曇りのち晴れはキャシー日和

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第三章 出会いは風のごとく

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「免停中って……ほんとなのか、それ」坂本警官の顔がマジになる。「お前、それでここまで運転してきたのか?」
「そうだよ。ここまでどころか、松山まで行くつもりだよ。ま、成り行きでしょうがないんだな、これが」
 坂本警官は、しばらくじっと修太郎さんの顔を見ていた。が、突然、はうっと声を上げてうずくまった。
「目が、目が痛い」両目を押さえる。「急に目が痛み出した。目が見えん。しばらく見えない状態が続きそうだ。この間に、運転者が交代したとしても、俺にはわからない」
「静香。お前、車の免許持ってたか?」修太郎さんが姉貴の顔を見る。
「ううん。持ってないわ。っていうかさ、教習所、途中でやめちゃったのよ。それというのもさあ、あたしの担当教官が」
「立石氏。あんたはどうだ?」姉貴の話を無視して修太郎さんが振り返った。「免許、あるかい? ペーパーでもいいんだ」
「あ、はい。一応持っています。でも、車にはほとんど乗ってなくて、だからその」立石さんが頭に手を当てる。
「代わってくれ」修太郎さんが、運転席から後方へ移動する。立石氏の腕をつかみ、運転席に押しやった。強引に座らせる。
「俺の目、もう治ったかな。まだかな」坂本警官が顔を押さえた手の指の隙間からちらとのぞいた。「おう。治った、治った」
「よかったな、なんともなくて」修太郎さんが微笑む。「お前の目も。俺たちのドライブも」
「変化がないのは、平和な証拠だ。じゃあ、気をつけていけよ。今度、コーヒーおごれよ」
「ビールくらい、サービスするよ。じゃあ、またな坂本」敬礼する坂本警官に修太郎さんが手を振り返す。「オーケー。立石氏。車を出してくれ」
 マジとも演劇ともつかない一連のシーンが終わり、僕は体から力が抜けてシートに沈み込んだ。
 なんなんだ、この人たちは。いやそれより、僕は無事に戻って来られるのだろうか。今のうちに僕だけ車を下りようかとちょっぴり考える。でも、その考えは三秒で撤回する。ダメだ。まともな人間がいなきゃ、このキャシー号はとんでもない方向へ進みそうだ。それを黙って見過ごすわけにはいかない。見捨てることは簡単だけれど、人としてどうなんだ、って話になってしまう。ああ、まいったな。善人は辛い。
 僕が頭を抱えると、菜々実が不思議そうな顔をする。「どうしたの、公彦。お腹が空いたの? 草餅ならあるよ。賞味期限の近いものが半額になってたんだ」
 ……やっぱり、下りればよかったかな。
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