『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2

あべ鈴峰

文字の大きさ
25 / 46

殺られる前に殺る

しおりを挟む
 クロエは ネイサンが、私達親子のために 色々と手を尽くしてくれたことが嬉しかった。だが、スケールが違いすぎて、やりすぎでは とも戸惑っていた。 金に物を言わせるという言葉があるが、ネイサン
の場合 魔力に物を言わせると言った方が正しい。善意からしてくれたことだし、正直ありがたい。
だけど……他力本願過ぎると 思う。

 自分に何かできることはないか、お茶を飲みながら次なる対策を考えようとしていると、ネイサンが
「夫人に言って伯爵と同じ部屋で一緒に寝て欲しいと言ってくれないか?」
と言って来た。
「それは大丈夫ですけど、何をする気ですか?」
父様としては 犯人を捕まえて母様の仇を討ちたをしたかったのに、覚えいないと言われてしまった。
それが出来なくて、その怒りを何処へぶつけて良いのか分からなくて荒れていた。今は落ち着いている。だから、部屋を掃除するから数日一緒に寝てくれと言っても問題ないだろう。
(何だかんだ言っても 夫婦仲は良い)
「夫人の部屋全体に魔法陣を施したいと考えているんだ」
ネイサンがぐるりと部屋を見まわす。つらて、自分も部屋を見まわした。床に魔法陣をかく為には、一度家具を運び出すと言うこたか。母様を護るためにも魔法陣を仕掛けるのは賛成だ。
そうしてくれた方が良い。

 だけど、そのことが伯母の耳に入らないようにしないと。
( ……… )
使用人達には別の理由をくわえて話したほうが良いだろう。
『母様が事件以来一人で眠るのを怖がっていて、 落ち着くまで 父様と一緒に寝るが、 そのことを他の人に知られると恥ずかしいから秘密にしてほしい』と伝えよう。
こっちの方が口止めするより効果的だ。それに、これは一石二鳥。母様を護れるだけでなく、夫婦仲がもっと良くなる。
なかなかの名案だと、自画自賛する。

***

 窓越しに差し込む月明かりに照らされて 静かな夜に包まれていたネイサンだったが魔力を感じて目を覚ました。

 すぐに枕元に置いてあるチェス盤を見た。白のポーンが光っている。
(北側か……)
クロエの家に仕掛けた魔法陣は、この家を中心に三重の防衛ラインを設置してある 。
実は クロエには内緒で前々から魔法陣の準備をしていた。
(完成した日にバレてしまったが……)

 そして、そのラインをチェス盤の駒に置き換えてリンクさせている。これなら他の人が見ても気づかない。
第一ラインを誰かが通り過ぎたようだ。素早く起き上がって着替えると窓枠に手をかける。
魔法でステップを作って屋根に上ると 北側に目を向ける。
まだ日の出前だ。辺りは暗い。
だが、そのおかげで動いているモノは灯りをつけている。魔法の形跡を探すと、早いスピードで馬車が1台走っているのを見つけた。
慣れた道なのか、それとも……。
脳裏にクロエの伯母の顔が浮かぶ。色々と考えてしまう。
しかし、行けばわかることだと、頭を振って考えるのを止めさせる。


 屋根から屋根へと飛び移りながら馬車に近づいたが、ギシギシと車輪のきしむ音に追うのをやめた。
音からするに人ではなく 物を運んでいる。立ち止まると、そのまま目だけで馬車を追う。
何処かの屋敷に入ると 布が捲られ、荷台から木箱を運び込んでいる。予想通り、中身は人参などの野菜だった。農家のようだ。
夜に紛れて、気づかれないように荷馬車のそばに行くと、魔法陣が書いてある紙を目立たない場所に貼り付けた。 一種の通行許可書だ。こうすれば もうポーンは光らない。
 
 こうした地道な方法でしか、犯人か、犯人じゃないか区別していくしかない。今夜はもう新しい馬車は来ないだろう。これを連日続けている。
「ふぁ~」
さすがに寝不足だ。
欠伸をしながら、う~んと、大きく伸びをする。
帰ってもう一眠りするか。

