ダイヴのある風景

mic

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第四章

第四章 ②

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 全員がそろったとき、建物のわきにある掲示板の陰から、背中の曲がった老人が出てきた。
「あの方がここの管理人だ」局長がかしこまりながら言う。「すみませんでした、お待たせして」
「いやなに、私もちょうど忙しかったのでな。今、出てきたところじゃよ」そう言って、サンタのようなひげ面をしたおじいさんは笑った。
「掲示板の根元を見て」冴子が僕に言う。「煙草の吸い殻が二十本は落ちてるわよ。あのおじいさん、きっとずっとあそこで待っていたんだわ」
「僕たちがピクニックをしていたときもかい?」
「そう。あなたが、ぴよちゃんの恋人のシールをバスのフロントガラスに貼っているときも、ここで煙草を吸っていたのよ。かわいそうに」
「単純に、おじいさんが暇だったという可能性は?」
「本当はそっちの可能性が高いかもね」冴子が微笑む。「あ、なにか話すみたいよ」
「ようこそ、わが記憶の墓場へ」管理人がみんなを見回した。にっこり笑って続ける。
「ここはマイナスイオンが多いんじゃ。君たちの町だと空気一立方センチメートル当たり千個もあればいいほうだが、ここは五万個もある。一万個以上ある場所にいると病気にならないと言われているのだ。だから、私はここの生活が気に入っているのだ。ちなみに、私の頭が禿げているのは病気とは関係がない。それだけは言っておきたいと思う」グフグフ笑いをこらえながら、管理人はみんなの様子をうかがった。
 全員が黙っているのを見た管理人は、咳払いしながら「だから、そんなことはどうでもよろしい。問題は、失った記憶を取り戻せるかどうかじゃろうて」
 そうだ、そこがポイントだとジャック。
「結論を先に言おう。それは無理な相談だよ」
「なんで?」「どうしてよ」と、みんなが口々に叫ぶ。
「なんでできないの。それじゃ、がんばってここまできた甲斐がないでしょう。そこんとこ、わかって言ってんの、じいさん」とリリィが不機嫌になる。
「お菓子まで用意しましたのに、残念です」とミキ。
「私は、お菓子を食べていない」とつぶやくゾンビ。
「ちょっと待ちたまえ」管理人が、ざわつくみんなを制した。「君たちの落胆ぶりはよくわかった。よくわからないけど、よくわかった。しかしじゃ。それ以前の問題として、君たちは重大な勘違いをしておる」
「なんだろう、勘違いって?」リリィが言う。これは、ケンイチの代弁らしい。「でも僕、そもそも髭のおじいさん、嫌いなんだ。サンタなんて、本当はいなかったし」
 管理人がリリィを指さす。「君は二重人格なのかね」
 管理人は咳払いをした後、にやりと笑った。「もし、みなさんが記憶を失っているのではなく、記憶を抜き取られているとしたらどうかね?」
「な」息が詰まったような声を出したのは局長だ。「そんなことまで言っていいんですか?」
「いいんだ。また記憶を抜き取ればいいだけの話だ」
 それを聞いて、全員が反応し始めた。
「どういうことよ、それ」
「なんなんだ、いったい」
「なめているのかい」
「お菓子は食べていない」
 それらを管理人が両手を上げて制する。
「ここまできた君たちに敬意を表して、ひとつ、告白しておこう」
 おほんと咳払い。
「実を言うとだね。君たちのそれぞれが、過去に心に深い傷を負っているのだよ。かなり深い傷じゃ。そうした不幸な記憶を、強烈なショックを受けることによって喪失してしまう場合もあるが、君たちの場合はちょっと違うのだよ。君たちの深い傷跡を、ある機関が意図的に抜き取ったのだ。結果、君たちは今まで生きてきた人生の中で最も悲しむべき出来事を記憶から失ってしまうことになったのだよ」
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