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第三章
第三章 ③
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「それで納得したよ」信良が手を叩いた。「奇妙な足跡の謎が」
「奇妙な足跡の謎?」キャップ男、ジャックが信良を見た。「なんだい、それは?」
「最初、俺たちがここに入ったとき、たくさんの足跡が残されているのを見つけたんだ」信良が思い出すようにゆっくりと瞬きする。「その中でも、奇妙なものがいくつかあるんだ。まず、片方だけが前後逆向きになっている足跡。あれはゾンビさんのものだったんだね」
「たぶん、ね」ゾンビが包帯の間から息を漏らす。「もげた足を急いで付けたため、前後を間違えてしまったようだ」
「それから、子供の足。これは説明するまでもないでしょ。ケンイチ君の足跡しかない」
ケンイチがファイアー号を走らせた。それを二度、信良の足に軽く当てた。
「その通りだよ」リリィが言う。「ケンイチがそう言っているってことよ」
なんでわかるんだ、今のは読唇術かよ、と信良が僕にささやく。
「足跡を残したのは、人間だけじゃない。このファイアー号もその一つだ」信良が自分の足下にある消防車を見る。「鉄道模型のレールの跡ようなものは、こいつの走った跡だ。そして、残りの一つ、いたるところにある小さな丸い跡は、それだ」
信良がお絹さんの杖を指さした。「それをついた跡だ。頼むから、杖はそうやって正規に使ってほしい。人に向けて振り回すのは感心しないぜ」
「さっきから聞いてりゃ、なにを知ったかぶりをしているんじゃ」お絹さんがふん、と鼻を鳴らした。「そんな足跡がどうしたと言うんじゃ。わしらからしたら、当たり前のことじゃ。不思議でもなんでもないわい」
「そんなことないぜ、ばあさん」信良が手をひらひらさせる。「そんな変な跡ばかりあると、この廃屋はなにか犯罪に使われているんじゃないか、って思うだろ。そうすりゃ、コトが大きくなっちまう。もはや探索どころの話じゃない」
「ほほう。君は、大雑把な性格だと思っていたんだが、なかなかどうして。観察力があるじゃないか」ジャックが感心する。
「まあ、ね。これくらい当然だと言いたいけど、足跡なんて、普通はそう残るもんじゃないよね。現実は推理小説みたいに都合良くはいかないし。でも、ここが廃屋だから、都合良くいったのさ。廃屋は、埃が積もりやすいからね。ほら、今でもあちこちにそれらの跡が残されているだろ。見なよ」信良が床を指さした。
ところが、床に複数あったはずの跡がきれいに消え去っていた。誰の足跡も残されていない。
「え? そんなバカな」信良がうろたえた。いや、僕だって驚いたし、冴子や花江も目をぱちくりさせている。
「なによ、あんたたち。そんなこと、どうでもいいでしょ」リリィが煙草の煙を吐き出しながら言う。「みんなそろって、バカみたいよ」
椅子に座っているリリィをなにげなく見ていた僕は、あ、と声を出した。信良も気づいたようだ。
「おい、リリィさん! 普通、そんなものを廃屋に着てくるか?」信良がリリィを指さした。
リリィさんは、真っ赤なドレスを着ていたんだけれど、それが王女のドレスのように長かったのだ。地面を引きずって歩かなければならないほどに。
「あんた、さっき、ところかまわず歩き回って煙草の煙を吐き出していただろ。そのとき、ほとんどすべての足跡を消しちまったんだよ。ああ、なんてこった。これで、証拠が隠滅されちまった。俺としたことが、なんたる失態」信良が頭を抱えてうずくまる。花江が、だいじょうぶ? 信ちゃん、と寄り添った。
「で、それって、そんなに重要なことなのかい?」ジャックが尋ねる。「証拠隠滅になれば、なにか困ることでも?」
信良が顔を上げた。立ち上がる。
「いや、別に。ちょっと推理小説の探偵役をやってみたかっただけだよ。気にしないでくれるとありがたいな」そう言いながら、膝についた埃を叩いて落としていた。
