『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2

あべ鈴峰

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留守の理由

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 クロエは 昨日のことを十分反省し、母様の件を相談しようと ネイサン部屋を訪ねていた。

冷静になれば、あんなに怯える必要はなかった。父様も一緒なんだから、私に手を出すことなどない。腕っぷしだって、鍛練しているんだから 私の方が断然強い。
逆に、いつもと違う私の行動に 伯母が不審に思ったかもしれない。
(実は まずい状態かもしれない)

 そんなふうに、あれやこれや頭を悩ませていたのに まさかの留守。
しかし、このまま帰るのも癪だと、変な意地を張って待ち続けていると、いつのまにか夕方になっていた。 綺麗な夕日に目を閉じて風を感じていると、生き物の気配がする。未確認の生物と遭遇して身を強張らせていると
「クロエ。退いてくれ」
「えっ?」
ネイサンの声に驚いて目を開ける。そこには 本当にネイサンが居た。でも顔だけだ。他はどうしたのかと、よく見ると窓の桟に指を掛けている。ロッククライミングしてるいるみたい、指だけで全体重を支えている。
(えっ?)
 一階からこうやって登ってきたの? 忍者じゃあるまいし。玄関があるのに何で窓から? 
ありえない状態に、ぽかんとしていたが
「クロエ、早く!」
ネイサンの催促する声に我に返る。
「えっ? あっ、はっ、はい」
言われるがまま避けるとネイサンが部屋に入って来た。

 やっと帰って来た。と、嬉しくなったが、それより待たされた文句を言いたい。まったく秘密主義なんだから。
「まったく何処をほっつき歩いていたんですか! ずっと待っていたんですよ。出掛けるなら、一言言ってくだされば良いのに」
ブツブツ文句を言いながら、頭では ネイサンの行動を分析していた。出入りが 面倒と言うことはないだろう。となると、誰にも知られなくないからと言う理由が浮上する。しかし、何で? 
解せない。
「ちょっと用があったんだ」
(用?)
ランプに魔法石を入れると黄色い光が部屋を照らし出す。

ふと、ネイサンの靴についた泥が目に入った。泥? 山でも登ったの? 私の視線に気付いたネイサンが自分の靴に目をやると、それを見て軽く舌打ちする。だけど、汚れてるのは他にもある。ズボンの後ろには泥ハネがあるし、髪の毛には葉っぱがついている。
私の知らないところで、何かやってきたのは間違いない。
話を聞く前に、クロエはネイサンの旅行鞄を開けると着替えに、タオル。洗面道具の魔法石を取り出して ヒビを入れて元に戻す。
「まずはお風呂に入って来て下さい。話はそれからです」
有無を言わさず、そう言って押し付ける。

***

 小腹がすいただろうと、スコーンとサンドイッチを作って厨房から戻ってくると、丁度ネイサンが お風呂から出てきたタイミングだった。部屋の隅に置いてあるワゴンの所へ行くと ナプキンを外してお茶の用意をする。その後ろでは、ネイサンが私に話す内容をまとめようとしているのか、髪をタオルで拭きながら独り言を言っている。
「罠………違うな……う~ん。何と言えばいいんだ?」
(罠? )
最初のワードから物騒だ。
珍しく悩んでいるネイサンを見て、どうやら説明が難しい事をやって来たらしいと判った。
それでも、多分 事件に関することなんだから説明してもらわないと。他に 外出する理由がない。
「罠って、誰に仕掛けたんですか?」
ネイサンにお茶を差し出すと、目の前に座る。こうすれば 小さな表情も見逃すことはない。
お茶を受け取るとネイサンが、ゆっくりと香りを嗅いで一口飲む。
「クロエの伯母が、この屋敷に近くに来たら分かるように魔法陣を仕掛けてきた」
「はい?」
突拍子もない話に声が裏返る。
魔法陣? この家に繋がる道に? 
来たら分かると言うけれど、どこに? 我が家の門の前? それとも
伯母の家の門の所? 聞きたいことが次々と浮かぶ。

