出港して行く。盛大な見送りなどはない。軍事行動なのだ。

    関門海峡に入り、壇ノ浦の合戦跡を通りすぎる。潮の流れは早そうだが、蒸気艦には関係がない。関門海峡を出て、玄界灘に入る。

    今回の任務は博多の攻撃だが、大砲が設置されていれば配置を確認して、それ以上は踏み込まないことになっている。輸送船を発見すれば、もちろん攻撃する。敵艦隊と遭遇した場合は、状況次第で対応する予定だ。

    艦隊は博多湾の入口でルシアの輸送艦隊を発見する。

    「報告!ルシアの帆船多数!輸送船と思われます。」

    「合戦準備!」

    「護衛と思われるフリゲート艦2隻、向かってきます!」

    「先頭の艦は畝傍が応戦、2番目は江田島が対応!駆逐艦(千トン艦)は輸送船を攻撃せよ!」

    帆船フリゲート艦2隻が皇国艦隊の頭を押さえるように横腹を見せる。皇国は単縦陣。ちょうどTの字だ。畝傍と江田島はフリゲート艦と並行に走るよう舵をきる。残りの4隻は輸送船に突進して行く。

    皇国側の3千トン戦列艦2隻は距離千でそれ以上近づかない。レンドル砲を一応警戒している。砲撃戦が始まる。30キロ砲弾だろう、フリゲートの1隻の帆柱が根本から吹き飛ぶ。一方、フリゲート艦の砲弾は装甲に当たってカーンという音とともに跳ね返される。

    「喫水線を狙え!浸水させて沈めろ!」

    決着がつくのに、それほど時間はかからなかった。


    一方、分離した駆逐艦隊は輸送船に襲いかかる。10数隻の輸送船たちは算を乱して、個々に逃げ始める。こうなっては固まっていてはかえって危ないからだ。

    結局、3隻が撃沈され、4隻が白旗を掲げて拿捕された。

    「ルシアの物資をぶんどれるとは愉快ですな。」

    生島艦長が木島准将に笑いかける。

    その時、それは現れた。
しおりを挟む

処理中です...