大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

文字の大きさ
75 / 96
第7章 また混乱

9 博多攻囲戦 8 (護国省の決断)

しおりを挟む
護国省作戦会議室

    重苦しい空気が会議室をおおっている。

    「情報参謀、全体の状況をおさらいしてくれ。」

    「はい、説明します。1週間前の未明、博多鎮守府の松平軍3万が突如裏切り、寝込みを襲った上、鎮守府軍の全員を捕虜にします。このとき、鎮守府司令官も捕虜となりました。同時に博多湾にルシアが侵入。松平がルシアを引き入れたのです。ルシア兵力は約4万5千、博多周辺の大名はこの事態に個別に動いており、毛利・細川藩が海岸沿いに宗像に入ろうとして撃退されたという報告が入っております。」

    蜂須賀参謀長が苦虫を噛み潰したような顔で言う。

    「博多沖海戦の報告!」

    伊集院大将がまわりを見回し、海軍関係者が全て自分を見つめているのに気づいて、おいおいオレが言うのかよという顔をする。

    「こほん、え~博多沖海戦は呉より畝傍以下6隻の蒸気艦を派遣、博多沖で敵輸送艦隊を発見。護衛の帆船フリゲート艦2隻を撃破し、半数近くの輸送船を撃破・捕獲いたしました。」

    ここで机の上に置いてある報告書を取り上げる。

    「ここでルシアの蒸気艦が出現。推定5千トン。」

    ざわめきが起こる。250トンの千石船で巨大だと思っていた連中だ。3千トン艦を作った時はびっくり仰天(ぎょうてん)していた。そこへ5千トンと言われても想像力が追いつかない。

    「速力15ノットで我が方より2ノット優速。装甲は畝傍の30キロ砲の直撃を跳ね返しました。畝傍・江田島が撃沈され、残りの4隻は2手に分かれて逃走。佐世保に向かった2隻が沈みました。」

    「要は、火力・装甲・速力で全て上を行かれたわけだな。」

    「・・・その通りです。」

    「海軍の対策は?」

    「建造中の蒸気艦の一時建造停止。敵ドラコン級と同じ思想での設計変更を実施します。・・・しばらくは要塞砲に守られて港に閉じこもるしかありません。」

    「苦しくなるな。」

    「救いは敵にもドラコン級が1隻しかないことです。海から博多には手を出せませんが、琉球ラインは守れるでしょう。これからはルシアとの建艦競争となるでしょう。」

    「頼む、制海権を握らないと皇国からルシアを追い出せん。そして、当面の急は博多だ。皇太弟が自ら出向いて来ておる。・・・皇国に皇太弟に勝った実績のあるものは1人しかおらん。」

    護国省大臣・関白豊臣殿下の方を向く。

    「殿下、東方方面軍参謀長真田繁信の任を解き、博多攻略軍の司令官に任命したいと思います。」






松本城    朝

    真田繁信は久し振りに家族と朝食を取っていた。繁信の好みで長方形のテーブルで食事をする。繁信が正面に座り、その横が小夜、右側に辰千代(たつちよ)、左に小夜の妹幸(さち)、繁信の娘の美奈(みな)がちょこんと座っている。

    食事のときだけは家族だけでとるようにしている。召使いは料理を並べたら、退出する。

    今日の朝食は玄米ごはんに味噌汁、白菜の浅漬け、豆腐にかつお節をまぶしたもの、鳥とかぼちゃの揚げ物だ。味噌汁には大根・人参などの具がタップリと入っている。

    味噌汁を一口すする。うまい。味噌加減が絶妙だ。白菜の浅漬けをシャクシャクと噛む。あまり漬かったものは好きではない。ほとんど生野菜に近いものが好みだ。

    幸が美奈のめんどうを見てくれている。

    「さあさ、美奈さん、こぼさないでね。あ、お茶碗をふりまわさない!ほらほら!」

    豆腐の後に揚げ物を食べる。交互に食べると油っこさが中和されて良い。おかわりは小夜がいそいそとよそってくれる。

    ふう、明日には東方方面軍に帰らねばならないな。名残惜しいことだ。

    「奥よ、又しばらく留守にするが頼むよ。」

    繁信は妻のことを奥と呼ぶ。

    「お任せくださいませ。心おきなく、お勤めなされませ。」


    そこへドタドタと無粋な足音が響く。

    「京より早馬でございます!護国省へ至急出頭せよとのこと~!」

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...