上手な異世界での逃げ方~勇者の私は普通に生活するんで皆さん頑張ってください~

亜久里遊馬

文字の大きさ
6 / 25

第6話:領主からは逃げません!(2)

しおりを挟む
 厚い窓ガラスは粉々に砕け散った。高所から落ちる氷のように散らばっていく。きれいと思った人はぜひ触ってみて欲しい。


「領主なんとか、覚悟ーー!!」


 そう叫びながら、領主の名前さえ知らない自分に気がついた。やっぱりガッツの助言を聞いときゃよかったかな?

 ええい! ここまでくれば悩んでもしょうがない。


「お、お主は何者だ! ま、まさかワシの金を狙ってきたのか? やらんぞ! 国王にも隠してきた金じゃ!!」 


 わーい。典型的なやられ役の台詞だ。

 警備を呼んだのか、数人のガタイのいい男たちが駆けつけてくる。残念ながら細マッチョはいない。全員、例えるなら戦士のような前衛職。

 ……だったら、遠慮なく攻撃してもいいよね!


「おおおおお! この小娘がああ!!」

「おのれえ! ちょこまかと動くな……ってあれ、動いて、ない?」

「できれば受身取ってね」

 私は、男が振りかぶった拳を受け、そのまま腕を掴んで投げた。ちょっとした実験だったけれど、人間のパンチぐらいならば、痛くも痒くもない。

 それどころか、投げた男はベッドにぶつかり、そのまま眠るように気絶している。我ながら、良い場所に投げたと思う。

 他の男たちは、高価そうな壺や絵画へと投げつけた。ドラキエだって勇者には壺を割る権利があるのだから、これぐらいは問題ないでしょ。


「さあて、これでアナタ一人になりましたね。ふっふっふ……」

「こちらにはこわーいドラゴンもいますから、変なことをしないでくださいね」

「……ふふふ、我が名はガッツ。残光山を根城とする竜の王よ。そなた、我が主に手を出せば承知せぬぞ」

「ガッツ、あんたキャラ変わってない?」


 でも、効果はあったみたい。ガッツは本当にこの近くでは恐れられている竜で、誰も山には近づかない。私が山の麓へ行った時、妙に動物の姿が少なかったのもそういうことか。


「ひ、ひいいい。あのガッツ様が。何故ここに! しかもそのようなお姿で」

「ま、まあ色々とあってな。勇者様に仕えることとなったのだ。まさか……お前は勇者様のことを知らぬとは言うまいな?」

「ええ! ええ!! 世界を統べる魔王を倒すため、神が遣わせるという伝説の……」


 と、領主と目があった。腰の剣に目をやり、倒れそうになっている。この剣、ハッタリとしては使えるね。


「何とぞ、何とぞ……お許し下さい。つい魔が差しただけなのです。い、命だけは……」

「村人を操っていたのはあなたなの? ずいぶん酷いことをさせているようだけど」

「め、めっそうもございません。私は村のことを思い、産業の発展を願って……」

「すぐに術をといてね」

「はっ! わかりました!!」


 彼はあたふたと本棚を探し、一つの魔術書? を取り出した。あるページを千切ってテーブルに置かれたロウソクの炎で焼く。焼き芋を焼きたい。

 それにしても、ずいぶんと呆気なく終わっちゃったな。私としてはまったく問題ないはずなのだけど、もう少し粘ってもらいたかった。

 ……ん? 何を考えてるんだろ。私。


「これで術は解けました。やがて平常に戻るでしょう。それで私は……」

「そのことなんだけど、村の外れに小さな家を建ててくれないかしら? できるだけ可愛らしくて使いやすいものね。しばらくは食事を運んでもらえたら嬉しいかな。そのうち自炊するから」

「え、ええと。勇者様は魔王討伐に行かれるのでは?」

「も、もちろん行くんだけどね。いくら私のような最強勇者と言えど、魔王は強敵。しばらく精神統一していたいの。だからこのことは秘密ね」

「ほほう! なるほど、さすが勇者様。ではしばらく、お待ち下さい。私が手配します」


 チョロいな。でもチョロすぎる気がする。

「――ん? ご主人、あの音は何すかね? まるでたくさんの馬がこちらへ向かってきているような……」

 ほら来たよ。


「おじさん、さっきの話無しで。あ、でも村人の皆には優しくね。約束破ったらまた来るから」

「は、はひぃいいい」


 領主の館、その屋根に登ってみると、遠くから見たことのある鎧の人間たちが見えた。


「はあ、しょうがない。次の街行くわよ、次」

「うす。じゃあ、国境越えます。……けど、さっきご主人が言った家とか精神統一って……」

「まあまあ、気にしないの。色々あるのよ、勇者には」


 荷物袋にガッツを詰め込むと、館の後ろにある森へと飛び込んだ。

 領主を倒した私は、国王軍から逃げます!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転生!? だけどお気楽に暮らします。

辰巳 蓮
ファンタジー
「転生して好きに暮らしてください。ただ、不便なところをちょっとだけ、改善していってください」 とゆうことで、多少の便宜を図ってもらった「ナッキート」が転生したのは、剣と魔法の世界でした。 すいません。年表書いてたら分かりにくいところがあったので、ちょっと加えたところがあります。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める

月神世一
ファンタジー
「剣? 魔法? いいえ、俺の武器は『鈍器になるノートPC』と『時速160kmの剛速球』です」 ​あらすじ ブラックコンビニで72時間連続勤務の末、過労死した元甲子園優勝投手・赤木大地。 目覚めた彼を待っていたのは、コタツでソシャゲ三昧のダメ女神・ルチアナだった。 ​「手違いで死なせちゃった☆ 詫び石代わりにこれあげる」 ​渡されたのは、地球のAmazonもGoogleも使える『絶対破壊不能』のノートPC。 ただし、購入レートは定価の10倍という超ボッタクリ仕様!? ​「ふざけんな! 俺は静かに暮らしたいんだよ!」 ​ブラック労働はもうこりごり。大地は異世界の緩衝地帯「ポポロ村」で、地球の物資とコンビニ知識、そして「うなる右腕(ジャイロボール)」を武器に、悠々自適なスローライフを目指す! ​……はずが、可愛い月兎族の村長を助けたり、腹ペコのエルフ王女を餌付けしたり、気づけば村の英雄に!? ​元球児が投げる「紅蓮の魔球」が唸り、女神の「ボッタクリ通販」が世界を変える! 異世界コンビニ・コメディ、開店ガラガラ!

処理中です...