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第三章
第三章 ⑲
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バスは、途中、コンビニを兼ねたガソリンスタンドに寄り、給油の間にトイレ休憩。すぐに出発した。
「郵便局に遅れてくるのは、いつもゾンビよ」とリリィが言う。「時間にルーズな人って嫌いよ」
「別に、待ち合わせしているわけじゃない」とゾンビがうめく。
「人間ってやつは、どんなことがあっても待ち合わせには遅れてはいかん。例外はなしだ」局長が胸を張ってえらそうに言う。「脚を折ったら這ってでもこい、両腕も折ったら転がってでもきやがれ、仕事ってやつはそういうもんだ」
「だから、待ち合わせしているわけじゃない」ゾンビが頭を抱えながらつぶやく。
他愛のない話に花が咲いているときだった。アクシデント発生。マイクロバスがパンクしてしまった。ガウンガウンと揺れるバスを、ジュサブローさんが路肩に停めた。急いで局長とジュサブローさんが下りる。僕も続く。
「おいおい、勘弁してくれよ」局長が真っ青になってジュサブローさんに詰め寄る。腕時計を見ながら「時間がないんだ。三十秒でタイヤ交換をやってくれ」
そんな無理ですよと、手を大きく振って答えるジュサブローさん。この局長、友人少ないだろうな。
「待ち合わせに遅れてはいけないのはわかるけどさ」とジャックもやってきた。「これはアクシデントだよ。こういう場合は仕方がないだろう? 慌てていい加減な作業をやって事故でも起きれば一大事だ」
「そりゃそうだが」眉をしかめて考えていた局長は、ジュサブローさんに言った。「どのくらいかかる? 五分くらいでできそうか?」
「うーん、誰かに手伝っていただければ、七、八分あればなんとか」
「よしわかった」局長は、携帯電話で行き先に電話をかけたようだ。「あ、私です。はい。実はちょっとトラブルに巻き込まれてしまって。はい。バスのドアが吹き飛んで、今、溶接しているところなんです。はい。ですので、一時間ほど遅れると思います。はい。では後ほど」
電話を切った局長の目が、子供のように輝いている。「ようし、時間ができた。ここらでコーヒータイムとしゃれこもうか。みんなを呼んできてくれ。いやあ、青空の下で飲むコーヒーは格別なんだよな」
僕とジャック、ジュサブローさんは埴輪のような顔で見つめ合った。時間に厳しいって話、誰がしてたっけ。
かくして、ここでおやつタイムとなってしまった。
局長がバスのトランクを開けると、お菓子がどっと流れ落ちてきた。「さあ、どれでも好きなものを食べてくれ。ちなみに、私のお勧めは、この『ぴよちゃんの恋人』だ。シール付きという太っ腹なところがいい」
ミキちゃんがお茶とともにお菓子も配って歩いた。ところで、なぜメイド服。
「あんた、いつの間に着替えたんじゃ。なぜそんなものに着替える必要があるんじゃ?」とお絹さんが尋ねた。
「ええと、局の方針ですから」とミキちゃんが答える。
「郵便局の方針にしては、スカートが短すぎないかい?」
「ええと、局長の方針ですから」ミキちゃんが微笑む。
局長がゆるりと遠ざかった。絶対に聞こえないふりをしているな、あれは。
「悔しいけど、凄まじく似合ってるわね」とリリィが言った。「でも、それは罪作りな似合い方よ。ほら、現にこんなアホ面を生み出しているし」
ミキちゃんの太モモに釘付けになっているジャックの目に、リリィは塩昆布を押しつけた。怪鳥のように叫ぶジャック。
「冴子ちゃん、て言ったっけ?」リリィが僕と冴子のほうを向く。「あなた、なんかあたしの若い頃に似ているのよねえ。いい女になりそうだわ。どう? あたしの店で働かない?」
「まだ高校に入る前ですから」冴子が微笑んだ。
「ええ? まだ中学生ですって? 嘘でしょ、信じられないわ。もう高校生だと思っていたわよ。あなた、まれに見る逸材ねえ。やっぱりウチに欲しいわ。でも、こういうことは自分で決められないのよね。相談すべきは親じゃなく彼氏。そこの彼に相談してみたら? 働いてもいいかって」
