大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第7章 また混乱

12 博多攻囲戦 11 引津湾上陸作戦

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    「明日、佐賀にて最終の作戦確認会議を行いますが、蜂須賀参謀長にお願いがあります。」

    「なにかな?」

    「蜂須賀参謀長には小倉で防御のにらみをきかせて欲しいのであります。」

    「ん?」

    「大きな声では言えませんが、毛利家です。」

    「ああ、毛利家当主だな。」

    「かの人は、性格がどうも短絡的です。独断で博多を攻めようとして、偵察を怠り、一敗地にまみれています。それに鉄軌道の敷設が遅れたのも、かの人が絡んでいるとか。」

    「ふ~む、あのボンボンの押さえか。貴様の戦いぶり、まじかで見たかったがのう。仕方ないか。」

    「すみません。参謀長しかいなくて。小倉が陥落すると、本州との連絡路が断たれ、博多攻めどころではなくなります。」

    「確かにな。武器・弾薬・兵・食料、全て小倉を経由しておる。わかった、任せろ。」

    「よろしくお願い申し上げます。」




佐賀作戦指揮所

    「配置割を発表する。小倉方面、毛利14,000・細川8,000にて22,000。佐賀方面、鍋島10,500・加藤7,000・小西7,000にて24,500。唐津方面、皇国軍30,000・島津36,000・寺沢3,600にて69,600。」

    ここで毛利秀就(ひでなり)が発言する。

    「なぜ唐津に7万近くも配置なさるか?攻めるなら平野の多い太宰府口でござろう。」

    繁信にっこり笑って答える。

    「意表を突いて唐津口から攻めるのですよ。この件は口外無用。」

    唐津から攻めるのは確かだよ。でも君には詳細は言えないんだ。ごめんよ。

    


ルシア博多侵攻軍司令部アーネン・ニコライ

    「皇国軍主力はどこにいる?」

    アーネン・ニコライが問う。クツーゾフが答える。

    「スパイの報告では小倉に22,000、佐賀に24,500、唐津に69,600です。」

    「唐津?・・・意外だ。なぜ太宰府から来ない?」

    「山と海の間が狭いところです。なぜ、わざわざ唐津でしょうね?何か理由があるはずです。」

    「・・・唐津方面軍に行く。一緒に来てくれ。」

    「かしこまりました。」



ルシア唐津方面軍

    糸島に置かれた指揮所に皇太弟殿下をお迎えする。参謀団も一緒だ。最先任曹長が号令をかける。

    「ぜんた~い、こううたああいてぇいでんかに~、け~い~れぇ~い」

    ザッ!

    見事な敬礼だった。数十人の敬礼がピタっと揃う。

    アーネン・ニコライがそそくさと足早に入ってくる。もちろん答礼はしている。

    「スヴォーロフ、このあたりで見晴らしの良いのはどこだ?」

    「見晴らしの良いところでありますか?可也山ではいかがでしょう。非常に見晴らしが良いです。」

    「そこで良い。すぐに案内してくれ。」

    「はっ、ただちに。」



可也山(かやさん)山頂

    皇太弟、参謀長、方面軍司令官たちが勢ぞろいである。みんな息が上がっている。

   「あちらが唐津湾の方角です。」

    「うむ。」

    望遠鏡を向ける。晴れていたので、山並みは見えるが唐津の街は遠すぎてぼうっとかすんでいる。ルシア軍は糸島の鹿屋あたりまで進出している。そこと唐津の間は海に山が迫って非常にせまい。大軍でも容易に防げそうだった。

    「う~む、なぜ唐津に大軍を集めた?」

    ふと後ろを振り返る。

    晴れた空と、遠くに博多湾と能古島が望めた。アーネン・ニコライの背筋に冷たいものが走った。

    「ク、クツーゾフ、クツーゾフ、あの能古島まで何キロあると思う?」

    「さあ、測量班、ここから能古島まで何キロあるか測量しろ!」

    結果はほどなく出た。

    「約14キロです。」

    「239ミリの最大射程はいくらだ?」

    「15キロです。あっ!」

    「こっちが見せつけたんだ。239ミリ以上の砲をシゲノブは絶対開発している。つまり、ここに巨大砲を設置すれば博多湾に弾が届く。直轄軍1万を直ちに可也山に移動させろ!松平もだ。3万全部持って来いと言え!」

    手を横に振る。

    「急げえ!」



    翌日は引津湾上陸作戦の予定日だった。ルシア軍5万対皇国軍7万の死闘が始まろうとしていた。
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