曇りのち晴れはキャシー日和

mic

文字の大きさ
1 / 49
プロローグ

プロローグ ①

しおりを挟む
 それは、君が反応を欲しているからじゃないのか、と修太郎さんは僕に言った。すかさずコーヒーカップに視線を逃がした僕は、ほとんど飲んでいない琥珀色の表面に、僕を見つめる修太郎さんが映っているのに気がつく。なので、そこからも目をそむけた。視線の持っていく先は、テーブルの隅だ。僕の視線の軌跡すべてが修太郎さんの計算通りみたいな気がしてきて、僕は心の中でため息をつく。
 修太郎さんは続ける。
「自己顕示欲? 他人に認められたいから? それとも、自分の存在を確かめたいからかな?」
 マシンガンのような質問攻めが、僕の心にいちいち突き刺さってくる。テーブルを挟んで向き合っているという状態では、彼の攻撃から逃げるすべはない。唯一の逃亡手段は、こっちが言葉を発して、彼の矢を止めることだけだ。
「そんな大層なことは考えていませんよ」僕は、笑いたくないと細胞を固くしている頬を強引に緩めた。引きつらなかったことが奇跡かもしれない。「僕はただ、他人が楽しんでくれればそれでいいと思っているだけです」
「ほう。なるほどね。君はだからスマホで自分に起こっているすべての事象を実況中継しているわけか」うなずきながら、修太郎さんはコーヒーカップの取っ手に触れた。親指と人差し指を擦り合わすようにして取っ手に触れていたけれど、別に飲むふうもない。無意味に遊ばせた手を引っ込めながら、修太郎さんは続ける。「俺がトイレに行っている間も、君は熱心にスマホをいじっていただろ。あれ、俺とのやり取りをツイッターかなにかに書き込んでいたわけか? 『今、僕はこんな出来事に遭遇しています、ちょっとばかりピンチかも』みたいな。それ、高校生の間で流行っているのか?」
「いえ、そんなわけでは」僕は上目遣いにちらと修太郎さんの顔を見る。すぐにコーヒーカップに視線を落とす。水面で揺れている修太郎さんは、本物ほどトゲを感じない。だから、まだマシだ。
 数秒間置いてから、修太郎さんはテーブルの上に両肘をつき、僕のほうへ身を乗り出した。「だったら、今から俺たちがやることなんて、君が最も中継したいことなんじゃないかな。極上のネタになるぞ」
 ついにきた、と僕は細く長いため息をついた。姉貴のために話し合いに来たのに、まさか交換条件を出されるとは。
 話が違うじゃないか、と僕は姉貴の顔を思い浮かべてそれに大きくバッテンをつけた。こんな相手だということを知っていたら、ここへは来なかったのに。うわべだけの姉弟愛の演出に酔いしれた僕が愚かだった。
 僕はゆっくりと店内を見渡した。小さな古い喫茶店。カウンター席の真ん中に、男性客が二人。身振り手振りを交えながら話に熱中している。カウンターの端には新聞を読んでいる初老の男性客。あとはボックス席に一組。大学生らしいカップルがサンドイッチを分け合っている。カウンターの中にはサイフォンをかき混ぜている髭のマスター。それが今現在、店内にいる人間の数だ。僕と修太郎さんを除けば、六人の人間を相手にしなきゃいけないのか。さっきからついているため息が、おのずと大きなものに変わる。どう考えても、僕には荷が重い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】『続・聖パラダイス病院』(作品260123)

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す―2人の皇子と失われた記憶【1/23本編完結】

雪城 冴
キャラ文芸
本編完結‼️【中華サスペンス】 皇帝が隠した禁忌の秘密。 それを“思い出してはいけない少女”がいた。 「その眼で見るな――」 特殊な眼を持つ少女・翠蓮は、忌み嫌われ、村を追われた。 居場所を失った彼女が頼れたのは、歌だけ。 宮廷歌姫を目指して辿り着いた都でも、待っていたのは差別と孤立。 そんな翠蓮に近づいたのは、 危険な香りをまとう皇子と、天女のように美しいもう一人の皇子だった。 だが、その出会いをきっかけに皇位争い、皇后の執着、命を狙われる日々。 追い詰められる中で、翠蓮の忘れていた記憶が揺り動く。 かつて王家が封じた“力”とは? 翠蓮の正体とは? 声を隠して生き延びるか。 それとも、すべてを賭けて歌うのか。 運命に選ばれた少女が、最後に下す決断とは――? ※架空の中華風ファンタジーです ※アルファポリス様で先行公開しており、書き溜まったらなろう、カクヨム様に移しています ※表紙絵はAI生成

処理中です...