マッチョウィルス vs ゾンビウィルス

亜久里遊馬

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第3話:マッチョの世界

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 皆が地下室前に集まってきた。
 アガサたちも特に収穫はなかったらしい。
 数十体のゾンビをボディプレスで潰しただけだと言っていた。

「さて、いよいよお待ちかねの地下だぜ」

「心躍るのお」

 よっばらいのノリスケはおいておくとして、僕たちの準備は万端だ。
 さあ、乗り込もう! エレベーターはどこだ!?

 だが……地下室の入り口とマップに書いてある場所には、床下収納のような扉しかない。
 まさか……まさか、ね。

「おーい、兄ちゃんたち。この扉の下、階段になってる」

 ミキタケが開けた扉の下には、確かに地下へと続く階段があるが……、なんだこれ?
 これだけの洋館! ゾンビの発生源!
 もっと何かあってもいいだろう!
 研究所とか、研究所とか、研究所とか。

 これでは、せいぜい物置があるぐらいだ。

「ま、まあ。油断しないでいくわよ」

 先頭は念のためアガサだ。万が一の可能性だけど、筋肉を溶かす薬品、なんてものが出てきたら素早いアガサ以外は対応できない。
 たぶん、その薬品もマッチョウィルスには効かないんだろうけど。

 地下へと下りていく。
 想像以上に狭い階段だ。
 いや僕たちが大きすぎるのだろう。

 もし足止めをするのならば、階段をもう少し狭くすれば、僕たちは途中で詰まってしまったかもしれない。

 ぎゅうぎゅう詰めになりながらも、階下へと降り立った僕たち。
 その前に立っていたのは異様で巨大な姿の……ゾンビ? だった。


「いやー、待ちくたびれてしまったよ。どうだい? 外のアトラクションは楽しめたかい?」

 皆が、彼の口上など聞かずに叩きのめそうと前へと出た時、ミキタケが言った。

「ちょっと待って! あの人……マッチョウィルスのニオイがする」

 そう、マッチョウィルスに感染した人間は、常時汗をかき、身体の熱ですぐに乾いていく。
 その時に普通の人間では、耐えるのがかなり難しい強烈なニオイを発するのだ。

「けど、あれはゾンビにしか見えないけど」

「ああ、俺もそう思うぜ。巨大だが、ただのゾンビだ」

 そう言うと、謎のゾンビがクククと笑う。

「良いねえ、その反応。自分たちが一番強く、誰にも絶対負けないと信じている。でもね、世の中には絶対なんて言葉はないんだよ」

 地面に腕を叩きつけると、部屋が揺れ、床に大きな亀裂が入った。
 ゾンビでは……こんな事はできない。
 いくら巨大化しても、身体の脆さが残ってしまうことは、これまでの研究でもわかっていた。

 では……これはなんだろう?

「ふ、ははは!! 驚いているね!! いい顔だ。君たち筋肉バカにもわかるように簡単に説明してあげよう」

 皆の胸筋がピクリと動く。

「長い研究だったんだ。長ーい研究の末に、私はゾンビウィルスとマッチョウィルスの2つの長所を持ったウィルスを作り出した」

 ボスのテンプレ説明だ。
 そもそもゾンビウィルス、マッチョウィルスが出現してからまだ5年もたっていない。
 長い研究というには少なすぎる。

「動物実験の後……誰を実験体にしようか悩んだんだがね。感染者を制御できるかわからない。それで……自分に打ってみた、というわけさ」

「そうしたら、どうだ! この肉体! マッチョウィルスの鋼の肉体。さらに、それが壊されてもゾンビの再生能力ですぐに治る。最強とは、こういうことだと思わないか?」

 皆、目を合わせる。代表で僕が質問した。

「あなたの他には、そのウィルスの実験体はいるの?」

「いるわけないじゃないか!! 動物も全部コンクリートの中に沈めた。猿は、厄介だったがね」

 思った通りの答えだ。
 僕は、スタスタと彼の前へと歩いていった。

「な、何をやっているんだ! 私は今や最強の生物なんだぞ!!」

「あのですね。マッチョウィルスに本当に感染していたら、コンクリートに沈められても自力でぶち壊して登ってきます。それが例え小さな動物だったとしても」

 彼の襟元を掴み持ち上げる。

「だから、あなたは最強じゃないんです。残念ですが。研究、お疲れ様でした」

 そう言って、地面へと向かって叩きつけた。
 もちろん、マッチョウィルスを手に集中させて。
 埋まるという表現では生易しい。半端に強い肉体をもったせいで、コンクリートや土を突き進み、井戸のようなものができた。

「これ、どうしましょう?」

「そこに木の板あったよー。これで塞いでおいたら?」

 ミキタケからもらった板を上に載せる。

「何かこう……墓標名とか書いたらいいんですかね。多分生きてますけど」

「とは言ってもなあ、俺たちあいつの名前さえ知らないからな」

 アガサの言う通り、名乗りを上げる前に倒してしまっていた。まあ、仕方のないことだ。

「実験設備は壊せばええかの?」

 ノリスケが酔いながら聞いてくる。
 まさかアレをやるつもりなのか?

 彼は走り、途中で飛んだ。
 部屋の奥にある扉……そこへ向かってキリキリと回転しながら突っ込んでいく。
 ノリスケの技の1つ、人間ミサイル。
 よく使われる言葉だけど、彼の技ほどしっくりくるものはない。

「大丈夫かしら。地下崩れないといいけど」

 そんな心配をしていると、もぐらのように突きすすんだノリスケがこちらへと飛んで帰ってきた。

「ほぼ壊したわい」

「何かアンプルのようなもの回収しとかなくていいんですかね?」

「ま、問題ないだろうぜ。どうせこの後……」

 地響きが聞こえてきた。
 やはりそうなるのか。

「みんな、つかまって!!」

 ミキタケが足に力を込めて地面を蹴る。
 加減をしないと地面が崩れてしまうが、そこはコントロールがうまいミキタケだ。
 僕たちがちょうど1階につくように飛んでくれた。

 外へ出た僕たちが洋館を見ていると、ずぶずぶを沈んでいく。
 欠陥住宅だったのかもしれない。

「なんか、呆気なかったわね」

「そうでもないですよ。実際、あのウィルスが地上にばら撒かれたら面倒なことになりますし」

「その面倒なウィルス。試験管ごと破壊してしまったんだがの」

 あ……。

「ハハハ! 大丈夫、大丈夫ですって。ほら、帰りましょ」

 立つ鳥後を濁しまくって、僕たちは帰路についた。
 途中、何体かのゾンビを屠ったが、いつもより数が少ない気がする。

「もしかしたら……ゾンビも、絶滅していくのかもしれないな」

 アガサがボソリと呟く。

 そうなったら、何が人類の代わりになるのだろう?
 僕は運動で少しはった筋肉をほぐしながら考えた。

 マッチョウィルスか……。

 人類全体がマッチョになる日。
 それは遠い未来の話ではないのかもしれない。
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