魔王見習いは、最強魔王を超えるか

亜久里遊馬

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1章:俺は魔王見習いのようです

第14話:2つ目のスキルを勇者に使ってみると……

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 ランもラジャも忙しいみたいだったので、暇そうなキラクを呼んだ。
 夕飯を食べてから、部屋へと呼ぶ。
 今日の夕飯は嬉しいことに柔らかい肉のシチューだった。
 何の肉か……それは追求してはいけない。

 俺の部屋の椅子は一つだけだ。
 キラクはベッドに腰掛けた。
 今は、メイド服ではなくて鎧の上に簡素なローブを羽織っている。
 なんか新鮮だ。
 こうして見ると、本当に可愛いよな。
 勇者なんてやってなければ、男たちが一斉に求婚してきてもおかしくない。

「どうしたの? もしかしてお願いしてたことに進展があったかい?」

「それは、ぼちぼちだな。仕掛けはしたから、あとは待つだけ」

「そっかー。良かったー!!」

 少し飛び跳ねて、ベッドを揺らす。
 胸のあたりは……当然のごとく飛び跳ねない。
 背負ったら、硬い感触が背中に伝わってくるんだろうか……悲しいなあ。

 いや、今日は胸の事で呼び出した訳じゃない。
 俺は彼女の前で指を立てながら声高らかに言った。

「ここに呼び出したのはそのことじゃないんだ。なんと……俺に部下ができたのだ!!」

「ふーん」

 あれ? リアクション薄いな。
 もっと派手に驚いてもいいんだよ。
 だって、俺の初めての部下だよ!?

「凄いんだぞ! こんな俺の下で働くのを嬉しそうにさ」

 興味なさ気にベッドに寝転がる(勇者)キラクを見て、無性に腹が立った。

 ……そうだ。
 やはり、こいつに試してやろう。

 多少の副作用はあるらしいけど、仮にも勇者と間違えられ、魔王を倒すほどの人間。
 能力はチート級。
 多少ハイテンションになるぐらいだったら、大丈夫だろ。
 俺はキラクに手を向けて小さな声で「スキル発動、『ハッピー』」と言った。

 どうかな? どうなるかな?
 なんなら、ちょっと嬉しい事故があってもいいぞ。

 わざとらしく横に座って顔を近づけてみる。

「どうしたのさ。僕の顔になんか付いてる? 夕飯食べた後に、軽く顔拭いたんだけど」

「……い、いや別に何か付いているわけじゃないんだが……少し汗をかいているように見えたから暑いのかなって」

「そういや、少し暑いね。んー、久しぶりに鎧姿になってみちゃおうかな」

 ローブを宙に投げ捨てると、光り輝く鎧が現れる。
 いつも磨いているのだろうか?
 ただ、ローブを脱いで薄着になったはずなのに、暑苦しさが数倍増している。

「……涼しくなったか?」

「少しね」

 彼女はサバサバとした顔をしている。
 むー。全然効果がないぞ。
 さすがに、精神攻撃スキルには耐性があるのか?

「それよりもさー、この鎧いいでしょ。この前は量産品みたいに言っちゃったけど、一応オーダーメイドなんだ。僕の身体にピッタリと密着するように作ってもらったんだよ」

「へぇ。じゃあ、胸のあたりも、その鎧と同じなのか」

 あ、あああ。
 あまりに残念だったから、つい口に出てしまった。
 俺の紳士的人生が終わってしまう!!

 当然、彼女の目が鋭く光る。

「こ、こここれは、言葉の綾というやつでさ。別にお前の胸が小さいとか、そういう事を言っている訳じゃないぞ!」

 言ってるね。
 本音がこれでもかという程飛び出てるね。

 キラクが俺の前に立つ。
 ベッドに腰掛けた俺は、せめて最期に一撃を加えようと、スキルの準備をし――

「胸があ? どうしたってえ?? 僕の胸が小さいなんて、よくもまあ、そんな事が言えるねえ」

 息がかかるほど顔を近づけてくる。
 「はぁはぁ」と吐息が混じっている。

 まさか……これが『ハッピー』の効果か?
 テンションが上がる……?
 ちょっとこれは、スキル表の説明と違わないか?

 ハイテンションではなく、これではただの酔っぱらいだ。

「ま、待て。俺が勝手に魔法を使っちまったのが悪かった。とりあえず、水でも飲んで落ち着け。な?」

「なにー。信じないのーー。じゃあ証拠を――」

 これは……前に見た光景だ。
 羞恥心のない彼女は、鎧など簡単に脱いでしまう。

「スキル解除! 『ハッピー』」

 効かない!?

 明日のスクープが見える。
 魔王見習い、勇者を襲い捕まる……。
 ちょっと嬉しい事故、どころじゃない。
 俺は慌てて彼女へと手を伸ばした。
 なんとか鎧を脱ぐのを止めようとした……

 が、遅かった。

 手になんだか柔らかい感触がある。
 は、ははは。
 間違いだよな。
 俺、異世界に来てからそういうこと全然なかったもんな。
 これだって夢に違いない。

 上を向くと、鎧を一瞬で脱いだ勇者が仁王立ちしていた。
 うん、鎧は脱いでいた。
 そして、俺の想像通りに鎧の中に服は存在せず、本体があった。

 つまり……俺の手には今……。

「どうだ! 僕はいつも鎧で締め付けてるだけだからねー。本当はこんななんだよー。驚いた? ねえ驚いた? さー、そのまま証拠をもっと見るんだー」

 驚いて声も出ない。
 くそう! 本能に負けて手が動いてしまう!
 頑張れ俺! 負けるな俺!!

 しかし、途中でフルフルと固まっている俺の手を、彼女が掴んでそのまま胸へと――
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