7 / 8
1.それでも私を愛してくれますか
それでも私を愛してくれますか-3
しおりを挟む
妻が交通事故に合った。
それは大変に生きた心地のしない出来事で、手の震えが止まらずにいる。
報せを受けて全てを聞けた訳ではないが、意識は戻っておらず怪我も酷いらしい。
仕事を終えてようやく帰路についたところだったが、急いで車を走らせて幼稚園へと向かった。
本来妻が迎えに行くはずだった、間もなく五歳になる娘の夕夜を迎えに行くためだ。
考えたくもないがここで夕夜を置いていってしまうと、最悪の場合麗奈の死に目に会えない可能性すらある。
そんな事を考えてしまうくらいには動転していた。
幼稚園で急ぎ夕夜を車に乗せたあと、そこからは少しでも早く病院へと向かった。
渋滞が。
信号が。
法定速度が。
自身の苛立ちを加速させる。
何も言っていないのに、僕の緊張が夕夜に伝播したのだろう。
普段から表情の薄い子ではあるが、今日は特に色のない顔をしていた。
元から口数は多くないが、事態を把握しているのかほとんど口を開く事もしない。
そんな彼女を見て、自分の娘を見て、ようやくひと握りの冷静さを取り戻す事ができた。
親らしく冷静でいなければ。
そう思って、震えた手に力を込める。
まったく、情けないばかりである。
運転中、スーツのポケットにしまっていたスマートフォンが震え、慌てて電話を取る。
相手は麗奈の親友、隣の家に住む宮内さんだ。
「はい。勇士郎です」
「勇士郎くん、麗奈が事故ったって」
「知ってます。今病院に向かってます」
「本当?よかった。私は彰が熱を出してるからいけない。お願い、無事が分かったらすぐに連絡して。ごめんなさい、本当に、お願い」
いつもはぶっきらぼうで気丈な宮内さんの声が大きく震えていた。
僕が麗奈と知り合う遥か前からの付き合いだと言うし、僕と同じくらいかそれ以上に心配しているのだろう。
「分かりました。大丈夫です、きっと。また連絡します」
「そうだよね。分かってる。ごめんなさい、お願い」
そうして終話となった。
大丈夫、きっと。
自分に言い聞かせながら絞り出した言葉だ。
大丈夫に決まってる。
ふと横に目をやると、夕夜は車外に流れる段々と暗くなっていく街並みを眺めていた。
それは大変に生きた心地のしない出来事で、手の震えが止まらずにいる。
報せを受けて全てを聞けた訳ではないが、意識は戻っておらず怪我も酷いらしい。
仕事を終えてようやく帰路についたところだったが、急いで車を走らせて幼稚園へと向かった。
本来妻が迎えに行くはずだった、間もなく五歳になる娘の夕夜を迎えに行くためだ。
考えたくもないがここで夕夜を置いていってしまうと、最悪の場合麗奈の死に目に会えない可能性すらある。
そんな事を考えてしまうくらいには動転していた。
幼稚園で急ぎ夕夜を車に乗せたあと、そこからは少しでも早く病院へと向かった。
渋滞が。
信号が。
法定速度が。
自身の苛立ちを加速させる。
何も言っていないのに、僕の緊張が夕夜に伝播したのだろう。
普段から表情の薄い子ではあるが、今日は特に色のない顔をしていた。
元から口数は多くないが、事態を把握しているのかほとんど口を開く事もしない。
そんな彼女を見て、自分の娘を見て、ようやくひと握りの冷静さを取り戻す事ができた。
親らしく冷静でいなければ。
そう思って、震えた手に力を込める。
まったく、情けないばかりである。
運転中、スーツのポケットにしまっていたスマートフォンが震え、慌てて電話を取る。
相手は麗奈の親友、隣の家に住む宮内さんだ。
「はい。勇士郎です」
「勇士郎くん、麗奈が事故ったって」
「知ってます。今病院に向かってます」
「本当?よかった。私は彰が熱を出してるからいけない。お願い、無事が分かったらすぐに連絡して。ごめんなさい、本当に、お願い」
いつもはぶっきらぼうで気丈な宮内さんの声が大きく震えていた。
僕が麗奈と知り合う遥か前からの付き合いだと言うし、僕と同じくらいかそれ以上に心配しているのだろう。
「分かりました。大丈夫です、きっと。また連絡します」
「そうだよね。分かってる。ごめんなさい、お願い」
そうして終話となった。
大丈夫、きっと。
自分に言い聞かせながら絞り出した言葉だ。
大丈夫に決まってる。
ふと横に目をやると、夕夜は車外に流れる段々と暗くなっていく街並みを眺めていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる