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本当の凶器

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 クロエは 両親に伯母が犯人だと伝えたが、違うと 悪あがきする伯母
を前に手こずっていた。 
(殺人未遂の現場をおさえたのに、しぶとい人だ)
これも 両親を説得出来る決定的な証拠がないからだ。 

 そこで、ネイサンが一つ一つ 伯母の言い訳を潰しにかかる。
「心配して 訪ねてきたという割には、誰にも気づかれずに入ってきましたね」
そう言えば と両親がお互いの顔を見合う。
「知っていたか?」
「いいえ」
使用人たちから伯母が来たことを、誰からも連絡を受けてないらしい。 当たり前だ。 きっと 裏口から入ったに違いないね。こんな時間だもの。
「もしも、間違いだった困るからよ」
「間違いですか……」
「そっ、そうよ」
(はぁ~?)
言ってることが矛盾している。 
朝まで待てないくらい心配だから、一秒でも早く確かめたに来たんじゃないの? それなのに、ここまで来て 間違いだったから困るから 秘密にした?
本当に心配してるとは到底思えない。呆れかえって言葉がでない。
どう思ってるのかと、私と同じように伯母とネイサンとのやり取りを見ている両親の顔を見る。
父は渋い顔をしている。
納得できてないんだ。
他人だったら、怒鳴り散らしている。それをしないのはまだ伯母を信じているんだ。
母様はと見ると蒼白な顔をしている。
(母様……)
クロエは そっと母様の手を掴む。その手の冷たさが、伯母の心の冷たさを表しているようで胸が詰まる。私に気付いた母様が こわばった笑み返す。一番傷ついてのは母様なのに、私に心配かけまいと気丈に振る舞っている。
その気持ちが切ない。

「なるほど、ではその服装は何ですか」
「服装?」
バレバレの嘘をつき続ける伯母に対して無表情のままネイサン次のが質問をくり出した。
ネイサンの指摘に全員が伯母の服に注目する。 氷が溶け始めて、どんな服から ここから見ても分かる。黒ドレスだ。これと言って特徴は無い。

「そうです。全身真っ黒ですね。黒は縁起が悪い色。生死の確認には適切ではありません。マナーに五月蝿い貴女が そんな事をするなどと考えられない」
そう言ってネイサンが、視線を向けるとギクリと伯母が身を強張らせた。
「なっ、たまたまよ。急いでいたから何も考えずに目に着いたドレスを着て来たのよ」
伯母が誤魔化すように手を振ってネイサンの質問を追い払う。しかし、ネイサンは伯母のドレスを上から下まで見た。
「ですが、その飾りの無い黒いドレスは完全に喪服です。どうして、クローゼットに締まってあったドレスを態々引っ張り出して着て来るんですか?」
「っ」
「妹の死を願っているように思えます。違いますか?」
「これは……その……」

(本当だ……)
夜に紛れるように黒い色のドレス選んだだけだろうと思っていてけれど、もしかしたらネイサンの言う通り、そういう気持ちで着たのかもしれない。
父様が伯母を睨み付けると、伯母が目をそらす。氷が解けて流れだした水が、汗の様に伯母の顔を流れる。
(これで、伯母が犯人だと分かってくれただろう?)

母様は感情の見えない目で伯母を見続けている。母様の中にあった伯母への姉妹としての情が、壊れ始めているのだろう。
「だから……それは……」
「………」
「………」
「 ……… 」
誰もが、その質問の答えを知りたいと思いながらも、 本当は全員が既に知っている。
そんな重苦しい沈黙の中、私と両親は対峙している二人から目が離せない。ネイサンのその冷たく光るその瞳からは冷徹さが感じられる。犯罪者に同情しないと言う事
だろう。 さっきまで 饒舌 だった
伯母が、ここに来て 黙ってしまった。
「答えて下さい」
「 ……… 」
平坦な声音が伯母を追い詰める。
顔を引き攣らせた伯母が、父様や母様の様子を伺っている。
(まさか、助けを求めているの?)
しかし、両親はそんな伯母にたいして悲しい目を向けるだけだった。どんなに言い繕っても、二人の中に疑惑の芽が育っている。 
もう簡単には 騙されない
「幾らなんでも言い過ぎよ。私がどうして妹を殺さないとイケなの? たった一人の肉親なのよ」

 反応を見せない 両親を見て伯母が方向性を変えた。
動機が無いとネイサンの考えを否定する。しかし、伯母の必死の言い訳もネイサンの にべも無き言葉に叩き落とされる。
「お金です」
「なっ、何を言っているの? 」
そこまで調べていたのかと伯母が身を構える。それでも 口は動くようで 言い訳を言い続ける。
(まだ諦めていない。本当に厄介な人だ)
「私が、お金に困っているはずないでしょ」
「はぁ~、 いい加減諦めてください」
うんざりしたようにネイサンが ため息をつく。
「何言ってるの。 私がいつお金がないと言ったの。それどころか、私は妹の体に良いものを取り寄せたりして、ずっと妹を支えて来たのよ」
伯母が 父様を見ながら 情に訴える。 何としても 父様は味方にしたいらしい。
(どうしよう……)
万が一このまま父様が伯母の味方になってしまったら、野放しになってしまう。
「貴男も知っているでしょ。フィリップ」
まずい。 なんとかしようと一歩足を前に出したが 、父様の顔に迷いはなかった。
「………」
父様は既に答えを出していた。
その証拠に伯母を擁護する気が無いようで、口を閉じたままだ。
その視線は、母様に向けられている。伯母の言い訳を聞いている母様の顔が、どんどん悲しみに沈んでいく。すると 父様が守るように母様を抱き寄せた。
「黙ってないで、ネイサン王子に、私は妹を手にかけるような恐ろしい姉では無いと。私の人となりを紹介して!」
「………」
しかし、父様は動かない。
もう充分だ。これ以上長引かせても、母様を傷つけるけだ。
私もネイサンも母様を守る為に、ここまでやって来た。きっと今なら 父様は私たちの話を信じてくれる。話を終わらせようと父様の前に行くと真実を伝えた。 
「父様、伯母は双子石を使って母様と入れ替わろうとした悪い人なの!」
「入れ替わる?」
「っ!」
父様が話が変わって面食らう。
ただ 睡眠薬を飲ませて殺そうとしただけだと思っているんだから、
父様にしたら寝耳に水 だろう


 伯母が双子石と言う言葉に ぎょっとして こっちを見る。
「そうよ。伯母様は母様と入れ替わろうとしたの」
「クッ、クロエ。 ちょっと待ってくれ」
父様が、話についていけないと こめかみを抑えると、手を突き出す しかし、止められない。
父様の腕を掴んで信じて欲しいと縋る。
「父様、よく考えて! 睡眠薬を飲ませただけで殺しに来ると思う?」
「そっ、それは……」
「伯母様は双子石を使ったのよ」
そう言って 伯母をギロリと睨み付ける。私たちも 双子石に関わっていなかったら 見落としていたことだろう。
「どっ、どうしてそれを」
伯母が驚いて私を見たが、直ぐにその目がネイサンに向けられる。


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