女勇者をゾンビにしたら、回復魔法でダメージを受けるし、聖剣も持てません……

亜久里遊馬

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第8話:ゾンビでも泊まれる宿屋(1)

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 今の時刻は……夕方前だろうか?
 1番暑い時間帯だ。
 蜃気楼が見える。
 だが、蜃気楼は遠くにあるものが近くに見えたり、上下反転して見えるだけのはずだ。

 ここには、それなりに広い砂漠にはありえない、小さな宿が建っていた。
 砂けむりが吹き荒れる中、比較的新しい白い壁が異様な存在感を放っている。
 どういう仕組かわからないが、砂は建物を迂回しているようで、壁に砂粒がついていることもない。

「いったい何だこりゃ」

「うわ! すごい! すごいよ、ご主人!! 砂漠の中に宿があるよ。身体砂まみれだしお風呂に入りたい!!」

 だからお前は水に入ると、浄化されてしまうんだよ。
 何度言ったらわかるのだろう。
 風呂への期待で目を輝かせているエリスの横で、俺は深いため息をつく。

「風呂はだめだ。コーティングできるようになれば、水に触れても平気かもしれんが、とにかく今はだめ」

「けちー! 大丈夫だって。ほら、コールド唱えがら入るから。それなら、水が触れることもないでしょ?」

「まったくもってその通りだな。ただ、それをやるとお前の思っている温かい風呂ではなくて、氷山の溶けた水に入ることになるぞ。それに、他のお客さんの迷惑になるから止めなさい」

 「それは考えていなかった!」という顔。
 頭が痛い。
 何故、こんなやつがSランクの勇者になれたんだ?
 勇者というのは知能資質は特に関係ないのか?

「それに風呂どうこう言う以前に、この宿に泊まれるかどうかが問題だ。いくら元勇者とはいえゾンビを泊めてくれるか? 駄目だったら、お前はそこの宿の側で寝てろ。道具は貸してやるから。俺は泊まる」

「は、は、薄情ものー! ご主人がそんなやつだって知らなかった! 私知らなかったよ。私の心がわからないなんて……」

「会ってまだ3日ほどだ。当たり前だろ。ただ言っとくが、お前の心はだいたい分かる。どうせ、風呂に入れないんなら旨い料理でも食おうと考えているだろ」

 エリスがビクッと反応する。
 これが人間なら、汗をだらだらと流しているかもしれない。

 ゾンビが宿の料理を食う。
 ここに至るまでは、いくつかの難関がある。
 まず泊めてくれるか、部屋での食事にしてくれるか、そして、そもそも人間の食い物を消化できるか。
 人間の肉をむさぼるというが、果たしてそれ以外のものは?

 エリスじゃ表面上の腐敗は少ない。
 腕や足が取れるが、内蔵もたぶん形をとどめているだろう。
 ただ動いていない胃に食物を詰め込んだら、内部からさらに腐っていくような気がする。

「と、とにかく宿に入ってみようよ。私、顔見えないようにフード深く被ってるからさ。受付はお願い! あ、男女だけど部屋は同じでいいわ」

「誰がゾンビ用の部屋をとるか! いつ何が起こるか、というかお前が起こすかわからないから、同じ部屋にいないと心配でたまらない。エリスの心配ではなく、従業員さんや、お客さんの心配だぞ」

 後ろで文句を言っているエルスを放置して、俺は宿へと入ってみた。
 見た目はきれいといえど、怪しい所には違いない。
 念のため、聖剣をいつでも抜けるようにしておく。

「あらあら、いらっしゃいませー」

 赤毛で豊満な胸の女性が笑顔で迎えてくれた。
 受付、廊下、階段ともに清潔に保たれていて嫌な気配は感じられない。
 正義よりは悪によった職業である死霊使いは、こういう場面では便利だ。
 自分に近しいにおいの者がいれば、それは同じ死霊使いか、あるいは魔に属するもの。

「宿泊ですか? それともお食事ですか? 宿泊は銅貨4枚、食事のみだと銅貨1枚になります」

 なんとも普通の対応だな。
 構えをとき、少し身体を楽にする。

「宿泊をお願いします。あー、後ろのこいつと2人分払いたいんですが、大丈夫ですか? かなり汚れているので、きれいな廊下の上を歩かせるのは少々気が引けまして」

 すねの辺りをエリスががんがんと蹴ってくる。
 そんな事されても、これ以外に方法はない。
 なるべく『汚い』ことを強調しなければ。

「まあ、本当に大変でしたのね。もちろん、宿泊は問題ありません。今タオルをお持ちしますわ。宿泊用の簡易な靴もおるといいでしょうね」

「お気遣い、ありがとうございます」

 思ったよりも、すんなりと入ることができた。
 持ってきてもらったタオルで雨具兼砂よけを拭いてやってから、靴をはき、部屋へと案内してもらう。

 部屋はシンプルに木製のベッドが2つと書物用の机・椅子が1つずつ。
 飯を食べるためなのか、大きめのテーブルが1つ置かれていた。

 窓は少し小さい。
 これは当然だろう。
 強度の面でも心配があるし、誰も砂漠の景色を楽しもうとは思わない。

「それでは、もう少ししましたら夕食をお持ちいたしますね。肉料理と魚料理がありますが、どちらがよろしいですか?」

「肉っ!」
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