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婚約は貴族の義務?
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クロエは 指でトントンと組んだ腕を叩きながら、原因をどうやって探せばいいのか その方法を考えていた。
母様が目を覚まさないのは、理由があるはずだ。
まずは事件があった日の、その時の詳しい状況。それと呪いじゃないから、どんな睡眠作用のあるものを口にしたか。となると、献立表も調べないと駄目ね。……こんなところかな?
よし!
お茶を飲んだら使用人たちに聞きに行こう。残りのお茶を飲み切ろうとカップをつかむ。するとバン!と勢いよくドアが開いた。
視線を向けると肩で息をしながらレディらしからな格好で、私を見据えているのは、エミリア・アン・トンプソン。私の幼馴染で、大親友で、天敵。
こっちの世界で唯一心を許した人。 一人娘同士ということもあり気があった。
「クロエ、大変だったわね」
そう言ってすごい勢いで飛びついてくる。 おっ、とっ、とっと、お茶が零れないようにカップをあげる。
すると、控えていたメイドのダリアが気を利かせカップを受け取ると、邪魔にならない場所に置く。
ありがとうと頷く。
「エミリアこそ、来てくれてありがとう」
大丈夫だと背中を撫でる。すると急に、身を離して疑わそうに私を灰色の目が見つめる。こうして見られると、心の裏まで読まれてるみたいで居心地が悪い。でも、ここで目を逸らしたらダメだ。 無理してると勘違いされる。
よく倒れていた事もあり、今だに、咳ひとつ、くしゃみひとつしただけで 大騒ぎする。それだけ心配をかけたんだから自業自得だけど、ネイサンと暮らすようになってからは、風邪ひとつひかないくらい健康になった。
剣術の稽古だって出来るぐらい体力がついた。 手紙に何度も書いたのに、まったくもって信じてくれない。いい加減病人扱いは、やめてほしい。それが本音だ。
「腕」
エミリアの命令に素直に腕を出すと、ブレスレットの魔力の残量を確認している。ほら、大丈夫でしょと見ると小さく頷いて、やっと手を離してくれた。
「心配なさそうね」
「もう心配し過ぎ。ここ何年も倒れてないでしょ」
「はい。はい。分かったから」
エミリアが分かってる、分かってると軽く流す。
「おかえり」
そう言ってもう一度抱きしめてくる。
「ただいま」
全くそう思ってないくせに、と思いながら抱き返す。
包容をとくと私の手を掴む。
「おば様が目を覚まさないと聞いたから心配してたのよ」
一段落ついたところで、お茶を持ってくるようにダリアに目配せする。
クロエは腕を伸ばして自分のカップを掴む。
「大丈夫。寝てるだけだから、そのうち目を覚ますでしょ 」
何事もないと言うように、さりげなく口にする。心配事があると気づかれないようにしないと、つきまとわれる。向こうではネイサン。こっちではエミリアが親以上に 世話をしたがる。
だから、原因を探すつもりだとは口が裂けても言えない。言えば絶対反対するのは目に見えている。
「ありがとう」
お茶を 受け取るエミリアを見ていると昔に戻ったようだ。何でも話してきたが、転生のことは話してない。
(言っても信じてくれないだろうし……)
私自身どうしてそうなったか、理由が分からないんだから混乱させるだけだ。言わないのはエミリアの為だ。
そう思って自分を納得させた。だけど、また一つ秘密が増えたのかと思うと気が重くなる。
クレール領に 引っ越してからも、ずっとエミリアと手紙のやり取りを続けていた。見知らぬ土地で生活するのは、ワクワクする反面寂しさもあった。母様から届く手紙には私の心配ばかり書かれていて、愚痴など書けそうもない。だから、寂しいと自分の本心をさらけ出せるのはエミリアだけだった。
その四年間の手紙のやり取りで、玉の輿に乗りたいエミリアは しょっちゅう王子と ひとつ屋根の下に住めるなんて羨ましすぎると書いていた。
しかし、ネイサンにとって私は小さな女の子。そういう対象にならないし、私もそういう風に見たことはない。
(傍から見たら金髪碧眼の 正真正銘の王子さまなのよね~)
そうだ。せっかくのチャンス。ネイサンを紹介しよう。目をキラキラさせて喜ぶエミリアの姿が想像出来る。
「エミリア……?」
そうと決まれば早速、そう思って声をかけようとしたが、そこには居なかった。
(まったく少しもおとなしくしてない)
どこへ行ったのかと首を動かすと、窓の外を見ている。
何を見ているのかと隣に並ぶ。
視線の先にはネイサンが庭師のショーンと話をしていた。
(何を話してるんだろう? ガーデニングなど興味はないはずなのに……)
横目でエミリアの顔を見てニンマリする。どうやら気に入ったらしいわね。
「紹介しようか?」
そう言って、からかうように脇腹を突く。好きな人と、好きな人が仲良くなるのは嬉しい。
「後でいいわ」
「えっ?」
直ぐに飛びついてくると思ったのに、
返ってきたのは平坦な声に驚く。
喜びが感じられない。なんで自らチャンスを不意にするの?