 でもそれなら、靴に泥が付いた理由にはならない。山とか沼とか 足場の悪い所じゃないと泥はつかない。 でもなんで、そんな街のはずれに……。ちょっと待って! それって……つまり……。
「魔法陣は……この城の周り全部に仕掛けたんでしょうか?」
「当たり前じゃないか」
事も無げに言うが当たり前じゃない。内心 唖然とする。
「この城を中心に半径五キロほど魔法陣をセットした」
(ごっ、五キロ? 直径十キロ?)
サラリと 口にするが、それは並の人間が出来ることではない。自分のものさしで考えないでほしい。
「ははっ……」
もう愛想笑いしか出てこない。
(チート王子め)
慣れたけど……。小さく会嘆息する。凡人の私は頷くことしかできない。ネイサンの基準は一般の基準に合わない。多分そう言っても、首をかしげるだけだ。

 そんなの魔導士が二十人がかりでする仕事だ。でも、どうやって?
魔法陣をつくのには四人、六人、八人、十人と規模に合わせて円を作るように人を配置にしないと駄目だ。
(あっ! ……そうか)
方法が分かった。
一人で魔法陣を描くのは 魔力が多くても 無理だから、人の代わりに媒体になるものを10個ぐらい作って、それを設置して発動させたんだ。 それを一人でしてきたんだ。
しょっちゅう居なくなったのは、これが理由だ。すごい量の魔力が必要になる。だけど ネイサンの元気な姿に魔力切れの様子はない。
魔力の多さにたじろぐ。
もはや人ではない。超人だ。
「それと」
「えっ? 他にもやって来たのですか?」
魔法陣を作るのだって一日がかり
だろうに。
「伯母さんの馬車に追跡の魔法石を取りつけた。これでクロエの伯母が、どこにいても居場所がわかる」
「………」
淡々と して来たことを報告するネイサンに 愚痴った自分を反省する。全て私の為だったんだ。私の不安を少しでも解消しようとしてくれたんだ。その気遣いに感謝しながらも、一言言わないではいられない。
「どうして一人でしたんですか?
教えてくれれば、お手伝い出来ましたのに」
母様が目を覚ましたから、私だって時間の余裕が出来た。
言ってくれれば半分の時間でとは言わないが、少しは時短になったはずだ。口を突き出して拗ねるとネイサンが笑いながら頷く。
「分かった。今度は一緒に行こう」
「私は本気ですよ」
「分かってる」
そう言うけど、嘘だと分かる。
ネイサンは何時も私を子供扱いしている。
(早く大人になりたい)
私が これ以上ヘソ曲げないように調子を合わせているだけだ。
そんなのお見通しだ。


ネイサンにお代わりのお茶を注いで、無言で差し出すと直ぐにネイサンが手を伸ばす。昨日の件があったから急いで進めたんだろう。迷惑をかけてしまった。
脳裏に伯母の顔が浮かぶ
(これ以上何も無いと良いけど……)
今はネイサンが、抑止力になっているけど、帰ってしまったら……。

 私の都合で何時までも付き合わせてもいられない。仕事だってある。一人で苦労しているジェームズさんの事を 考えるば、一日でも
早く戻らないと。二人同時に抜けてしまって苦労してるはずだ。
自分で何とかしなくちゃ。甘えるの禁止。 もう十分良くしてもらっている。優先すべきは、母様の身の安全。伯母が どんな手で来るか分からない。常に警戒しよう。
……まずは、二人きりにしない。伯母が持参した物は食べさせない。それと……外出するときは馬車の点検。他に気を付けることは……。
あれやこれやと考えているとコツコツと規則正しい音に 気が散る。
そちらを見る。ネイサンが肘置きを指でトントンと叩いている。
その目は空を見ている。何か考え事をしているようだ。邪魔にならないように静かにお茶を飲んで スコーンを食べようと手を伸ばした。すると、ネイサンの目が私を捕らえる。
(ん? 食べたいのかな?)
ネイサンを見ると、さっきの感情の無い瞳では無い。何かを決めた瞳で私を見ている。
「これは提案なんだが」

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