冴子が悪戯っぽく笑いながら僕を見る。「ねえ、やっぱりあたしたち付き合ったほうが、無理がないと思わない?」
僕は聞こえなかったふりをして、ぴよちゃんの恋人をかじった。あんまり美味くないや、これ。
「郵便局に遅れてくるのは、いつもゾンビよ」とリリィが言う。「時間にルーズな人って嫌いよ」
「別に、待ち合わせしているわけじゃない」とゾンビがうめく。
「人間ってやつは、どんなことがあっても待ち合わせには遅れてはいかん。例外はなしだ」局長が胸を張ってえらそうに言う。「脚を折ったら這ってでもこい、両腕も折ったら転がってでもきやがれ、仕事ってやつはそういうもんだ」
「だから、待ち合わせしているわけじゃない」ゾンビが頭を抱えながらつぶやく。
他愛のない話に花が咲いているときだった。アクシデント発生。マイクロバスがパンクしてしまった。ガウンガウンと揺れるバスを、ジュサブローさんが路肩に停めた。急いで局長とジュサブローさんが下りる。僕も続く。
「おいおい、勘弁してくれよ」局長が真っ青になってジュサブローさんに詰め寄る。腕時計を見ながら「時間がないんだ。三十秒でタイヤ交換をやってくれ」
そんな無理ですよと、手を大きく振って答えるジュサブローさん。この局長、友人少ないだろうな。
「待ち合わせに遅れてはいけないのはわかるけどさ」とジャックもやってきた。「これはアクシデントだよ。こういう場合は仕方がないだろう? 慌てていい加減な作業をやって事故でも起きれば一大事だ」
「そりゃそうだが」眉をしかめて考えていた局長は、ジュサブローさんに言った。「どのくらいかかる? 五分くらいでできそうか?」
「うーん、誰かに手伝っていただければ、七、八分あればなんとか」
「よしわかった」局長は、携帯電話で行き先に電話をかけたようだ。「あ、私です。はい。実はちょっとトラブルに巻き込まれてしまって。はい。バスのドアが吹き飛んで、今、溶接しているところなんです。はい。ですので、一時間ほど遅れると思います。はい。では後ほど」
電話を切った局長の目が、子供のように輝いている。「ようし、時間ができた。ここらでコーヒータイムとしゃれこもうか。みんなを呼んできてくれ。いやあ、青空の下で飲むコーヒーは格別なんだよな」
僕とジャック、ジュサブローさんは埴輪のような顔で見つめ合った。時間に厳しいって話、誰がしてたっけ。
かくして、ここでおやつタイムとなってしまった。
局長がバスのトランクを開けると、お菓子がどっと流れ落ちてきた。「さあ、どれでも好きなものを食べてくれ。ちなみに、私のお勧めは、この『ぴよちゃんの恋人』だ。シール付きという太っ腹なところがいい」
ミキちゃんがお茶とともにお菓子も配って歩いた。ところで、なぜメイド服。
「あんた、いつの間に着替えたんじゃ。なぜそんなものに着替える必要があるんじゃ?」とお絹さんが尋ねた。
「ええと、局の方針ですから」とミキちゃんが答える。
「郵便局の方針にしては、スカートが短すぎないかい?」
「ええと、局長の方針ですから」ミキちゃんが微笑む。
局長がゆるりと遠ざかった。絶対に聞こえないふりをしているな、あれは。
「悔しいけど、凄まじく似合ってるわね」とリリィが言った。「でも、それは罪作りな似合い方よ。ほら、現にこんなアホ面を生み出しているし」
ミキちゃんの太モモに釘付けになっているジャックの目に、リリィは塩昆布を押しつけた。怪鳥のように叫ぶジャック。
「冴子ちゃん、て言ったっけ?」リリィが僕と冴子のほうを向く。「あなた、なんかあたしの若い頃に似ているのよねえ。いい女になりそうだわ。どう? あたしの店で働かない?」
「まだ高校に入る前ですから」冴子が微笑んだ。
「ええ? まだ中学生ですって? 嘘でしょ、信じられないわ。もう高校生だと思っていたわよ。あなた、まれに見る逸材ねえ。やっぱりウチに欲しいわ。でも、こういうことは自分で決められないのよね。相談すべきは親じゃなく彼氏。そこの彼に相談してみたら? 働いてもいいかって」
冴子が悪戯っぽく笑いながら僕を見る。「ねえ、やっぱりあたしたち付き合ったほうが、無理がないと思わない?」
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