「どうして?」
手紙では散々催促してたのに。どうして 気が変わったの ? するとフンとエミリアが 白金の髪を後ろに払う。
「私、婚約したのよ」
「っ」
自慢気に言うエミリアを穴が開くほど見る。そんな話なんて聞いてない。
2週間前に届いた手紙にも書いてなかった。まさに青天の霹靂。
驚く私を残してエミリアが 席に戻ると 優雅にお茶を口にする。追いかけるように自分も隣に座る。親友なのに秘密にしめるなんて、ひどい裏切り行為だ。どんなことでも教えあったのに。
つっかかるように 質問する。
「そんな話聞いてないは。一体どこのどいつなのよ。私の知ってる人? 歳はいくつ? 嫡子なの?」
こんな急に婚約が決まるなんておかしい。まさか、政治の為?
エミリアが両手を突き出して前のめりになっている私を押し戻す。
「そう慌てないで、お相手はウインナードの伯爵の次男よ」
(ウインナード?)
聞いたことのある名前だ。でもどこで聞いたっけ? 指で唇をトントンと叩きながら思い出そうとする。 ここには7歳までしかいなかったから、交友関係は ほとんどない。ニヤニヤしてる顔からしても、私も 知ってる相手だろう。 他の貴族の子供達と会ったのは数回しかない。多分その中の一人だと思うんだけど……。う~ん。思い出せない。
しかも病弱だったから、外出先も伯母の家とエミリアの家しか行ったことがない。来る客だって隣街……んっ?
隣街? ……あっ!
エミリアのお母さんのお茶会の席で、会った茶髪のおとなしあの男の子だ。私達よりも5つ年上で、確か名前は……。
指をパチンとならしてエミリアに向かって指をさす。
「サミュエル」
すると、良く出来ましたと言うよりエミリアが鷹揚に頷く。
(あのそばかすの少年か……)
お母さんが、剣ばっかり振ってるとボヤいていた。騎士を目指してるなら忍耐強いはず。エミリアの小言も我慢できるだろう。
「先週、婚約したばかりなのよ」
そう言うとエミリアが婚約指輪のはまった手をひらひらさせる。
その手をガッと掴んで、まじまじと見る。婚約指環を見れば、相手がどれだけ気にかけているか分かる。
月のしずくを思わせるブルーダイヤモンドの周りを 星のような小さなダイヤモンドが煌めいている。
随分奮発したようだ。それに、意外にセンスもある。なかなか良い人と巡り合ったのかも。
「おめでとう。良かったわね」
「ありがとう」
祝いの言葉を言うが、半分本心で残りの半分嘘だ。素直に喜べない。仲間が一人減ってしまった。こっちの世界の結婚は早い。特に貴族は十五、六歳で結婚する。だから、大抵7歳前後で婚約する。しかし、出生のあやしい私と (三年寝てたから) エミリアは弟が産まれるのが遅かったから、 家督を継ぐと思われていた。そのせいで、結婚相手が決まらなかった。
一人娘の場合 婿取りになる。 だから主導権を奪われないように、爵位が下の者か、次男坊とかと結婚することになる。でもそうなると、エミリアの母親のお眼鏡にかなう相手は、そうそういない。 社交界の女王と呼ばれる姑だもの、 気苦労が多い家に息子を送り出したいとは思わない。
だから、安心して仲良くしてたのに。 私を置いてきぼりにする気だ。
こうしてのんびりエミリアと 無駄話できるのも あと4年。結婚してしまえば今みたいに自由に会えないし、子供ができれば外出さえままならない。友達を取られた気分だ。
すると、エミリアが私の態度に 大げさにため息をつく。
「全く他人ごとだと思って。あなたも11歳なのよ。結婚を考えなくちゃ」
「結婚なんてしないもの」
プイと横を向いて否定する。11歳なんて向こうの世界で小学5年生だ。人生を決めるには早すぎる。すると、エミリアが私の頬をつまんで引っ張る。
「出た!このわがまま娘」
「どうして自立することが、わがまま娘になるのよ」
その手を払いのけると、守るように頬を押さえる。
自分のお金で生活する。誰にも迷惑かけない。それのどこがダメだというの。文句を言うとエミリアが指を突きつけるように振る。
「だったら、ご両親はどうするの? あなたが死んだら、この家は? 使用人たちを路頭に迷わせるの?領地の人の生活は?あなたの代わりに領主なってくれる人は決まってるの?」
「 ……… 」
「私たち貴族は雇う側なのよ。多くの領民を抱えた主なのよ」
矢継ぎ早に責められて閉口する。ちょっと前なら気にしないで聞き流してた。けど、今回のことで自分がいかに悲劇のヒロインぶって、自分の世界にどっぷりと浸かっていたのか実感した。
「まったく、いつまでも自分のことばかり」
「 ……… 」
反論の余地はない。その通りだ。
貴族は会社の社長のようなものだ。使用人や 領主の人達への 責任と義務が生じる。自分の夢が他人を不幸にするとは思っていなかったのだ。
考えなくちゃ。
母様のことも、父様のことも、ネイサンのことも。 わがまま放題の私をずっと見守ってくれてた。今なら、そのありがたみが分かる。
だからこそ、一人でやっていけることを証明したい 。
(ゆくゆくは政治も勉強しないと)
だけど、結婚して相手の地位や財産を利用して安心させるのは、間違っていると思う。でも、どうしたら……。
カチャ
エミリアがカップを置く音に物思いから覚める?
「そんなに難しく考えなくていいの」
「何が言いたいの?」
笑顔を向けるエミリアを訝しげに見る。
「簡単なことよ。ネイサン殿下と婚約すればいいの」
次回予告
* 割れ鍋に綴じ蓋
母様が目を覚まさないのは、理由があるはずだ。
まずは事件があった日の、その時の詳しい状況。それと呪いじゃないから、どんな睡眠作用のあるものを口にしたか。となると、献立表も調べないと駄目ね。……こんなところかな?
よし!
お茶を飲んだら使用人たちに聞きに行こう。残りのお茶を飲み切ろうとカップをつかむ。するとバン!と勢いよくドアが開いた。
視線を向けると肩で息をしながらレディらしからな格好で、私を見据えているのは、エミリア・アン・トンプソン。私の幼馴染で、大親友で、天敵。
こっちの世界で唯一心を許した人。 一人娘同士ということもあり気があった。
「クロエ、大変だったわね」
そう言ってすごい勢いで飛びついてくる。 おっ、とっ、とっと、お茶が零れないようにカップをあげる。
すると、控えていたメイドのダリアが気を利かせカップを受け取ると、邪魔にならない場所に置く。
ありがとうと頷く。
「エミリアこそ、来てくれてありがとう」
大丈夫だと背中を撫でる。すると急に、身を離して疑わそうに私を灰色の目が見つめる。こうして見られると、心の裏まで読まれてるみたいで居心地が悪い。でも、ここで目を逸らしたらダメだ。 無理してると勘違いされる。
よく倒れていた事もあり、今だに、咳ひとつ、くしゃみひとつしただけで 大騒ぎする。それだけ心配をかけたんだから自業自得だけど、ネイサンと暮らすようになってからは、風邪ひとつひかないくらい健康になった。
剣術の稽古だって出来るぐらい体力がついた。 手紙に何度も書いたのに、まったくもって信じてくれない。いい加減病人扱いは、やめてほしい。それが本音だ。
「腕」
エミリアの命令に素直に腕を出すと、ブレスレットの魔力の残量を確認している。ほら、大丈夫でしょと見ると小さく頷いて、やっと手を離してくれた。
「心配なさそうね」
「もう心配し過ぎ。ここ何年も倒れてないでしょ」
「はい。はい。分かったから」
エミリアが分かってる、分かってると軽く流す。
「おかえり」
そう言ってもう一度抱きしめてくる。
「ただいま」
全くそう思ってないくせに、と思いながら抱き返す。
包容をとくと私の手を掴む。
「おば様が目を覚まさないと聞いたから心配してたのよ」
一段落ついたところで、お茶を持ってくるようにダリアに目配せする。
クロエは腕を伸ばして自分のカップを掴む。
「大丈夫。寝てるだけだから、そのうち目を覚ますでしょ 」
何事もないと言うように、さりげなく口にする。心配事があると気づかれないようにしないと、つきまとわれる。向こうではネイサン。こっちではエミリアが親以上に 世話をしたがる。
だから、原因を探すつもりだとは口が裂けても言えない。言えば絶対反対するのは目に見えている。
「ありがとう」
お茶を 受け取るエミリアを見ていると昔に戻ったようだ。何でも話してきたが、転生のことは話してない。
(言っても信じてくれないだろうし……)
私自身どうしてそうなったか、理由が分からないんだから混乱させるだけだ。言わないのはエミリアの為だ。
そう思って自分を納得させた。だけど、また一つ秘密が増えたのかと思うと気が重くなる。
クレール領に 引っ越してからも、ずっとエミリアと手紙のやり取りを続けていた。見知らぬ土地で生活するのは、ワクワクする反面寂しさもあった。母様から届く手紙には私の心配ばかり書かれていて、愚痴など書けそうもない。だから、寂しいと自分の本心をさらけ出せるのはエミリアだけだった。
その四年間の手紙のやり取りで、玉の輿に乗りたいエミリアは しょっちゅう王子と ひとつ屋根の下に住めるなんて羨ましすぎると書いていた。
しかし、ネイサンにとって私は小さな女の子。そういう対象にならないし、私もそういう風に見たことはない。
(傍から見たら金髪碧眼の 正真正銘の王子さまなのよね~)
そうだ。せっかくのチャンス。ネイサンを紹介しよう。目をキラキラさせて喜ぶエミリアの姿が想像出来る。
「エミリア……?」
そうと決まれば早速、そう思って声をかけようとしたが、そこには居なかった。
(まったく少しもおとなしくしてない)
どこへ行ったのかと首を動かすと、窓の外を見ている。
何を見ているのかと隣に並ぶ。
視線の先にはネイサンが庭師のショーンと話をしていた。
(何を話してるんだろう? ガーデニングなど興味はないはずなのに……)
横目でエミリアの顔を見てニンマリする。どうやら気に入ったらしいわね。
「紹介しようか?」
そう言って、からかうように脇腹を突く。好きな人と、好きな人が仲良くなるのは嬉しい。
「後でいいわ」
「えっ?」
直ぐに飛びついてくると思ったのに、
返ってきたのは平坦な声に驚く。
喜びが感じられない。なんで自らチャンスを不意にするの?
「どうして?」
手紙では散々催促してたのに。どうして 気が変わったの ? するとフンとエミリアが 白金の髪を後ろに払う。
「私、婚約したのよ」
「っ」
自慢気に言うエミリアを穴が開くほど見る。そんな話なんて聞いてない。
2週間前に届いた手紙にも書いてなかった。まさに青天の霹靂。
驚く私を残してエミリアが 席に戻ると 優雅にお茶を口にする。追いかけるように自分も隣に座る。親友なのに秘密にしめるなんて、ひどい裏切り行為だ。どんなことでも教えあったのに。
つっかかるように 質問する。
「そんな話聞いてないは。一体どこのどいつなのよ。私の知ってる人? 歳はいくつ? 嫡子なの?」
こんな急に婚約が決まるなんておかしい。まさか、政治の為?
エミリアが両手を突き出して前のめりになっている私を押し戻す。
「そう慌てないで、お相手はウインナードの伯爵の次男よ」
(ウインナード?)
聞いたことのある名前だ。でもどこで聞いたっけ? 指で唇をトントンと叩きながら思い出そうとする。 ここには7歳までしかいなかったから、交友関係は ほとんどない。ニヤニヤしてる顔からしても、私も 知ってる相手だろう。 他の貴族の子供達と会ったのは数回しかない。多分その中の一人だと思うんだけど……。う~ん。思い出せない。
しかも病弱だったから、外出先も伯母の家とエミリアの家しか行ったことがない。来る客だって隣街……んっ?
隣街? ……あっ!
エミリアのお母さんのお茶会の席で、会った茶髪のおとなしあの男の子だ。私達よりも5つ年上で、確か名前は……。
指をパチンとならしてエミリアに向かって指をさす。
「サミュエル」
すると、良く出来ましたと言うよりエミリアが鷹揚に頷く。
(あのそばかすの少年か……)
お母さんが、剣ばっかり振ってるとボヤいていた。騎士を目指してるなら忍耐強いはず。エミリアの小言も我慢できるだろう。
「先週、婚約したばかりなのよ」
そう言うとエミリアが婚約指輪のはまった手をひらひらさせる。
その手をガッと掴んで、まじまじと見る。婚約指環を見れば、相手がどれだけ気にかけているか分かる。
月のしずくを思わせるブルーダイヤモンドの周りを 星のような小さなダイヤモンドが煌めいている。
随分奮発したようだ。それに、意外にセンスもある。なかなか良い人と巡り合ったのかも。
「おめでとう。良かったわね」
「ありがとう」
祝いの言葉を言うが、半分本心で残りの半分嘘だ。素直に喜べない。仲間が一人減ってしまった。こっちの世界の結婚は早い。特に貴族は十五、六歳で結婚する。だから、大抵7歳前後で婚約する。しかし、出生のあやしい私と (三年寝てたから) エミリアは弟が産まれるのが遅かったから、 家督を継ぐと思われていた。そのせいで、結婚相手が決まらなかった。
一人娘の場合 婿取りになる。 だから主導権を奪われないように、爵位が下の者か、次男坊とかと結婚することになる。でもそうなると、エミリアの母親のお眼鏡にかなう相手は、そうそういない。 社交界の女王と呼ばれる姑だもの、 気苦労が多い家に息子を送り出したいとは思わない。
だから、安心して仲良くしてたのに。 私を置いてきぼりにする気だ。
こうしてのんびりエミリアと 無駄話できるのも あと4年。結婚してしまえば今みたいに自由に会えないし、子供ができれば外出さえままならない。友達を取られた気分だ。
すると、エミリアが私の態度に 大げさにため息をつく。
「全く他人ごとだと思って。あなたも11歳なのよ。結婚を考えなくちゃ」
「結婚なんてしないもの」
プイと横を向いて否定する。11歳なんて向こうの世界で小学5年生だ。人生を決めるには早すぎる。すると、エミリアが私の頬をつまんで引っ張る。
「出た!このわがまま娘」
「どうして自立することが、わがまま娘になるのよ」
その手を払いのけると、守るように頬を押さえる。
自分のお金で生活する。誰にも迷惑かけない。それのどこがダメだというの。文句を言うとエミリアが指を突きつけるように振る。
「だったら、ご両親はどうするの? あなたが死んだら、この家は? 使用人たちを路頭に迷わせるの?領地の人の生活は?あなたの代わりに領主なってくれる人は決まってるの?」
「 ……… 」
「私たち貴族は雇う側なのよ。多くの領民を抱えた主なのよ」
矢継ぎ早に責められて閉口する。ちょっと前なら気にしないで聞き流してた。けど、今回のことで自分がいかに悲劇のヒロインぶって、自分の世界にどっぷりと浸かっていたのか実感した。
「まったく、いつまでも自分のことばかり」
「 ……… 」
反論の余地はない。その通りだ。
貴族は会社の社長のようなものだ。使用人や 領主の人達への 責任と義務が生じる。自分の夢が他人を不幸にするとは思っていなかったのだ。
考えなくちゃ。
母様のことも、父様のことも、ネイサンのことも。 わがまま放題の私をずっと見守ってくれてた。今なら、そのありがたみが分かる。
だからこそ、一人でやっていけることを証明したい 。
(ゆくゆくは政治も勉強しないと)
だけど、結婚して相手の地位や財産を利用して安心させるのは、間違っていると思う。でも、どうしたら……。
カチャ
エミリアがカップを置く音に物思いから覚める?
「そんなに難しく考えなくていいの」
「何が言いたいの?」
笑顔を向けるエミリアを訝しげに見る。
「簡単なことよ。ネイサン殿下と婚約すればいいの」
次回予告
* 割れ鍋に綴じ蓋
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