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一話
しおりを挟む「…よし!行こう!」
そう言ったのは佐藤 綾乃、今日から新しい学校に入る事を楽しみにしている高校二年生だ。
「綾乃~!気を付けて行ってきなさいよ~!」
この優しそうな女の人は綾乃の母の幸恵だ。
彼女は夫が早死し、ここまで女手一つで彼女を育て上げてきた。
綾乃はそんな母を沢山困らせてきた。
父がいないといじめられていたのを母のせいにしていたのだ。
そんな過去があるため、母が言うことはたいてい守るようにしてきた。
だから髪を染めたことも、ミニスカートを履いたことも、ピアスを開けたことも無かった。
母を悲しませたくなかったから…
「大丈夫!行ってきまーす!」
そう言って彼女は歩き出した。
しばらく行くとずっと入りたかった学校が目の前にきていた。
実は綾乃は元はこの高校に入りたかったのだが、この高校と前の家とは距離があり過ぎて通えなかったのだ。
それを知った母が引越しを提案し、この高校の近くに引っ越すことが出来たのだ。
…転入する日が文化祭の日だとは知らなかったが、それでも良かった
やっとこの高校へ行ける、そう思い、門をくぐった。
「わぁ…」
文化祭は思いのほか賑わっていた。そりゃそうだ、綾乃が入りたいと思っていた高校、私立誠陵高校は美男美女がいる学校で有名だ。
しかも部活動が豊富で設備も整っており、さらに有名大学の進学率が90%以上なのだから憧れない人はいないだろう。
だが、綾乃だけは違う理由だった。
「ここが…、父さんの…」
そう、ここは父親の母校だったのだ。
母親にこの事を聞かされ、生徒会長もやったのだと聞いた時、ここに入りたいと決めたのだった。
前に一回ここに来た時に地図を貰ったので迷うことは無いが、自由に見学していいと言われているため、どうすればいいのかわからなかった。
取り敢えず色んな出し物を見て回る。
(すごい…、本当に美男美女ばっかりだ…)
そんなことを思いながら色々な出し物を見ていく。
いつしか転入生ではなく、ただ文化祭を楽しみにきた人みたいになっていた。
演劇部のお化け屋敷や、ダンス部のダンス公演、合唱部の歌声、クラフト部の作った雑貨ショップなどなどをただひたすら楽しんだ。
転入生だと自覚し直した時に聞こえたのは、知らぬ男の怒鳴り声だった。
見ると一人の青年がいかにも不良という格好をした男に胸ぐらを掴まれていた。
「え、あ、あの…」
「今当たっただろうか!!さっさと寄越せや!!」
「えっと…、商品は…、倒れないと獲得出来ないルールになっておりまして…」
どうやら射的の商品を巡っての不良による一方的な暴力らしい。
しばらく見ていると、不良がこっちを向いた。
(えっうそ!こっち見た!?)
どんどん近づいてくる不良、そして綾乃の目の前に来て言った。
「おいそこの女!なにガンつけてんだ!」
「いえ、ただ見ていただけです。」
「嘘つけ!ガンつけただろ!!」
(うわ…、面倒…)
どうしようか考えていると無視されたと思ったらしく殴られそうになる。
(うそっ!!やばっ!)
咄嗟に目をつぶるも痛みと衝撃が来ず、恐る恐る目を開けると、あの青年が拳を両手で受け止めていた。
「あの…、すみません、校内での喧嘩はやめてもらっても…?」
不良はまだ怒っていたが、青年の顔を見るなり青ざめ、逃げ帰っていった。
いきなりの事で驚いている私に彼は話しかけた。
「えっと…、大丈夫、ですか?」
「あっ、はい!大丈夫です!」
ここで、青年の姿を見てみた。
黒い髪、そして誠陵高校の制服…、ここの生徒だとすぐにわかった。
前髪が長く、目が見えないがどんな顔をしているのだろうか…
「えっと、僕が争っていたのに…、とばっちり受けてしまいましたね…、すいません!」
「大丈夫です!こちらこそ守って下さりありがとうございました!」
どうやら彼は人見知りのようだ、言葉遣いがおどおどしている。
「…あ、僕は2-Bの翔太って言います。」
「えっ!?同じ学年!?」
(てっきり背が高いから三年生かと…)
「え、二年生?そうなんだ…、えっと、敬語外していいかな?」
「うん!いいよ!私も敬語外しちゃってるし…」
「ありがとう、…あ、もし良かったら… 男「翔太~!先生が呼んでるぞ!」あ…、わかった、えっと、呼ばれちゃったから失礼するね」
「あ、うん!」
こうして翔太と別れ、ほかの出し物を見たりしていた。
翔太の事で頭がいっぱいになり、その後どうしたかは覚えていない、気づいたら家に帰っていた。
そして彼のことを考えながら眠りについた。
明日、将来のパートナーが決まると知らずに、すやすやと眠っていたのだった…
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