大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第7章 また混乱

18 博多攻囲戦 17 志摩の戦い ダミアンのカウンターチャージ

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 ルシア佐賀方面軍クリモヴィッチ中将

    「ダミアン少将を呼べ。・・・ああ、ダミアン少将、皇太弟殿下が援軍をお求めだ。1万を率いて行ってくれ。」

    「歩兵7千・騎兵3千ですか?急いでますよね?」

    「うむ。」

    「では足の速い騎兵を率いて先行します。歩兵は後から来い!」

    このとっさの判断が大金星となる。









    鳥居騎馬隊がまさに崩れようとしている、その時。

    黄金のタイミングでダミアンが登場する。素早く左翼の窮状を見てとったダミアンは繁信に対して突撃を敢行する。

    それを見ていたアーネンが叫ぶ。

    「見ろ!あれがダミアンだ!くう、抜群のタイミングで現れてくれるじゃないか?ええ?」

    思わぬ強敵の登場に真田騎馬隊の突進力が失われる。ダミアンに側面からカウンターチャージをかけられて真田騎馬隊に乱れが生じる。すかさず繁信が予備2千をダミアンの側面にカウンターをかける。

    「少し後退する。敵の援軍をいなせ。あわてるな。数はまだ、こちらの方が多い。別働隊はまだ帰ってこんか?」

    別働隊1千、土橋准将指揮。塹壕突破と同時にランキン砲台に突進中。目的はもちろんランキン砲台の殲滅だ。

    ランキン砲台。ちょうど姫島砲台の死角になった場所に作られている。24ポンド砲を主体とした炸裂砲弾を発射出来る、一番やっかいな砲台である。アーネンはこの砲台に銃兵の護衛2百をつけていた。50メートルほど前方には鉄条網が人の高さほどにとぐろを巻いている。

    別働隊1千がランキン砲台に向かって突進する。守備する銃兵が一斉に発砲する。バタバタと倒れる人馬。ランキン砲台の砲も大あわてで弾種を散弾に変えて撃って来る。

    ドーン!

    射線上にいた人馬がまとめてなぎ倒される。普通なら躊躇するところだが、そんな気配は全くない。真田指揮下にある時、兵と馬はまとうオーラが違うのだ。今、兵どもの意識は全く別のことで占められている。

    「ええかあ!この繁信、貴様らに命令する。ランキン砲台、20分でつぶしてこい!本隊が鳥居にぶつかったら、後ろからそっと離れてランキンに突進せい!20分で合格!15分ならワシの手形入り感状をやろう。そのとなりに自分の手形を押して名前を書け!ワシとお前で揃いの手形じゃあ!末代までの家宝となろうぞ!いけえええい!」

   ギラリ!別働隊の視線がランキン砲台にロックオンされる。今や将兵の繁信に対する信頼は【軍神】レベルとなっている。繁信が指揮すれば生きて帰れる、から、繁信のためなら死んでも任務を遂行する域まで達している。

    真田騎馬隊の銃が一斉に発砲される。

    パパパーン!

    そのすきに10名ほどが鉄条網に近づいて、ひとかかえもある大きな袋を投げる。内部に大量のカッターを内蔵した爆弾だ。実験で鉄条網を寸断出来ることが証明されている。

    ドドドーン!

    10カ所で鉄条網が寸断される。その上へ、さっき塹壕を渡るときに使った橋がわりの板の残りを敷いて行く。

    突入路が出来た。土橋准将が叫ぶ。

    「全軍、とつげきにぃ~、うつれええええ~い!」

    ドドドドドドっ!

    こうなっては2百の銃兵では騎馬突撃を防げない。弾込めをしている銃兵に騎馬が迫る。さっき銃を撃たなかった兵が半分いる。

    ドドドドドドっ!

    顔が見えるところまで近づく。若い。18ぐらいか。必死に装填作業をしている。顔を上げた。青い目だ。

    ドドドドドドっ!

    銃を頭に向ける。ほとんど触れ合わんばかりの距離。青い目が恐怖に見開かれる。

    パアーン!

    すれ違う。後頭部から脳漿(のうしょう)をまき散らして、のけぞる兵を置いてさらに前進する。

    今度は砲だ。これも必死に装填作業をやっている。させるか!馬の速度をなめるなよ。手投げ弾を束(たば)にして
くくった爆弾を、ひょいと砲架の上に置く。

    ガガーン!

    砲架を破壊されると砲は撃てない。砲架を破壊されて砲身が転がる。かくして1ノ岳の信号所を破壊したランキン砲台は壊滅した。

    土橋准将が叫ぶ。

    「時間は?何分経過したかあ?」

    「11分けいかあ~!」

    「3分で戻る!われにつづけえ~!」

    ドドドドド!

    かくして別働隊は全員がめでたく繁信の手形を手に入れる。3百年ほど経ったのちに、その手形は高値がついたと言う。特に戦死者への手形は繁信の弔文が書かれているため、特に高値がついたと言う。だが、一族が死に絶えでもしない限り、子孫がこれを売るようなことはなかったと言う。    
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