73 / 96
第7章 また混乱
7 博多攻囲戦 6 (博多沖海戦)
しおりを挟む
皇国蒸気艦隊木島准将
「全艦隊に集合信号!ルシアの蒸気艦を迎え撃つ!」
旗艦畝傍に集合信号旗が昇る。畝傍・江田島以下4隻が続く単縦陣を形成する。最大戦速でルシア蒸気艦に向けて突進する。
「距離1千で左反転、右砲戦用意!」
頭を押さえてTの字を描くつもりだ。が、相手は・・・距離1万で撃って来た。当たりはしない。はるか遠弾となった。だが史上初の10キロ越えの遠距離砲戦となった。
ルシア艦隊蒸気装甲艦ドラコン
艦橋の前後に3つ、計6つの回転砲台がある。239ミリ、レンドル・カートーネン砲。砲身長10メートル。239ミリともなれば砲弾重量は軽く100キロを越す。レンドルは、この運搬のために専用の運搬車を作った。撃った後、砲身は所定の回転角・仰角に固定する。仰角はほぼ水平。砲身と同じ高さに弾丸を載せた運搬車を持って来て、兵たちが数人がかりで押し棒を使って砲口から円筒形の弾を押し込む。露天の甲板上で作業を行うのであるから、命がけである。この時代は前装砲の最期の輝きの時代と言われている。産業革命が急速に冶金学、金属加工の技術を進展させていた。
装填が終わった砲は射撃指揮官の示す諸元の回転角と仰角に固定すると、すぐに発射される。
「えんだ~ん!遠弾で~す。敵艦隊の左ななめ後方300メートル。」
ルシア式射撃統制は1番砲が撃った後、着弾を待たず2番砲がわずかに諸元を変えてうつ。3番以降も同じ。極力、時間を有効に使おうとしていた。
お互いが急速に接近しあっている中で撃っても、まず当たらない。距離もある。ではなぜ撃っているか?練習のためだ。そして撃つことによって兵の緊張もやわらげている。
畝傍木島准将
「1万で撃ってきやがった!」
遠弾となって砲弾が着弾する。
ドドーン!
「はっ、この距離で撃って当たるものかよ。弾を無駄使いしやがって。」
畝傍艦長生島大佐が驚いたように言う。
「海面に着弾して爆発しましたよ。」
「ほんとだ。【信管】を実用化したのか。むうう、先を越されたか。」
「いかがいたしますか?」
「なあに、予定通り千で反転して6隻で片舷斉射だ。」
「了解です。」
両者、急速に接近する。距離が千メートルになったとき、皇国艦隊が左に舵をきる。
「皇国艦隊、右に舵をきります。」
すかさずドボルザークが叫ぶ。
「ドラコン、面舵に転舵(おもかじにてんだ みぎに回ること)!」
皇国艦隊6隻とただ1隻のルシア艦隊との同航戦(千メートルの距離で同じ方向に進んでいる)が始まった。
「ウマルディー(レンドルの甥・数学者・統制射撃指揮官)出番だ。頼むぞ。」
「了解です。速力13ノット、敵に合わせろ!」
皇国側も発砲を始めている。従来通りの個別射撃だ。
「ただ今より、統制射撃本番だ。半舷斉射に入る。前部3砲塔発射!」
着弾予定時間の半分を過ぎたところで次弾を発射する。
「後部3砲塔発射!」
仰角と回転角をわずかに変えて撃っている。
「初回射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「えんだ~ん!敵左前方100メートル!」
「前部砲塔装填急げ!」
「2回目射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「えんだ~ん!敵正横80メートル!」
「よし、回転角はそのまま、仰角1度下げ!」
「前部砲塔、発射用意よし!」
「前部砲塔発射!」
皇国艦隊木島准将
「まずい、敵の砲の威力は当方の倍近くあるぞ。」
この時、味方の江田島が初めての命中弾を出す。30キロ砲弾だ。ルシア風に言うと口径166ミリ。この一発が見事命中する。ドラコンの第2砲塔。厚い装甲で覆われている。
カーン!
