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第8話:魔王からはなんとか逃げられました(2)
しおりを挟む国境を越えた私たちは、商人の街ラプラスへと足を踏み入れた。今度はガッツの事前情報通り、とても活気のある街。
皆が忙しく、それでいて笑顔で街を歩き回っている。デパートというよりは……商店街って感じ。
「それで、どこに行くっすか?」
「うーん、やっぱりご飯ね。果物でもいいわー! 未知の食べ物味わいたい!」
ちなみに、露店で買った首輪とひもをつけて、まさに『ペット(使い魔?)』として連れて歩いている。本人もまんざらではないようで、羽をパタパタと動かしている。
本当は羽じゃなくて巨大な翼なんだけどね。
「あ、この果物にしよっと。赤くてリンゴみたいだけど、形は四角。それに、何よりも香りが甘い!!」
「どれどれ。おっ、これは街でも有名なカリンガですよ。水気が多くてさっぱりとした甘さ。子どもから大人まで大人気なんす」
「うーん、ガッツってここに来たわけないのにずいぶん知ってるのね」
「ええと、意外と来てるんすよね。この形で飛び回ってると目立たないので」
確かに周囲には、人間に猫耳をつけたものや、耳の長いもの、豚のようなものまでいる。街を住処としている不思議な生き物も多いみたい。これだったら、目立たたないのも納得。
「おばちゃん、これちょーだい。2個で」
「あいよ。ここで食べていくのかい?」
「もちろん、せっかく街に来たんだから歩きながら食べるよ!」
「へぇー、旅行者さんなの。それも……冒険者の方ね。だったら、武器・防具店があるから何か買っていったらいいよ。ここを歩いてきゃ看板が見えるさ」
ちょうどこの目立つ剣を何とかしたかったところだから、嬉しい。ただ……ガッツのいうように叩いてもいいのかな? 大丈夫ならついでに短剣みたいに使いやすくもして欲しいな。
そう思いながら店を離れようとした時、偉そうな声が聞こえた。
「ほほう、このツヤ! この色! まさにパーフェクトなカリンガであるな。店主よ、ぜひ私に譲ってはくれまいか?」
「やだねえ、お兄ちゃん。格好いいけどタダであげるのはねえ」
「ああー、残念だ! ティーのお供にしたかったのにー!」
あまりに目立つやり取りだったので、私もついつい振り向いてしまった。そこにいたのは、白髪長身のマントの男。肌はうらやましいほど真っ白で、細いながらも筋肉がしっかりとついている。そして何よりも……切れ長の目が似合うイケメンだ!
「それ、おごりますよ!」
「ん……これは何とも美しいレディ。ぜひ私のものとなって欲しいぐらいだ。それにあなたに果物をいただけるとは、最高の喜びだ!」
「は、ははは」
うん、関わっちゃいけないタイプのイケメンだったね。いくらカッコよくても、側にいるのが辛い。
でも約束は約束。私は、カリンガを1個買うと、彼に手渡した。手が触れた瞬間、彼が少し驚いたように感じた。
「……ん、これは何とも美味であるなあ。ぜひ、私もお礼がしたい! ちょっとそこまで付き合ってはくれぬか?」
「ええと……どこですか?」
「なあに心配ない。すぐそこの街の入口だ。そこで一緒にカリンガを食べてから、贈り物をしよう!」
ま、まあ街の近くなら安全だよね。何かあったら、叫べばいいし。……と、私が勇者だったの忘れてた。どんな強い痴漢でも簡単に撃退できるんだった。
私は彼について、街の外の木陰まで来た。そこに座り、美味しそうにカリンガを食べる。私も同じように口に入れた。
「なにこれ! ちょー美味しい!!」
「ほほう、やはり初めて食べる味だったのだな。これで……疑問も少し解けたと言える」
「疑問ってなんですか?」
一瞬だった。彼がマントを翻すと、黒いオーラっぽい何かが周囲に渦巻いていた。
「ふ、ふはははは! 物見遊山で来てみれば、なんと勇者に会えるとは。やはり魔王と勇者は引かれ合うものなのだな!!」
「あれ……今……聞きたくない言葉が出てきたんですけど、魔王っていいました?」
「いかにも! 俺は12……13代、とにかくそれぐらいの魔王のグレイである! さあ、美味いカリンガをごちそうしてくれたお礼に、きっちりと勝負をしてやろう!!」
「それ、お礼違う。いらない」
驚きのあまりカタコトのようになってしまった。魔王が商店街に! 初めての出会いはどこですか? 商店街です……って、駄目でしょ、それ!
「さあ、俺の究極魔法を受けてみよ! 詠唱に3分ぐらいかかるから待っていてくれると助かる」
私はDASHで逃げ出した! 今絶対に会っちゃいけないヤツNo.1だ。というかラスボスだ。
というわけで、私は何かブツブツと言っている自称魔王を置いて森の中に逃げ込んだってわけ。
どう? 最悪の出会いじゃない?
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