大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第7章 また混乱

20 博多攻囲戦 19 皇国全軍突撃

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午後3時

皇国軍司令部    真田繁信

    「アーネンめ、しぶとい。隙を見せんな。ん~、風向きはどうなってる?南東の風?・・・平澤少将の所へ行く。」


皇国軍左翼司令部

    「平澤少将、もうすぐ日が暮れる。全軍をもってルシアに総攻撃をかけようと思う。」

    「やりますか。」

    「その前に。」

    地図上の志摩稲留(しまいなとめ)の街を指す。

    「ここを砲撃で焼いてくれ。」

    「焼く?」

    「我が国の家屋は木造だ。榴弾の弾をな、鉄片の代わりに引火性の強い油なんかを詰めてくれ。街を燃やして煙にまぎれて攻撃する。」

    「あ、油と言っても急には?」

    「兵站参謀に相談してくれ。厨房の油でも良い。燃えるものならなんでもよい。急げ!」

    「は、はっ!」
    
    結局、布やら紙やらに調達出来たあらゆる油を染み込ませて榴弾に込めた。

    「撃て!」

    ドドドドドン!

    榴弾の雨が志摩稲留の街にふりそそぐ。


ルシア軍司令部    アーネン・ニコライ

    「なんだ?なんの音だ?」

    「皇国軍が志摩稲留の街を砲撃中!街のあちこちから火が出ています。」

    「クツーゾフ!なんだと思う?シゲノブが意味もなく、あんなことをするはずがない。」

    「志摩稲留は今無人です。燃えやすい木の家があるだけで・・・あ、シゲノブは志摩稲留を煙幕発生装置にするつもりでは?風向きは南東の風です。」

    「それだ!全くシゲノブめ、そういう発想はどこから出て来るのか。全軍に命令!塹壕を捨てて、視界が確保出来る地点まで下がれ!急げ!皇国軍が総攻撃をかけてくるぞ。」









午後4時

    志摩稲留の街が炎上している。そこここから猛烈な煙をふきあげ、濃密な白い煙が南東に流れて行く。ルシアの塹壕線が煙で見えなくなる。

   皇国軍が総攻撃を開始した。
 
    ルシアの塹壕には・・・誰もいなかった。ルシア軍は煙の外に出ていた。それは同時に塹壕を放棄することでもあった。又、皇国軍に押し込まれることも意味していた。

    だが、ルシアとしてはやむを得ないことだった。塹壕に固執していたら、煙りに巻かれた状態で簡単に突破されていただろう。


ルシア軍アーネン・ニコライ

    ルシア軍最高司令官の姿は軍中央の松平陣の中にあった。陣を後退させて一番心配なのは松平勢だからだ。しかもシゲノブと直接対決というもっとも負けたくない戦の中核勢力ときてきている。

    「家光殿、兵の士気はいかがかな?」

    「上々でござるよ皇太弟殿下。」

    「可也山と火山の松平勢もよく防いでくれておる。この戦、山を取られてはどうにもならんのでな。」

    「上から見下ろされては、はなはだまずうござるな。」

    アーネンは家光を可也山には登らせていない。隠してはいないが、聞かれてもいないのに可也山から博多湾が丸見えです。なんて言う気はないからだ。だが、それを抜きにしても兵法の常として上から見下ろされて良いことはあまりない。諸葛孔明に泣いて切られた馬謖(ばしょく)だって、水の補給さえ忘れなければ、山の上を占めたのは良い戦術だったのだ。

    まわりの将兵にも聞こえるように、大きな声で言う。

    「今な、佐賀から援軍が急行中だ。もう少し頑張れば、援軍が到着した時点でわれらの勝ちでござるよ。」

    「うむ、いずれにせよ、もはや我らには皇太弟殿下におすがりする以外にすべはない。ものども、ここが踏ん張りどころぞ。鬨の声をあげよ。エイエイオー!」

    エイエイオー!!!!!

    「皇国軍総攻撃のかまえ。来ます~!」

    
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