女勇者をゾンビにしたら、回復魔法でダメージを受けるし、聖剣も持てません……

亜久里遊馬

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第5話:勇者は街に入れない(2)

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 水たまりに顔を映しながら、皮膚を伸ばしたりつねったりしている。

「どららも……今、装備できないよな。俺が持っていって、正直にゾンビの事も話したとして……どれだけ信用してもらえるか」

 そもそも『意思のあるゾンビ』という存在は認められていないのだ。
 最悪の場合、勇者を騙るものとして処罰されてしまうかもしれない。

「じゃあ、どうするっていうのよ、ご主人」

「今考え中だ。ところで、ご主人というのは、なんとかやめられないか? 気持ち悪い」

「私だって気持ち悪いわよ! でも勝手に言葉が出てくるんだからしょうがないじゃない! ご主人がなんとかしてよ」

「できるのなら、とっくにやってる」

 まだエリスへの指示がどこまでできるのか、よくわからない。
 俺の命令もほんの少し聞くようなのだが、大抵は自分で考えて動く。

 確実に言えるのは2つだけ。
 俺の側を離れないこと。
 俺を「ご主人」と呼ぶこと。

 この2つは俺の命令でもどうしようもない。
 実際にクリエイト・アンデッドで作られたゾンビたちの習性が影響しているのかもしれない。

「さて……休んだ後はどうするか。……エリス、お前たちの次の目的地は決まっているか? もし決まっていれば、はぐれたお前に会うため仲間がやってくるかもしれない」

「おお! それはいいアイディア! 私たちはグラッセルで休んでから、魔王幹部の被害を受けているマルス村へ行く予定だったわ」

「ふむ。それなら先回りしておくか。村なら出入り口の警備もゆるいだろう」

 仲間と会えるとわかった途端、はしゃぐエリス。
 走り回り、青髪が揺れる。
 声が森の中に響く。
 腕がと……れる?

「な、んだ!! お前それ!!」

「うわ、わわわわわ。私の腕が取れてる! 取れてるよー。もう右手でご飯食べられない!! 左利きにしないと!!」

 混乱のためか、わけのわからん事を言っている。
 ゾンビと呼べる姿ではなかったため、内部からの腐敗に対応できていなかったか。

「そ、そうだ! 水でふやかしてくっつければ治るかも!! 魔法詠唱、ウォーター!」

「それも待てえええええ!!」

 流れる清浄な水は、アンデッドを払う効果がある。
 エリスが「うおおおおおお」と、とても少女とは言えない叫び声をあげて、走り回っている。

「とりあえず、水の影響がなくなったら腕に包帯をまいておけ。しばらく安静にしていれば、自然と付くはず。ただし、今後このような事が起こらないように、コーティングする方法を考えておく」

 聞いてないか。

 周囲が少しずつ薄暗くなってきている。
 俺はテントに入り、ランプに火を灯す。
 適当な木を枕にして寝転んだ。

 一応、エリスの場所もあけている。
 ゾンビは眠らないが、気分だけでも味わったほうがいいだろう。
 
 日が完全に落ちた頃、エリスがとぼとぼと帰ってきたので、とりあえず包帯をまいたまま寝ておくように言う。

「ねえ、ご主人。ゾンビが勇者やるってやっぱり駄目なのかな?」

「さあな。とりあえず、俺は魔王討伐に同行するのは嫌だ。でも、お前の意志は否定しない。もう死んでるんだから、死ぬ気を超えてやってみたらどうだ?」

 ……せっかく答えたのに、寝てやがる。

 眠るゾンビもいるんだな。
 死霊使いとしての常識が音をたてて崩れ落ちていく。

 エリスにはああ言ったが、本当に魔王討伐なんて出来るのか?
 ゾンビになってからの彼女の能力は、おそらく大きく下がっているだろう。
 聖剣も、聖なる技・魔法も使えない。

「俺がせめてAランク以上の死霊使いだったら……」

 いや、無いものを望むのは止めておこう。
 俺も問題は一旦忘れて、眠っておくか。
 明日の移動は大変だ。

 立ち上がり、ランプの火を吹き消す。

「む……なんだこれは?」

 卵が腐ったような臭い。
 もしかしなくてもこれは……。
 隣で眠っているエリスから漂ってきていた。

 まず移動する前に消臭を考えるか。
 
 布で鼻を押さえながら、俺は体力回復のために無理矢理に眠った。
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