大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第7章 また混乱

22 博多攻囲戦 20 繁信戦死?

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皇国軍左翼司令部

    繁信、島津久豊、平澤少将たちが集まっている。繁信がまず発言する。

    「戦況を確認する。志摩稲留の焼き討ちにより、視界不良を作り出し敵塹壕を突破することが出来た。」

    「中央はこの島津にお任せあれ、にっくき松平を殲滅(せんめつ)してくれん。」

    島津久豊、還暦を越えてかくしゃくとしている。松平家との確執(かくしつ)もある。

    「島津公にはよくぞ3万以上の軍勢を持って来てくだされた。動員の限界に近いのじゃないですか?」

    「うむ、その通りじゃ。農民が大半じゃ。秋の収穫時期には返してやらねばならん。それにどのみち真田公のことじゃ、長引かせるつもりはなかろう?」

    「ルシアを叩き出すのは1日も早いほうが良い。なあに博多湾を見渡せる山さえ押さえれば、アーネンは自分から出て行きますよ。」

    「まったく、ワシは佐賀口から博多に仕掛けることしか頭になかった。その発想はどこから湧いてくるのかのう。じゃが、言われて見れば目からウロコじゃ。湾が見えるということは船の動きも丸見えということ。砲撃されたら、ひとたまりもない。あわてて博多から逃げるわのう。」

    「ですが、ここでアーネンの主力が待ち構えているとは予想外でした。敵も知っているということです。実を言えば、無防備の海岸に上陸して無人の野をかけて灘山まで行くつもりでした。史上初の6万の兵による敵前上陸、史上初だけに上陸そのものは意表を突いたみたいで成功しましたが、その後がいけない。」

    実はアーネンが山の重要性を知ったのは偶然なのだが、繁信も又、可也山から博多湾が見えることをまだ知らない。

    「今日中に決着をつけるつもりです。平澤少将、左翼をよろしく。ルシアの右翼はアーネンがいるし、山の上にやっかいな砲台がある。持って来た砲の大半を預けるから、なんとかおさえてくれ。山の見えないところからの間接射撃をしてきているし、観測点も隠蔽されて特定出来ない。自分が間接射撃をやる分にはよかったが、やられてみるとやっかいだな。数で絨毯(じゅうたん)砲撃をするしかない。」

    「了解です。陸揚げした砲を全て敵右翼の砲台の圧迫に使います。1千を越す砲での制圧射撃、男冥利に尽きますよ。」

    「砲には砲をもって対抗する。あとは作戦も策もない。気迫の勝負だよ。」

    居並ぶ参謀団の前で立ちあがる。

    「全員起立、お上のいます東に向かって一礼!」

    全員がザッと立ち上がり、90度の最敬礼を行う。くるりと振り返り、全員を見回して言う。

    「皇国の興廃(こうはい)は、この一戦にあり。各員はおのれの職務を全(まっと)うせよ。皇国の御盾となれ!」

     そう言って繁信は再び志摩稲留の燃える煙で視界の悪い中、愛馬赤雷(せきらい)を駆り、右翼に戻って行く。


    ・・・しばらくして戦場に噂が流れる。真田繁信が消えた?戦死したのではないか?







   
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