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15話 小さな守護者
しおりを挟む怜が決意を固めたのと同時刻、予選も中頃まで進み会場の盛り上がりも加速していた。
そして…
「予選も中盤に差し掛かってきました!次の組み合わせは…。おっと!!ここで精霊族、最強の兵器、番外個体コード・ネメシス!!」
視界の男がそう叫んだ瞬間、会場が揺れたと錯覚するような大声援が起きた。
そんな会場の中、東門から左右非対称な黒髪のツインテールをした少女が会場の中央に向かって歩いていく。所々、機械的な部品がチラチラと見えるその姿に無表情さ、さらに童顔に似つかわしくない自分の背丈と同じぐらいある異形の槍をもつ不思議な雰囲気のある少女だった。
「そして、その対戦相手は、おっと?これは無名の選手、精霊界からきた衛藤 護 選手だ!」
そうアナウンスが言った瞬間に会場の空気が一気に冷めていった。
『あれじゃ、あの人間の瞬殺で終わりじゃねぇーか』
『ちっ、つまんねーな』
『どうせ負けんだからとっとと引っ込めよ!』
会場からはそんな不満の声が流れてくる。ブーイングの嵐の中、西門から1人の少年が歩いてきた。女と見間違えてしまいそうなほどに伸ばしたセミショートの髪に中性的な顔立ち。どこをとっても良い意味で目立ちそうな雰囲気をしてる彼だが、その中でもとくに特徴的なのが白い髪の毛だった。白髪とは違い、綺麗で真っ白な雪のような色である。
出て来た瞬間に一時的な沈黙の後、女の観客達から所々黄色い声が飛ぶが少年は気にせずに中央に向かう。両者が中央で立ち止まる。
「警告します。私と貴方とでは大きな戦力差があります。貴方が私に勝つ可能性はカケラもありません。戦いを降りてください」
そう無表情に言う少女に対して
「いや、出させてもらうよ」
そう言って会場を去ろうとしない少年。
「警告はしました。これより戦闘を開始します」
そう言ってネメシスは大きな槍を構える。少年もボクシングポーズのような構えをとるが、どうしても弱々しく見えてしまう。
会場にいるほぼ全ての人がネメシスの勝利を確信していた。
しかし、ここの会場にいる全ての人はこの時はまだわからなかった。この少年が持つ覚悟の力を…。
◇
衛藤護は正義感の強い少年である。
母はからだが弱かったらしく、彼を産んだ時に死んでしまった。父は母の死のショックで自殺した。僅か三才という幼さで両親を無くした護はどうすることもできず、精霊界の孤児院の世話になることになった。
孤児院の生活には満足しており、16才になった今では子供たちや先生達の役に立つことを喜びに生きている。
しかし彼には彼自信も孤児院関係者にも知らない秘密があった。それは産まれながらにして魔術師であることだ。この世界には魔術師なるものは彼を除いて存在しない。
産まれたときに錬金術師達により実験体にされたことが魔術師になったきっかけだ。錬金術師たちは失敗作として処理したが、実際は未完成というだけだったわけだ。
彼自信が気づいてないので在る意味失敗だと言えなくもないが。
それな彼は今………
「ガハッッッ!!!」
精霊界最強の兵器であり、最強の英雄旋凱機番外個体コード・ネメシス。精霊界に住むものは勿論のこと異界でも戦争に関わった者ならば知らないものはいない伝説的な強者。
彼も勿論彼女のことは知っている。憧れの存在だともいえる。
「少年…いい加減降伏してください。これ以上は生死に関わりますよ?」
「はぁはぁ…僕がどれだけ傷つこうがそんなのは関係ない…僕には守らなきゃいけない兄弟たちがいる…あの子たちの為にここで降伏するわけにはいかないんだ!」
「そうですか……」
ドスッッ
「グッッ!!!」
ネメシスの強烈な蹴りが見るからに消耗している護の体を吹き飛ばす。飛ばされた体はゴロゴロと床を転がり、数メートルのところで静止する。護の体は動かない。観客たちは死んだのか?とじっと様子を伺う。
「審判。もう終わりでいいですよね?全く動きませんし」
彼女が審判に試合終了を促す。審判も続行不能と判断し、そうですねと言い勝敗を宣言しようとマイクを再度握ったそのときに……
「ま、待ってくれ…!まだ、僕は戦える…!」
「無理です。あなたはもう戦えません。立ち上がることも出来ていませんし…。次私があなたを蹴り飛ばせばあなたは死にますよ?」
観客も審判もうんうんと同意するように首をたてに振る。
それもそうだ。服はところどころが破れており、体からは血が滴り地面に血溜まりを作っている。実際に骨もいくつか折れているだろう。誰がどう見ても戦える状態じゃない。
「だい…じょうぶ…だよ…!!こんくらいの痛み、苦しみ…あの子たちの苦しみからしたら…大したことない!僕はまだやれる!舞踏祭は僕が獲る。僕は勝たないと駄目なんだ…!!あの子たちの…兄弟の未来が、夢がかかってるんだ!!!ネメシス!君の英雄伝説をここで終わらせる!来い…精霊界最強の英雄よ!!」
護の強い気迫と宣言に会場は静まり返り、この戦いを見守る。
無能な人間と最強の兵器との時代の流れを変えた伝説の一戦を。
「……そこまで言うならいいでしょう。私も本気を出します。死を覚悟なさい。神格武装化…ver.雷帝…」
圧倒的な力を秘めた青白い雷がネメシスの体を覆い尽くす。
ネメシスの体が消える。光速を越えた速度で移動するそれは誰の目にも留まらず護の懐へ入る。