「あんた、ウチで働かないかい?」お絹さんが信良に言う。「あんたなら口先だけで人をだませそうだ。必要のない借金をいかに契約してもらうかが、ウチのような小さな会社の生きる道なんだよ。営業部員なんかどうだい? いい給料、とらせるよ」
「奇妙な足跡の謎?」キャップ男、ジャックが信良を見た。「なんだい、それは?」
「最初、俺たちがここに入ったとき、たくさんの足跡が残されているのを見つけたんだ」信良が思い出すようにゆっくりと瞬きする。「その中でも、奇妙なものがいくつかあるんだ。まず、片方だけが前後逆向きになっている足跡。あれはゾンビさんのものだったんだね」
「たぶん、ね」ゾンビが包帯の間から息を漏らす。「もげた足を急いで付けたため、前後を間違えてしまったようだ」
「それから、子供の足。これは説明するまでもないでしょ。ケンイチ君の足跡しかない」
ケンイチがファイアー号を走らせた。それを二度、信良の足に軽く当てた。
「その通りだよ」リリィが言う。「ケンイチがそう言っているってことよ」
なんでわかるんだ、今のは読唇術かよ、と信良が僕にささやく。
「足跡を残したのは、人間だけじゃない。このファイアー号もその一つだ」信良が自分の足下にある消防車を見る。「鉄道模型のレールの跡ようなものは、こいつの走った跡だ。そして、残りの一つ、いたるところにある小さな丸い跡は、それだ」
信良がお絹さんの杖を指さした。「それをついた跡だ。頼むから、杖はそうやって正規に使ってほしい。人に向けて振り回すのは感心しないぜ」
「さっきから聞いてりゃ、なにを知ったかぶりをしているんじゃ」お絹さんがふん、と鼻を鳴らした。「そんな足跡がどうしたと言うんじゃ。わしらからしたら、当たり前のことじゃ。不思議でもなんでもないわい」
「そんなことないぜ、ばあさん」信良が手をひらひらさせる。「そんな変な跡ばかりあると、この廃屋はなにか犯罪に使われているんじゃないか、って思うだろ。そうすりゃ、コトが大きくなっちまう。もはや探索どころの話じゃない」
「ほほう。君は、大雑把な性格だと思っていたんだが、なかなかどうして。観察力があるじゃないか」ジャックが感心する。
「まあ、ね。これくらい当然だと言いたいけど、足跡なんて、普通はそう残るもんじゃないよね。現実は推理小説みたいに都合良くはいかないし。でも、ここが廃屋だから、都合良くいったのさ。廃屋は、埃が積もりやすいからね。ほら、今でもあちこちにそれらの跡が残されているだろ。見なよ」信良が床を指さした。
ところが、床に複数あったはずの跡がきれいに消え去っていた。誰の足跡も残されていない。
「え? そんなバカな」信良がうろたえた。いや、僕だって驚いたし、冴子や花江も目をぱちくりさせている。
「なによ、あんたたち。そんなこと、どうでもいいでしょ」リリィが煙草の煙を吐き出しながら言う。「みんなそろって、バカみたいよ」
椅子に座っているリリィをなにげなく見ていた僕は、あ、と声を出した。信良も気づいたようだ。
「おい、リリィさん! 普通、そんなものを廃屋に着てくるか?」信良がリリィを指さした。
リリィさんは、真っ赤なドレスを着ていたんだけれど、それが王女のドレスのように長かったのだ。地面を引きずって歩かなければならないほどに。
「あんた、さっき、ところかまわず歩き回って煙草の煙を吐き出していただろ。そのとき、ほとんどすべての足跡を消しちまったんだよ。ああ、なんてこった。これで、証拠が隠滅されちまった。俺としたことが、なんたる失態」信良が頭を抱えてうずくまる。花江が、だいじょうぶ? 信ちゃん、と寄り添った。
「で、それって、そんなに重要なことなのかい?」ジャックが尋ねる。「証拠隠滅になれば、なにか困ることでも?」
信良が顔を上げた。立ち上がる。
「いや、別に。ちょっと推理小説の探偵役をやってみたかっただけだよ。気にしないでくれるとありがたいな」そう言いながら、膝についた埃を叩いて落としていた。
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