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第7章 また混乱

11 博多攻囲戦 10 繁信の仕込み

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    極秘作戦会議は続く。

    「島津公には全軍で唐津に待機していただきます。島津軍36,000、皇国軍正規兵30,000、計66,000。この66,000でもって唐津港から出て引津湾から上陸します。ルシアの唐津方面軍はたかだか1万程度。しかも海沿いの道から皇国が攻めてくると思っているから不意をつけます。」

    言い忘れていたが、繁信、京に出頭したときに大将に昇進している。参謀長が大将で司令官が中将では差し障りが出るからだ。

    「今、海軍の伊集院大将に頼んで近辺の船という船をかき集めてもらっています。ルシアに気づかれないよう、瀬戸内から大分・鹿児島回りで九州を半周して唐津に66,000が乗れるだけの船を集めます。」

    地図の前まで歩いて行く。コンコンとある一点を叩く。







    「上陸場所は引津湾。史上初の陸軍と海軍の協働作戦、【引津湾上陸作戦】。既に姫島と神集島(かしわじま)には、300ミリ砲を設置済みです。これでルシア艦の侵入を阻止します。

    現地の抵抗組織によると、引津湾沿岸にはルシア軍1個大隊程度しかいません。ルシアの注意は完全に唐津からの陸路に向いています。










    「上陸に成功したら、可也山(かやさん)の攻略です。同時に彦山にルシア艦牽制と唐津方面軍を攻撃するための砲台を築きます。可也山のルシア砲台は糸島の街の方を向いています。方向を変えるには工事が必要です。工事が完了する前に、落とします。時間との勝負ですね。」

    「う~む、素晴らしい。この作戦ならばいける。この島津久豊の勘が告げておる。この作戦は成功するぞ。」

    蜂須賀参謀長が海軍からの連絡参謀に確認を入れる。

    「準備はいつ頃整う?」

    「大小8千隻を調達中です。後1週間下さい。」

    「うむ、急げよ。」





ルシア軍博多侵攻軍司令部    アーネン・ニコライ

    「ついに来たか、マジックシゲノブ。」

    クツーゾフもいる。ルシア全軍に緊張が走る。

    観戦武官団はちょっと違った雰囲気だった。

    「来た、来た、きた、きたあ~。」

    ダヴー少佐が叫ぶ。

    「昨日に小倉上陸、今日佐賀の指揮所に入ったそうだ。小倉には皇国軍があふれているそうだ。」

    「シゲノブはどう来ると思う?」

    オーストリアの士官がたずねる。

    「それが、わかったら小官は今頃は元帥だよ。だが、砲兵士官として大砲が鍵になりそうな気がする。」

    「大砲が?大砲の何が鍵になるんだい?火力か?射程か?数か?」

    「わからん。けれどもこの短期間に大砲は急速に進化している。どう使うかは一部の天才には見えているという予感がしているよ。」

     「そりゃ、アーネンとシゲノブのことか?」

    「ああ、他にも見えているものがいるかもしれない。けど、指揮権があるのはこの2人だけだ。オレたちは2人が指揮した結果しか知りようがないのさ。」




    
    ウイリアム・シドニー・スミス大佐、スウェーデンの観戦武官(皇国側)だ。畝傍に乗艦していて海水浴をしている。彼も又、衝撃を受けた1人だ。

    実は彼はイギリス海軍出身なのだ。イギリス海軍においてフリゲート艦の艦長をしていたが、半給休職(英海軍において、今仕事がないから半給で休んでてという制度があった)になってしまったので、許可を得てスウェーデン海軍に勤務している。

    希望して観戦武官として畝傍に乗艦、畝傍がドラコンに沈められてしまったため、海に放り出された。

    彼の衝撃はスウェーデン海軍士官としてではなかった。英海軍士官としての衝撃だった。英海軍の保有する120隻以上の戦列艦はいったいどうなるのだ。これでは全く1からの建艦競争が始まってしまう。木製の帆船というものは、これでけっこう長持ちするのだ。数十年は使える。それをイギリスはどの国よりも大量に保有することに成功した。そうなってしまったら、その優位を崩すのは至難の技だ。だが、全く新しい軍艦デザインが提示されてしまった。ヨーロッパの海軍バランスが崩れてしまう。ワット氏が蒸気機関を発明して、まだ5年と経っていない。早い、早すぎる。至急、本国(スウェーデンとイギリス)に報告しなければならない。

    ああ、そうだ皇国とは敵対してはならない。鉄製大砲の製造ノウハウは英国には絶対必要だ。なぜなら、英国には銅が出ない。鉄で大砲を作る必要があった。これも報告書に書いておかなければならない。
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