上手な異世界での逃げ方~勇者の私は普通に生活するんで皆さん頑張ってください~

亜久里遊馬

文字の大きさ
17 / 25

第17話:いつか逃げるために転職してもらいます(2)

しおりを挟む
 神殿の入口。まだ少し日の当たる場所で、私は神殿の従業員の人と口論していた。早く中に入りたいのに、怖い顔をして扉を守っている。

 いっそ殺ってしまおうか。……って何を考えてるんだ、私は。暑さで頭がボーッとしているんだ。実際できるけど、殺っちゃいけないことだ。


「だーかーら、私の仲間が転職して、ついでに私も魔法を覚えたいんです。ここはその場所でしょ?」

「まったくもってその通りですが。貴方様方をお通しすることはできません」

「だって、他の人は入ってるじゃない。なんで私たちだけだめなのよ。あ……もしかしてペット禁止? そういうことなら、外につないでおくけど」

「酷いっすよ、ご主人」


 鎧の首のあたりからも汗が染み出してきている。かなり限界に近い。何か入るための条件があるわけよね? それを私たちは満たしてない。

 ……もしかして、こんな方法じゃ、ないわよね。


「えーと、袖のところが少し汚れてますよ」

「おっと、これは失礼。……さて、入っても大丈夫ですよ」


 マジかー!! こんな古典的なことやってるのか。しかも神殿なのに。聖なる場所なのに!


「な、なにをしたんです?」


 鎧を引きずりながら、ミラが問いかけてくる。何もわからない、といった顔だ。当然そうだよね。私もミラには純心でいて欲しい。できれば性癖を口に出すのは控えてもらいたいけれど。

「入ったら説明するわ。今はとにかく水を飲みましょ!!」

 親切なことに、入り口の脇に水を噴射しているものがあった。足でペダルを踏むと、水が吹き出す。あー、うちの世界にもよくあったヤツだね。人間ってけっこう同じもの作るのかもしれない。

 私が喉を潤したあと、ミラが恥ずかしそうにペダルを踏む。やめてー! お願いだから、頬を染めるのはやめてーー!!

 なんとか落ち着いた一応ミラにさっきのことを説明した。本当は聞いてほしくないけど、騙されても困るからね。


「――つまり、あの神官はワイロを受け取っているとっ!!」

「しーっ! 大きな声出さないの。聞かれるでしょ?」

「でも、ワイロを出してない人もいましたよね?」

「あれは年間パスポートってやつよ。高いけど買っとけば、出入り自由みたいな」


 本当にろくでもない事を考えるなあ。……でも待てよ? 私の世界でも宗教ってお金とってなかったっけ? あんなに堂々とはしていないけど、色々な形で受け取っていたと思う。そうしないと、その宗教自体を運営するお金がなくなるわけで。

 あれ……? もしかして自然なの? ワイロありなの?


「ワイロがまかり通っているなど、こんなところで転職なんてできませんよ! ねえ、先輩!!」

「う、うーん。それ考えてたんだけどね。私たちはここで転職したり、魔法を覚えたりするわけじゃない?」

「ええ、そうですが。それが何か?」

「転職って料金かかるんだっけ?」

「そんな話は聞いたことがありませ……あ!!」

「気づいた? つまり、あそこでワイロを受け取って神殿の運営資金にしてるってわけ。どうせなら転職料金とればいいのに。ここの世界の人の考えはわからないなあ」

「う、う……僕は未熟者でした。自分で勝手に思い込んで、憤慨して……騎士失格です……」


 泣き出してしまったので、慌てて背中をさする。ちょうど中学1年生ぐらいだっていうから仕方ないわよね。


「さ、気分を切り替えて転職&魔法の習得に行きましょう!! まずはミラの転職からね」


 肩を叩いて、手をつなぎながら歩いて行く。ミラのとても喜んでいる反応が直に伝わってくるけど、ここは母性愛的なものだから。大丈夫。
 神殿は複雑な作りをしているけど、ガッツが看板代わりになってくれるから、かなり楽だ。

 2階にあがって中央の通路を歩いて横に……としているうちに、転職の間についた。1番使われそうなところなのに、なんでこんな場所にあるんだろ?

 中は白い花が咲き乱れ、その真ん中に女性が座っている。テーブルとお客用? の椅子もある。


「さ、行ってきなさい」

「が、頑張ります!!」


 鼻息荒く出ていったミラは、何かのアンケートに答えるような感じでいくつかの書類に書き込みをし、戻ってきた。


「次、どこ行くの?」

「え、ええと。これで転職終わりです。僕、魔法使いになりました」

「あんな……事務作業で?」

「ご主人、意外と文字の力って凄いんすよ! 言霊っていいますけど、あの女の力が紙に流れて、さらにミラの書き込んだ希望にも力が伝わったんです」

「り、りくつはわからなくもないけど……」


 拍子抜けする。これは呆気なさすぎやしないかい?
 もっとこう、あるでしょ! 試験とか、資質を見るとか!!

 けれど、その思いもミラの手の上を見て無残に打ち砕かれた。


「わ、わあ!! これが魔法なんだあ。炎が勝手に出てくる。小さいけど」

「基本魔法ってヤツだな。転職すると、いくつか魔法や特技がついてくるんだ。こいつはチビファイアボール。正直戦いには使えないけど、焚き火の火をつけるのに役立つぜ」

「は、ははは……」

「……? ご主人? どうかしたっすか?」

「い、いや……何でもないの。じゃ、ミラの上位版魔法と私の魔法も覚えに行きましょ!」


 もうノリでいいや。異世界ってこういうものだって思おう。きっと私の魔法もアンケートで覚えるんだろうけど、使えるんだったら途中経過はどうだったいいよ。

 とは言っても、正直驚きがなかなか拔けない。

 どこかでスポットライトを浴びてる神様。
 私は本当にこの異世界の常識から逃げ出せるんでしょうか!?
 それとも逃げちゃ駄目なんですか!?

 答えは返ってこなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転生!? だけどお気楽に暮らします。

辰巳 蓮
ファンタジー
「転生して好きに暮らしてください。ただ、不便なところをちょっとだけ、改善していってください」 とゆうことで、多少の便宜を図ってもらった「ナッキート」が転生したのは、剣と魔法の世界でした。 すいません。年表書いてたら分かりにくいところがあったので、ちょっと加えたところがあります。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める

月神世一
ファンタジー
「剣? 魔法? いいえ、俺の武器は『鈍器になるノートPC』と『時速160kmの剛速球』です」 ​あらすじ ブラックコンビニで72時間連続勤務の末、過労死した元甲子園優勝投手・赤木大地。 目覚めた彼を待っていたのは、コタツでソシャゲ三昧のダメ女神・ルチアナだった。 ​「手違いで死なせちゃった☆ 詫び石代わりにこれあげる」 ​渡されたのは、地球のAmazonもGoogleも使える『絶対破壊不能』のノートPC。 ただし、購入レートは定価の10倍という超ボッタクリ仕様!? ​「ふざけんな! 俺は静かに暮らしたいんだよ!」 ​ブラック労働はもうこりごり。大地は異世界の緩衝地帯「ポポロ村」で、地球の物資とコンビニ知識、そして「うなる右腕(ジャイロボール)」を武器に、悠々自適なスローライフを目指す! ​……はずが、可愛い月兎族の村長を助けたり、腹ペコのエルフ王女を餌付けしたり、気づけば村の英雄に!? ​元球児が投げる「紅蓮の魔球」が唸り、女神の「ボッタクリ通販」が世界を変える! 異世界コンビニ・コメディ、開店ガラガラ!

処理中です...