9 / 9
第9話:ゾンビでも泊まれる宿屋(2)
しおりを挟むエリスが間髪入れず答える。
ゾンビだから肉を食べたいというのは当たり前の欲求か。
人間を食おうとしないだけ、ましと考えよう。
宿の人が戻った後、エリスがベッドに飛び込もうとしたので慌てて止める。
「真っさらなシーツが汚れてしまうだろ! ベッドカバーとして、テント用の布を使おう。雨が染み込まないものだから、お前から出てくるなんか変な液体も跳ね除けてくれるはずだ」
「えー、柔らかいベッドで寝たいー。そんなのしいたら、もさもさで気持ち悪いよー」
ふうむ。
これは意外な発見だな。
ゾンビでも、それなりに繊細な触感があるようだ。
もしかすると、人間の五感をすべて持っているのか?
ゾンビ勇者なら……ありえないこともないか。
布をベッドに敷きながら、これでエリスをぐるぐるとまいてしまえばいいのでは? と考える。
それこそミイラのようになるが、人間と言い逃れることも容易い。
マルス村にあったら買ってみるか。
しばらく俺は荷物を点検し、エリスはベッドに腰掛け、貸してもらったタオルで身体を拭いていた。
「ご主人、こっち見ないでよ!」
「お前の裸など見ないから安心しろ。俺は荷物を整理するので忙しい」
「それはそれで、なんか腹立つ! 見たいけど我慢している、ってポーズぐらいとってくれてもいいじゃない」
「はいはい、後でな。それよりも貸してもらったタオルはきちんと洗って返すんだぞ。臭いもきっちりと取るようにな。ウォーターの後に軽くファイア。あと臭いは……臭いは……まあ、臭いが取れるまでウォーターを繰り返してくれ」
この前作った毒キノコ入り消臭液は残っているが、それをかけて返すわけにもいかない。
宿で大量殺人事件が起こってしまう。
臭いについては、別の方法を要検討、か。
「夕飯をお持ちしましたー!!」
元気のありあまった声で、赤毛の娘がトレイを運んでくる。
エリスが待ちきれないと言った様子でそわそわと動いているのがわかる。
さて、今晩の料理は何かな?
久しぶりのまともな食事だ。
が……そこには何ものっていなかった
娘を見るとニコリと微笑む。
さも当然であるかのように。
「やっぱりラング外の俺の勘は当たらないってことか」
いや、「怪しいですよ」と看板を立てているような店に入ってきた俺たちが悪かったか。
「ご主人、どうしたの!?」
「エリス、もう姿は隠さなくていい。ここにいる従業員全員を魔法で縛り上げろ。俺は、他に残った人間がいないか見てくる」
宿の服を来た娘の頭が割れて、中から細かい牙の生えた大きな口が現れる。
同時に身体も不定形のぶよぶよとした塊に変わる。
「きゃーっ! ウインドスラストッ!!」
真横を風の刃が通り抜けていく。
壁を突き抜け砂漠が見える隙間ができた。
「もう少し穏やかな魔法を使えっ! とりあえず強めのコールドで足を凍らせるだけでいい。間違っても屋内で火系の大魔法は使うなよ!」
そう言いながら、聖剣リガールを両手で持って部屋から飛び出す。
片手ではとても持てない……が、両手なら俺の筋力でもなんとかなりそうだ。
他に人間がいるとして……喰われてなければいいが。
要は、砂漠にある食虫植物と同じ原理だった。
疲れて思考力の鈍った人間を集め、喰う。
部屋は1階が4室。2階も変わらないだろう。
一番近い部屋の扉を開ける。
いない!
次も、次も!!
逃げにくい2階が満室という可能性はある。
急いで駆け上がっていくと、女性の悲鳴が聞こえた。
一番奥の部屋だ。
「ホーリー、ホーリー、ホーリーッ! ごめんさない。魔力ぎれです!! 待ってくださあい!!」
ホーリー?
僧侶の上級魔法だぞ。
いくら強いとはいえ、それを連発するなんて……。
ドアノブを引きちぎるように開けると、白っぽい服の女性が、今にもモンスターに飲み込まれようとしていた。
「それ以上はやめろ!!」
俺はモンスターの頭から背中にかけて、聖剣で大きく斬り裂いた。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続きが見たいですお願いします