上手な異世界での逃げ方~勇者の私は普通に生活するんで皆さん頑張ってください~

亜久里遊馬

文字の大きさ
8 / 25

第8話:魔王からはなんとか逃げられました(2)

しおりを挟む

 国境を越えた私たちは、商人の街ラプラスへと足を踏み入れた。今度はガッツの事前情報通り、とても活気のある街。

 皆が忙しく、それでいて笑顔で街を歩き回っている。デパートというよりは……商店街って感じ。


「それで、どこに行くっすか?」

「うーん、やっぱりご飯ね。果物でもいいわー! 未知の食べ物味わいたい!」


 ちなみに、露店で買った首輪とひもをつけて、まさに『ペット(使い魔?)』として連れて歩いている。本人もまんざらではないようで、羽をパタパタと動かしている。

 本当は羽じゃなくて巨大な翼なんだけどね。


「あ、この果物にしよっと。赤くてリンゴみたいだけど、形は四角。それに、何よりも香りが甘い!!」

「どれどれ。おっ、これは街でも有名なカリンガですよ。水気が多くてさっぱりとした甘さ。子どもから大人まで大人気なんす」

「うーん、ガッツってここに来たわけないのにずいぶん知ってるのね」

「ええと、意外と来てるんすよね。この形で飛び回ってると目立たないので」


 確かに周囲には、人間に猫耳をつけたものや、耳の長いもの、豚のようなものまでいる。街を住処としている不思議な生き物も多いみたい。これだったら、目立たたないのも納得。


「おばちゃん、これちょーだい。2個で」

「あいよ。ここで食べていくのかい?」

「もちろん、せっかく街に来たんだから歩きながら食べるよ!」

「へぇー、旅行者さんなの。それも……冒険者の方ね。だったら、武器・防具店があるから何か買っていったらいいよ。ここを歩いてきゃ看板が見えるさ」


 ちょうどこの目立つ剣を何とかしたかったところだから、嬉しい。ただ……ガッツのいうように叩いてもいいのかな? 大丈夫ならついでに短剣みたいに使いやすくもして欲しいな。


 そう思いながら店を離れようとした時、偉そうな声が聞こえた。


「ほほう、このツヤ! この色! まさにパーフェクトなカリンガであるな。店主よ、ぜひ私に譲ってはくれまいか?」

「やだねえ、お兄ちゃん。格好いいけどタダであげるのはねえ」

「ああー、残念だ! ティーのお供にしたかったのにー!」


 あまりに目立つやり取りだったので、私もついつい振り向いてしまった。そこにいたのは、白髪長身のマントの男。肌はうらやましいほど真っ白で、細いながらも筋肉がしっかりとついている。そして何よりも……切れ長の目が似合うイケメンだ!


「それ、おごりますよ!」

「ん……これは何とも美しいレディ。ぜひ私のものとなって欲しいぐらいだ。それにあなたに果物をいただけるとは、最高の喜びだ!」

「は、ははは」


 うん、関わっちゃいけないタイプのイケメンだったね。いくらカッコよくても、側にいるのが辛い。

 でも約束は約束。私は、カリンガを1個買うと、彼に手渡した。手が触れた瞬間、彼が少し驚いたように感じた。


「……ん、これは何とも美味であるなあ。ぜひ、私もお礼がしたい! ちょっとそこまで付き合ってはくれぬか?」

「ええと……どこですか?」

「なあに心配ない。すぐそこの街の入口だ。そこで一緒にカリンガを食べてから、贈り物をしよう!」


 ま、まあ街の近くなら安全だよね。何かあったら、叫べばいいし。……と、私が勇者だったの忘れてた。どんな強い痴漢でも簡単に撃退できるんだった。

 私は彼について、街の外の木陰まで来た。そこに座り、美味しそうにカリンガを食べる。私も同じように口に入れた。


「なにこれ! ちょー美味しい!!」

「ほほう、やはり初めて食べる味だったのだな。これで……疑問も少し解けたと言える」

「疑問ってなんですか?」


 一瞬だった。彼がマントを翻すと、黒いオーラっぽい何かが周囲に渦巻いていた。


「ふ、ふはははは! 物見遊山で来てみれば、なんと勇者に会えるとは。やはり魔王と勇者は引かれ合うものなのだな!!」

「あれ……今……聞きたくない言葉が出てきたんですけど、魔王っていいました?」

「いかにも! 俺は12……13代、とにかくそれぐらいの魔王のグレイである! さあ、美味いカリンガをごちそうしてくれたお礼に、きっちりと勝負をしてやろう!!」

「それ、お礼違う。いらない」


 驚きのあまりカタコトのようになってしまった。魔王が商店街に! 初めての出会いはどこですか? 商店街です……って、駄目でしょ、それ!


「さあ、俺の究極魔法を受けてみよ! 詠唱に3分ぐらいかかるから待っていてくれると助かる」


 私はDASHで逃げ出した! 今絶対に会っちゃいけないヤツNo.1だ。というかラスボスだ。

 というわけで、私は何かブツブツと言っている自称魔王を置いて森の中に逃げ込んだってわけ。

 どう? 最悪の出会いじゃない?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

異世界に転生!? だけどお気楽に暮らします。

辰巳 蓮
ファンタジー
「転生して好きに暮らしてください。ただ、不便なところをちょっとだけ、改善していってください」 とゆうことで、多少の便宜を図ってもらった「ナッキート」が転生したのは、剣と魔法の世界でした。 すいません。年表書いてたら分かりにくいところがあったので、ちょっと加えたところがあります。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

処理中です...