だが、無情にも貫通せず、弾き返される。
「ぐうう!」
偶然でもなんでも砲身などに命中していれば、グニャリと曲がって使用不能になっていただろう。だが、狙って当てられるのは神さまぐらいのものだろう。
ルシア艦ドラコン
「XX回目射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「夾叉!きょうさしましたあ!」
横に並んだ3発の着弾。その1発目と2発目のあいだに畝傍を挟んだのだ。これを【夾叉 きょうさ】と言う。
「よし、片舷斉射から一斉射撃に切り替え!後部砲塔装填急げ、前部砲塔は後部砲塔の諸元にならえ!」
そして3回目の斉射でついに命中弾が出る。
「全艦隊に集合信号!ルシアの蒸気艦を迎え撃つ!」
旗艦畝傍に集合信号旗が昇る。畝傍・江田島以下4隻が続く単縦陣を形成する。最大戦速でルシア蒸気艦に向けて突進する。
「距離1千で左反転、右砲戦用意!」
頭を押さえてTの字を描くつもりだ。が、相手は・・・距離1万で撃って来た。当たりはしない。はるか遠弾となった。だが史上初の10キロ越えの遠距離砲戦となった。
ルシア艦隊蒸気装甲艦ドラコン
艦橋の前後に3つ、計6つの回転砲台がある。239ミリ、レンドル・カートーネン砲。砲身長10メートル。239ミリともなれば砲弾重量は軽く100キロを越す。レンドルは、この運搬のために専用の運搬車を作った。撃った後、砲身は所定の回転角・仰角に固定する。仰角はほぼ水平。砲身と同じ高さに弾丸を載せた運搬車を持って来て、兵たちが数人がかりで押し棒を使って砲口から円筒形の弾を押し込む。露天の甲板上で作業を行うのであるから、命がけである。この時代は前装砲の最期の輝きの時代と言われている。産業革命が急速に冶金学、金属加工の技術を進展させていた。
装填が終わった砲は射撃指揮官の示す諸元の回転角と仰角に固定すると、すぐに発射される。
「えんだ~ん!遠弾で~す。敵艦隊の左ななめ後方300メートル。」
ルシア式射撃統制は1番砲が撃った後、着弾を待たず2番砲がわずかに諸元を変えてうつ。3番以降も同じ。極力、時間を有効に使おうとしていた。
お互いが急速に接近しあっている中で撃っても、まず当たらない。距離もある。ではなぜ撃っているか?練習のためだ。そして撃つことによって兵の緊張もやわらげている。
畝傍木島准将
「1万で撃ってきやがった!」
遠弾となって砲弾が着弾する。
ドドーン!
「はっ、この距離で撃って当たるものかよ。弾を無駄使いしやがって。」
畝傍艦長生島大佐が驚いたように言う。
「海面に着弾して爆発しましたよ。」
「ほんとだ。【信管】を実用化したのか。むうう、先を越されたか。」
「いかがいたしますか?」
「なあに、予定通り千で反転して6隻で片舷斉射だ。」
「了解です。」
両者、急速に接近する。距離が千メートルになったとき、皇国艦隊が左に舵をきる。
「皇国艦隊、右に舵をきります。」
すかさずドボルザークが叫ぶ。
「ドラコン、面舵に転舵(おもかじにてんだ みぎに回ること)!」
皇国艦隊6隻とただ1隻のルシア艦隊との同航戦(千メートルの距離で同じ方向に進んでいる)が始まった。
「ウマルディー(レンドルの甥・数学者・統制射撃指揮官)出番だ。頼むぞ。」
「了解です。速力13ノット、敵に合わせろ!」
皇国側も発砲を始めている。従来通りの個別射撃だ。
「ただ今より、統制射撃本番だ。半舷斉射に入る。前部3砲塔発射!」
着弾予定時間の半分を過ぎたところで次弾を発射する。
「後部3砲塔発射!」
仰角と回転角をわずかに変えて撃っている。
「初回射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「えんだ~ん!敵左前方100メートル!」
「前部砲塔装填急げ!」
「2回目射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「えんだ~ん!敵正横80メートル!」
「よし、回転角はそのまま、仰角1度下げ!」
「前部砲塔、発射用意よし!」
「前部砲塔発射!」
皇国艦隊木島准将
「まずい、敵の砲の威力は当方の倍近くあるぞ。」
この時、味方の江田島が初めての命中弾を出す。30キロ砲弾だ。ルシア風に言うと口径166ミリ。この一発が見事命中する。ドラコンの第2砲塔。厚い装甲で覆われている。
カーン!
だが、無情にも貫通せず、弾き返される。
「ぐうう!」
偶然でもなんでも砲身などに命中していれば、グニャリと曲がって使用不能になっていただろう。だが、狙って当てられるのは神さまぐらいのものだろう。
ルシア艦ドラコン
「XX回目射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「夾叉!きょうさしましたあ!」
横に並んだ3発の着弾。その1発目と2発目のあいだに畝傍を挟んだのだ。これを【夾叉 きょうさ】と言う。
「よし、片舷斉射から一斉射撃に切り替え!後部砲塔装填急げ、前部砲塔は後部砲塔の諸元にならえ!」
そして3回目の斉射でついに命中弾が出る。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる