大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第7章 また混乱

8 博多攻囲戦 7 (博多沖海戦2)

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    皇国艦隊旗艦畝傍の周囲を5つの爆発が包み込む。

    そして1発が艦尾に命中してしまった。【信管】が作動して命中と同時に爆発。スクリューがねじ曲がり、畝傍はたちまち行き足を落とす。命中が艦尾左舷よりだったため、浸水により左舷にやや傾いてしまっている。そのため、大砲も使用不能となった。

    生島艦長、負傷、意識不明。木島准将は片腕骨折だが意識はあった。

    「江田島に命令、ワレ、ワタス 、シキケン!コウコク    ノ    ミタテ    ト    ナレ!」

    江田島艦長四門中佐、1階級昇進し、新型艦を任されていた。

    「畝傍に返信。ワレ、ウケル、シキケン!コウコク    ノ    ミタテ    ト    ナレ!」

    10秒ほど瞑目し、目をひらく。

    「全艦に命令、ルシア艦に突撃!」

    

ルシア側ドラコン艦橋

    「報告!皇国艦隊、面舵(おもかじ)、突っ込んで来ます!」

    「こちらも面舵!距離を保て!敵速は?」

    「お待ち下さい。・・・13ノットです。」

    「こちらも13ノットだ!」

    ドラコン最高速力15ノット、皇国艦隊13ノット。2ノットの差が絶望的だった。彼我の距離・・・千メートルのまま。ただ、逃げているのでドラコンも後部砲塔しか使えない。

    当事者たちにとっては永遠とも感じられる時間。

    ついに江田島に239ミリ砲が命中した。今度は艦首だ。喫水線付近。大破口があき、大量の海水が侵入。江田島の行き足がガクリと落ちる。

    次の瞬間、もう1弾が甲板を突き破り、弾薬庫を直撃する。江田島、轟沈。生存者は1人もいなかった。

    指揮権は茶臼に移る。茶臼艦長後町(ごちょう)中佐。

    「歯が立たない。4艦のうち半分だけは助けよう。茶臼・子観音は呉に古鷹・立は佐世保に向かえ!幸運を祈る!」

    命をかけた残酷な丁半博打(ちょうはんばくち)だった。

    ・・・生き残ったのは茶臼・子観音だった。



    この瞬間、皇国の建造中の蒸気艦は全て陳腐化してしまった。ドラコンのドからとって皇国でも弩級艦と呼ぶようになったこの艦種の建造に血道をあげることになる。

弩級艦の定義

    1,帆を撤去して空いた甲板上に同一種類の砲を搭載する。これによって左舷も右舷も、この甲板上の砲で対応する。このことによって大砲の大型化も可能となる。(皇国は蒸気艦を装甲化までは行ったが、砲を両舷に半数ごと配置する帆船戦列艦の考えをそのまま踏襲してしまった)

    2,同一種類の砲であれば、回転角と仰角だけを全体管理する射撃統制を行うことが出来る。(砲の射程距離が伸びるほど、個別射撃より統制射撃の優位が明らかになっていく)

    3,スピードも大事(相手より優速であることが、いかに大きいか、今さら言うまでもない)

    火力・装甲・速度、この3つを全て兼ね備えて【弩級艦】である。船はどんどん大型化していく。火力を増すために、装甲を厚くするために、速度を出せる機関を搭載するために。




    博多侵攻軍総司令官アーネン・ニコライは、この日、残り10隻の戦列艦の大砲を全て博多防衛のために降ろす決定を行う。これによってルシア側の大砲総数は2千門を越すことになる。
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