神がかった速度と力から放たれるネメシスの本気の蹴りは護の腹を捉え遥か後方の壁に叩きつける。王二人が作った結界に守られている壁にヒビが入る。
だが、護の体は原型をとどめている。死を感じることなく破裂し霧散するはずだった護の体はボロボロではあるが無事であった。
絶対的強者から受けた次元の違う攻撃。許容できる肉体ダメージなんぞ今の100分の1でも十分すぎる程であったはずなのに。
非現実的な光景に観客もネメシスも唖然とする。そしてその次にみた光景はもうこのファンタジーな世界でもありえないものだった。
「嘘だろ…あの餓鬼化け物じゃねぇか……」
誰かがこの空間を占める大多数の意見を代弁する。
見るからに弱々しくて化け物とは程遠い少年。美しい白髪を靡かせた少年はそこに立っていた。
「……言ったでしょ?。これは時代を変える戦い。本気で来なよ…英雄様…。人間だからって遠慮してるなら。それは無駄なお節介ってやつだよ…」
「…あなたはいったい何者ですか。なぜそこまでして戦うのです?…なぜ無力な人間が私の力をかき消せるのですか?」
「質問が多いね英雄様。僕はただの出来損ないだよ。だけど、あの子たちには希望があり、夢があり、無限の可能性が秘められてる。それを僕が証明しないといけないんだ。この世界に不可能は存在しないってことを。…最後の質問だけど僕はそんなに強くはないよ…ただ目の前のことに必死なだけさ。これで、質問には全部答えたよ。さぁ…試合を続けようか英雄様!」
誰も声を出せない。試合開始前のあの弱々しく見えた少年は今、英雄を討つ怪物に思えた。
「わかりました。あなたの力、強さを見せてもらいます。これで最後にしましょう。私は今から私の持つ一番の攻撃を放ちます。それに耐えきってください。あなたがそれを喰らって生きていたら私は降参しましょう。私はあなたを殺せません」
「望むところだ!昔から頑丈な事だけが取り柄だったんだ!!僕の全てを持って君の力を受け止めて見せる!!」
護がそう叫ぶのと同時にネメシスは雷の装甲から空気を出し、浮かび上がり20メートル程上がったところで止まる。
青白い雷はより一層力強く発光し始め、上空を光で埋めていく。
「いきます…!ファイナルウェポンver.8顕現…!!!突き穿つ死翔の槍!ゲイッボルグッッッッ!!!」
雷の隙間から見える長い槍。貫かれたものは死ぬと言われている神の持つ武具を召喚する番外個体ネメシスの持つ最大の切り札。この舞踏際では神界側のエースを殺すために使う予定だったがこの少年はこの槍にふさわしいと判断した。
「……相手を必ず殺す神の槍か…。それでも…引くわけにはいかないんだぁぁ!!!」
その言葉を聞いたネメシスは少し笑い、死を呼ぶ槍を放つ。
神速の一撃は少年に迫る。少年は覚悟を決めて槍を殴る。
パリンッ
ガラスが割れるような音、その音を聞いた瞬間に王二人は驚愕する。
自身らが張った結界が破れたのだ。たいした力を込めていなかったので破れたこと事態には驚きはない。
死の槍は確実に少年に迫っていった。はずなのに槍は結界の上部、天井を突き破ったのだ。
砂埃が舞う闘技場の中央でボロボロの少年は不敵に笑う。
「ははっ…やったよ……やってみせたよ…みた…?みんな…この世に不可能や絶対なんてのは存在しないってことを……」
そう言い残し、彼は前に倒れる。死を運ぶ神搶は彼を貫けなかった。その証拠に彼にはそれらしい傷はなく、すべてかすり傷程度のものだった。
「……なるほど。あなたは本当に強い少年ですね。…コード:ネメシスは降参する。この勝負は彼の勝ちということで。……私はいつかあなたのようになれますかね?」
戦闘時の冷たい顔とは違い慈愛に満ちた優しい笑顔で護に近づき、彼を抱き抱える。
まだ意識があった彼はとても恥ずかしそうにしていたが、力が入らないようで抵抗できず大人しく運ばれることにした。
「ネメシス様、その少年は治療のためこちらであずかりますがよろしいでしょうか」
先程審判をやっていた男がネメシスに問う。
その問いにネメシスは「ふむ…」と一考すると首を横に振り審判に答える。
「いえ、それには及びませんよ」
ネメシスは一つ大きく息を吸い、観客全員に聞こえる声で宣言する。
「私!コード:ネメシスは衛藤護と精霊契約を交わす!!彼は私の盾となり私は彼の矛となる!!…衛藤護よ。私と契約を結んでくれますか」
観客も審判も王達もみな急な契約宣言により唖然とし、口を大きく開けていた。のちにりリスは語る会場のものすべてが口を開け呆然とする様子は、ものすごくまぬけというか滑稽だったそうな。
その中で、護はニヤリと笑い。
「…構わないよ。むしろ大歓迎さ。」
「はい、契約完了です。聞け!!私たちは今までの常識を塗り替える!不可能を可能とする二人だ!!私たちの存在を頭に焼き付けておけ!!」
ネメシスはそう強く言い放ち二人で会場をあとにする。
この戦闘を目撃したものは暫しの間、凍りついたままだった。
◇
なるほど……情報王が言っていた魔術師とはあれのことですか…。デタラメですね……。
そして、精霊契約による恩恵の入手。彼はこの戦争で目立つ存在になりそうですね。
はぁ…報告することが増えるなぁ……。幹也さんが直接来ればいいのに…。そしたらこんなお使いなんてせずにすんだはずなんですがねぇ。
「はぁ…頑張りますかね……幹也さんの為にも、陛下のためにも…」
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