魔王見習いは、最強魔王を超えるか

亜久里遊馬

文字の大きさ
10 / 17
1章:俺は魔王見習いのようです

第9話:勇者と密談する(1)

しおりを挟む
 一応、言っておこう。
 俺が悪いとは思っていないが、言っておこう。

「この前はすまなかった」

 頭を下げるが、勇者は動かない。
 もしかして、苦情を言うためにきたのか?
 俺、許してもらえるんだろうか?

「えと……僕、その前にこの服脱いでもいいですか?」

「え!? 待って待って!! 俺たちまだ会ったばかりだよ! それは駄目だよ。……ただ、どうしてもというなら……」

 勇者がメイド服をぬぐと……その中からは……金属鎧が現れた。
 あまりの事に、目が点になる。
 期待とかそういう事以前に、収納できないだろ!?

「その鎧どうなってるんだ? 明らかにおかしいよね?」

「ああ、これね。どうって言われても、この鎧って伸縮自在ってことだよ。けっこう有名な鎧だけど、知らないの?」

 勇者の話し方がずいぶんと変わったけれど、それよりも鎧だ。
 当然、知らない!
 日本で売ったら、凄いことになるだろうな。

 だが……勇者に弱みを見せるのはよくないな。
 ここはハッタリをかまそう。
 俺は『魔王見習い』なのだから。

「し、知ってるともさ。ちょっと、鎧に傷がついているみたいだから、不思議に思ったんだ」

「え? どこ? どこについてるの?」

 遠慮なく肩から鎧を脱ぎにかかろうとする。
 さすがに今度は本体が出てくる。
 それはいけない。
 個人的には大歓迎なんだけど、『魔王見習い』と勇者に関係が!?
 なんてゴシップのネタには最高だし。

「見間違いだった。ごめんごめん」

 「そっか」とパチンと鎧を戻す勇者。
 ゴム製みたいに見えるな。
 
 それにしても……まったく羞恥心がないんだな、この勇者。
 男として育てられた……とかそういう訳があるのかな。
 気になるけど、今は深くは聞かないでおこう。

「はー、これで普通に話せる。あ、この前のは気にしてないよ。僕も人を殴っちゃってたし」

 そうなんだよな。
 バールのようなもので吹き飛ばしてたからな。

「ただ、不思議なのがリュウジのあの魔法なんだよね。僕は避けたつもりなんだけど、鎧の内側から湧き出てみたいに感じた。上手く言えないんだけど、スライムを服の中に入れていたら……あんな風になるのかなって。僕の鎧は大抵の魔法は跳ね返すし、例えば内側からの呪いも受け付けない……はずなんだけどな」

 その場の事を思い出したか顔を赤らめている。
 遠慮なく、『こんにゃく』を鎧の中にぶちこんだからなあ。
 スライムみたいにぬるんぬるんするのは当然の事だ。
 とは言え、なんだ……やっぱりやり過ぎたな。

「こ、これは俺の秘密の魔法だからな。殺傷能力はないけど、相手を無力化するには効果的なんだ」

「確かに、何度も鎧に詰め込まれていったら……なんか変な気持ちになっちゃって。力が抜けちゃって立ってられなくなった。せっかく勝負をしてくれたリュウジには悪かったんだけど」

 本当にすみません!
 勇者は、どうしたの? という顔でベッドに座っているけど、自己嫌悪が酷い。
 別にそういうプレイみたいなのをするつもりはなかったんだ!
 ただ必死に戦った結果が……
 あー、テントの支柱に頭ぶつけてしばらく気絶していたい。

「あとね。担架で運んでくれた医療班の人が鎧の中見てくれたんだけど、その時は何もなかったんだって。本当、リュウジは不思議な魔法使うね」


 良かった!
 消えろと命令していなかったから、そのまま残っていたかと思った。
 スタッフが美味しくいただきました!
 はやらなくてもよかったわけか。
 不幸中の幸いだ。

 それにしても、そこまであの戦いを気にしてないのなら良かった。
 話も普通に進められる。

「で……俺のところに来たいと言ったのは、どういう理由なのかな?」

 文句でもないなら、何だ?
 『魔王見習い』への挨拶か?

「じゃあ、本題話すね」

「僕はこれから勇者ではなく……人間――キラクとして、人間の君に頼み事をする。『魔王の見習い』じゃない。リュウジっていう人間に」

「わ、わかった」

 威圧感に気圧される。これが勇者……。

「リュウジは、僕が魔王と戦ったことは知ってるよね?」

「簡単にはな。魔王城、壊したのキラクなんだろ?」

「まあね。ちょっと魔王を警戒しすぎていた。まさかこんな事になっているとは思わなかったんだ」

 キラクが悲しそうにうつむく。
 おそらく、人間とモンスターの友好関係のことだろう。
 ここは、その友好関係が特に強い。

「僕の剣と魔王の魔力で城は崩壊した。幸いにも……と言っていいのかわからないけど、二人とも無事だったんだけど」

「普通、どちらかがやられるんじゃないのか?」

「手を抜いていたんだ、あいつ。いや違うかな。守ることに全力を尽くしすぎて、バリアの方に力を込めていた。それにギリギリで気づいて僕も剣の力を弱めることができた」

「そうか……魔王のやつがそんなことを……」

「あれ? 今リュウジってば魔王のやつとか言った?」

 あー、やっちまったかな。
 でも相手は勇者だからな。

「そういう風に言うリュウジなら、本当のこと言っても大丈夫かな」

「本当のこと?」

「そう。絶対に魔王には言ってはいけない事実……。君にそれを話して、魔王の一番近くにいる君にやってほしいことがある」

「ちょ、ちょっと待て。暗殺とかはできないぞ。俺弱いし」

 もちろん、『今は』の制限つきだけど。
 せっかくチートスキルがあるんだから『ある程度』は強くなる。

「違う。魔王を襲うなんてことじゃなくて、魔王の耳にある情報が入らないようにして欲しい」

 俺は鈍く光るキラクの鎧を見る。
 こんなに華奢なのに、魔王に一度は勝っている。
 そのような少女が俺に何を頼むんだ?

 彼女の次の言葉は、俺の想定外のものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足でお城が崩れる!? 貴族が足りなくて領地が回らない!? ――そんなギリギリすぎる領地を任された転生令嬢。 現代知識と少しの魔法で次々と改革を進めるけれど、 なぜか周囲を巻き込みながら大騒動に発展していく。 「領地再建」も「恋」も、予想外の展開ばかり!? 没落領地から始まる、波乱と笑いのファンタジー開幕! ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...