大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第7章 また混乱

6 博多攻囲戦 5

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「見張りより報告。博多の方角に煙が見えます。石炭の煙のように見えます。」

   木島准将、鋭い洞察力を見せる。

 「ルシアの蒸気艦か?それ以外考えられないな。ルシアも蒸気艦を作ったか。この情報は持ち帰らねばな。」



ルシア博多侵攻軍総司令部    アーネン・ニコライ

    「何、第5次輸送船団がやられた?弾薬運搬船が拿捕された?痛いな・・・。至急ドラコン級を向かわせろ。」

    ドラコン級とはルシア最新鋭の蒸気推進艦である。5316トン、速力15ノット、甲板上の6つの回転砲台に239ミリ砲を載せている。

    あえて説明するが、皇国語で言えば【竜級】である。砲数を減らしてでも大型化したことが大正解だったことが、この後の海戦で判明する。

    239ミリ砲。射程距離13キロである。ルシアはこの頃から大砲の規格に口径長を用いるようになる。

    239ミリ、40口径と言う表現をする。

    どういう意味か?239ミリは砲口の直径である。40口径は砲身長を表す。40口径とは239ミリの40個分という意味である。つまり239×40=9560ミリ、約10メートル弱の砲身長を持つということである。

    まだ秘密が隠されている。ウマルディ・アランネが提唱した統制射撃だ。それまでの海戦では大砲の砲手の技量に頼る個別射撃だった。だが、陸戦で真田繁信がして見せたように全体指揮官が示す諸元(この場合は回転角度と仰角)に従って全砲が撃つ統制射撃を海戦でもするべきでは?

    誰も反対しなかった。砲の射程距離も伸びている。確かに射撃を統制しないとばらつきがひどくなるだろう。なにより千曲で受けた大火力による統制射撃の衝撃はルシア軍人の脳裏に深く刻まれていた。

    もう一つレンドル苦心の新技術がある。砲弾が球形ではないのだ。先端が丸い円筒形なのだ。丸い先端に突起が出ている。【信管】だ。着弾すると、この先端が押し込まれ、爆発する。

    新機軸満載だが、やっつけ仕事は否めない。今あるのはドラコン級1番艦ドラコンだけだ。

    1隻だけのドボルザーク戦隊。名前でわかる通り戦隊長はドボルザーク中将だ。アランネも統制射撃の指揮のために乗っている。

    アーネンが言う。

    「ドボルザーク、艦は必ず持ち帰ってくれ。形勢不利なら早めに逃げろ。こいつは今のところ、ただ1隻の蒸気艦なのだ。」

    「はっ、殿下、必ずや!」

    バグラチオン博多派遣艦隊司令長官に向かって言う。

    「ブレジン、後からしゃしゃり出て悪いな。関門海峡で戦死したピョートル(ピョートル・バグラチオン艦長    バグラチオン司令長官とは親戚でも何でもない)の仇を討ってやりたくてな。あいつはワシが士官学校の教官だった頃の教え子でな。一番印象に残っているヤツだった。」


    こうしてルシアただ1隻の装甲蒸気艦は急遽(きゅうきょ)出港する。




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