*****

 翌日にはリフォームと言う名の魔法陣作りがスタートした。
これで伯母から母様を守れる。

 家具も何も無くなった部屋はガランとして広く見える。
その中央でネイサンがチョークを何本も使って床に複雑な魔法陣を描いている。
四重の円が描かれ円と円の間に幾何学模様が描かれている。
自分も手伝いたいところだが、魔法については からっきしだ。大人しく見守っている。
 自分自身魔力ゼロでは覚えても役に立たない。そう思って勉強しなかった。
( 私にも魔力があれば助手として、役に立てたのに……)
クロエは無意識に魔力供給のブレスレッドを玩ぶ。

 チャリチャリと言う音にブレスレットに目を落とす。十個のチャームが付いている。これも魔法陣で作ったものだ。
十個の内、三個が両親から、残りの七個はネイサンからのプレゼントだ。一つ一つに魔力が蓄えられている。全部の魔力を使用して仕舞うと一日で死んでしまう……。
(そんな日が来ない事を願うばかりだ)
 本当に他人に支えられてもらいながら、生きながらえている。見るたびに皆に感謝する気持ちと、自分が厄介者だという事実を自覚する。少しでも迷惑をかけないようにしたい。そう思ってるのに……。

 結局半日仕事になったが魔法陣が完成した。これで、母様の安全も確保された。家具を元に設置すると装飾品を並べる。
手伝ってくれているネイサンに向かって絵画を渡す。
高いところに置く物と、重い物はネイサンの担当。私は軽くて小さな物が担当だ。
「それで、これからどうするつもりですか?」
「ああ、おびき寄せようと思う」
(おびき寄せるねぇ~)
言うのは簡単だけど伯母が、素直に巣穴から出てくるとは思えない。すでに二つの魔法陣をセットしているんだから、手を出せないはずだ。
母様のお気に入りの花瓶を手渡す。
「二番目の棚に置いて下さい。そんな必要があるんですか?」
母様が目を覚ましたけれど、犯人は捕まっていない。
そんな状態だから父様も 使用人たちも気がたっている。そんな中、動くのは自分で自分の首を絞めるようなものだ。
私だったら、ほとぼりが冷めるまで待つ。伯母だって馬鹿じゃないりわざわざ捕まりには来ないだろう。
陶器の人形を渡す。

「次に伯母さんのする行動が危険だからだ」
「危険って何をすると思っているのですか?」
ネイサンが陶器の人形を持ったまま 視線をあちこちに飛ばす。
その態度が何を意味しているか知っている。言うべきなのか、どうなのか迷っているときの仕草だ。
催促しようと思ったがその前に、
その視線が私に停まる。
「夫人を殺しに来る」
「なっ、何をおっしゃっているんですか!」
カチンと来てネイサンを睨みつけると 渡した陶器の人形を奪い取る。いくら、ネイサンでも言って
良い事と悪い事はある。
人の不安を煽るようなことを言ってはいけない。

 母様の記憶が無いんだから、このまま有耶無耶にできる。それなのに何故 伯母が危険を犯す必要が何処にある。
入れ替わりに失敗した今、二度目は無い。 だったら無茶はしないはずだ。
(あの経済状態では二個目は買えないんだろう)
真相は闇の中。不本意だが、それで安心が手に入るなら、目をつむる。
「もし私が伯母さんだったら、そうするからだ」
「ネイサン様!」
言うに事を欠いて何を言う。
まるで、殺害予告と同じだ。
声を荒げて名前を呼んだのに動じる様子はない。
私を静かに見ている。

 ネイサンは伯母が犯人だと決めつけている。伯母は嫌味な冷たい人間かもしれないけど、私にしてみればやはり、犯人だと思いたくない。今のところ確固たる証拠があるわけじゃない。限りなく黒に近いグレーといったところだ。
聞き捨てならないと怒りに任せて持っている花瓶をぐいぐいと押し付ける。しかし、ひょいと私からネイサンが 陶器の人形を掴むと棚に置く。
「クロエ。……犯人にとって一番恐ろしいのは何だと思う?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...