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第7章 また混乱

9 博多攻囲戦 8 (護国省の決断)

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護国省作戦会議室

    重苦しい空気が会議室をおおっている。

    「情報参謀、全体の状況をおさらいしてくれ。」

    「はい、説明します。1週間前の未明、博多鎮守府の松平軍3万が突如裏切り、寝込みを襲った上、鎮守府軍の全員を捕虜にします。このとき、鎮守府司令官も捕虜となりました。同時に博多湾にルシアが侵入。松平がルシアを引き入れたのです。ルシア兵力は約4万5千、博多周辺の大名はこの事態に個別に動いており、毛利・細川藩が海岸沿いに宗像に入ろうとして撃退されたという報告が入っております。」

    蜂須賀参謀長が苦虫を噛み潰したような顔で言う。

    「博多沖海戦の報告!」

    伊集院大将がまわりを見回し、海軍関係者が全て自分を見つめているのに気づいて、おいおいオレが言うのかよという顔をする。

    「こほん、え~博多沖海戦は呉より畝傍以下6隻の蒸気艦を派遣、博多沖で敵輸送艦隊を発見。護衛の帆船フリゲート艦2隻を撃破し、半数近くの輸送船を撃破・捕獲いたしました。」

    ここで机の上に置いてある報告書を取り上げる。

    「ここでルシアの蒸気艦が出現。推定5千トン。」

    ざわめきが起こる。250トンの千石船で巨大だと思っていた連中だ。3千トン艦を作った時はびっくり仰天(ぎょうてん)していた。そこへ5千トンと言われても想像力が追いつかない。

    「速力15ノットで我が方より2ノット優速。装甲は畝傍の30キロ砲の直撃を跳ね返しました。畝傍・江田島が撃沈され、残りの4隻は2手に分かれて逃走。佐世保に向かった2隻が沈みました。」

    「要は、火力・装甲・速力で全て上を行かれたわけだな。」

    「・・・その通りです。」

    「海軍の対策は?」

    「建造中の蒸気艦の一時建造停止。敵ドラコン級と同じ思想での設計変更を実施します。・・・しばらくは要塞砲に守られて港に閉じこもるしかありません。」

    「苦しくなるな。」

    「救いは敵にもドラコン級が1隻しかないことです。海から博多には手を出せませんが、琉球ラインは守れるでしょう。これからはルシアとの建艦競争となるでしょう。」

    「頼む、制海権を握らないと皇国からルシアを追い出せん。そして、当面の急は博多だ。皇太弟が自ら出向いて来ておる。・・・皇国に皇太弟に勝った実績のあるものは1人しかおらん。」

    護国省大臣・関白豊臣殿下の方を向く。

    「殿下、東方方面軍参謀長真田繁信の任を解き、博多攻略軍の司令官に任命したいと思います。」






松本城    朝

    真田繁信は久し振りに家族と朝食を取っていた。繁信の好みで長方形のテーブルで食事をする。繁信が正面に座り、その横が小夜、右側に辰千代(たつちよ)、左に小夜の妹幸(さち)、繁信の娘の美奈(みな)がちょこんと座っている。

    食事のときだけは家族だけでとるようにしている。召使いは料理を並べたら、退出する。

    今日の朝食は玄米ごはんに味噌汁、白菜の浅漬け、豆腐にかつお節をまぶしたもの、鳥とかぼちゃの揚げ物だ。味噌汁には大根・人参などの具がタップリと入っている。

    味噌汁を一口すする。うまい。味噌加減が絶妙だ。白菜の浅漬けをシャクシャクと噛む。あまり漬かったものは好きではない。ほとんど生野菜に近いものが好みだ。

    幸が美奈のめんどうを見てくれている。

    「さあさ、美奈さん、こぼさないでね。あ、お茶碗をふりまわさない!ほらほら!」

    豆腐の後に揚げ物を食べる。交互に食べると油っこさが中和されて良い。おかわりは小夜がいそいそとよそってくれる。

    ふう、明日には東方方面軍に帰らねばならないな。名残惜しいことだ。

    「奥よ、又しばらく留守にするが頼むよ。」

    繁信は妻のことを奥と呼ぶ。

    「お任せくださいませ。心おきなく、お勤めなされませ。」


    そこへドタドタと無粋な足音が響く。

    「京より早馬でございます!護国省へ至急出頭せよとのこと~!」

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