女勇者をゾンビにしたら、回復魔法でダメージを受けるし、聖剣も持てません……

亜久里遊馬

文字の大きさ
6 / 9

第6話:お湯をかけて3分待つ(1)

しおりを挟む
 目が覚めると、臭いは消えていた。
 正確に言えば、移動していた。

「うわー! 気持ちいー!!」

 開けた場所で朝日を浴びなら、エリスが大きく背伸びをしている。
 青い髪が光を反射して美しい反面、肌はまるで日光を吸収してしまうかのように、暗くくすんでいる。
 健康的な小麦色ではなく、ただ単純に灰色で暗い。

「ゾンビが日光に当たるなよ」

 新鮮で面白い光景だが、ゾンビの肉体の基本構造はヴァンパイアを模しているとも言われている。
 ヴァンパイアは日光を浴びると灰になる。
 ゾンビにも何かしらの影響はあるはずだ。

 それでもエリスは構わずに木々の間を走り回り……今度は左手が落ちた。

「言わんこっちゃない。日光は腐敗を早めるんだろう。早くこっちにきて冷やせ。氷魔法は使っても大丈夫だろ?」

 名残惜しそうに左手を抱えながら、エリスが歩いてくる。
 同時に臭いもついてくる。
 手足が落ちないようにするコーティングも考えなければいけばいが、消臭はやはり急務だな。
 誰かとすれ違ったら厄介だし、何よりも俺が辛い。

「いいか、氷魔法だぞ。間違っても水魔法は使うなよ」

「わかってるわよ、ご主人。魔法詠唱、ブリザード」

 途端に辺りの空気が冷たくなる。
 局所魔法のコールドじゃなくて、強力な広範囲のブリザードを使ったのか!?
 何やってんだ!
 このままでは俺も氷漬けになってしまう。

「止めろ! 止めろ!! 木々が枯れてしまうぞ。コールドにして、自分だけを軽く冷やすんだ」

 しかし、彼女からの反応がない。
 さらには、いつの間にか氷の嵐も治まっている。

「よし。では、改めて氷魔法を使うんだ。ただでさえ、お前の魔力は大きいんだから、調節するんだぞ……ん?」

 俺の忠告は遅すぎたようだった。

 エリスは左手を断面につけようとした姿で固まっていた。
 ゾンビには水分が多く含まれている分、おそらく凍結までの時間が早かったのだろう。
 氷魔法もだめ、かと言って火系の魔法では消し炭になる。
 まったく難儀な身体だ。

「とりあえず……日光に当ててみるか」

 ゾンビと日光の組み合わせは悪いが、他に方法がない。
 俺はエリスに近づくと彼女の身体を持ち上げた。
 年齢に相応しく非常に軽い。
 いや……少し軽すぎないだろうか?

 嫌な予感がして、彼女の身体を下ろし、もう一度見てみる。

「凍ってるだけじゃなくて、乾燥しているのか、これは」

 水分が多いものを極低温で冷やす時、まれに水分までが昇華してしまうことがあるという。
 一言で言ってしまえば、今の彼女は冷凍ミイラになっている。
 皮膚がかさかさで、指でつつくと今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
 顔は怒ったまま固まっているようだが……、それも干からびていてよくわからない。
 さすがに、日光のもとに晒すわけにはいかないだろうな。

「どうすべきか。焚き火で温めるには時間がかかる。乾燥させずに直接温める方法は……」

 その時、以前ドワーフが、干し肉をシチューに入れて煮込んでいたのを思い出した。
 お湯であれば氷は溶け、乾燥状態からも戻せるか。

 彼女を軽く焚き火で温めつつ、お湯を沸かす。
 勇者仲間の先回りをするはずなのに、とんだところで時間をくっているな。

「お湯は、とりあえずこれぐらいでいいか。水でぬるま湯にして頭からかけてみよう。……む? お湯は果たして清浄な水に入るのか?」

 また魂が浄化しかかってしまうと本末転倒だ。
 清浄ではない水……つまり不純物を入れればよいわけか。

 俺は、近くにあるもので一番清浄ではないものを湯に入れた。
 そう、あの毒キノコだ。
 あとで容器は処分しなければいけないが、背に腹は変えられない。

 三分ほど湯をかけていると、徐々に身体が現れ、やがて顔だけ動くようになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...