『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2

あべ鈴峰

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証人

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 クロエは 両親に 母様の身に起こったことは、ただ睡眠薬を盛られただけでなく 双子石を使ったものだと告白した。
ここまで来たら秘密にはできない。本当は内緒で解決したかったのに、伯母のせいで話さざるを得なくなってしまった。

「ふっ、双子石が使われたって、しょ、証拠は? 証拠はあるの」
双子石というワードに伯母が過剰に反応する。 双子石に関わったことが証明されたら、その大小、 成功 失敗に関わらず 死刑になるのだから 焦るのも仕方ない。
すると、ネイサンが徐に口を開く。
「クロエが夫人に贈ったペンダントに ひびが入ったのが証拠です」
「ペンダント?」
伯母が意味が分からないと怪訝そうな顔をする。
「ひび?」
しかし、父様はハッとして母様の胸元を見る。父様も石にひびが入って事を気付いているようだ。
母様が今は何もない 首元に手をやる。そのことは、父様も知っている。私からのプレゼントだと 母様が喜んでつけていたんだから。

「ペンダントトップには、双子石から身を守る為の術式が納められていたんです」
「そんな……じゃあ……」
ショックを受けた父様が、信じられないと首を振りながら後ずさる。伯母が母様を殺しに来たと言う事より、双子石を使ったと言う事の方に衝撃を受けている。
「嘘……」
魔法石を使うとヒビが入る。子供でも知っていることだ。
その事実に母様が驚いた顔で私を見る。コクリと頷くと、母様の目元が赤くなる。
知ってて贈った物ではない。結果として 守っただけだ。 運が味方してくれたのだろう。
「何を下らない事を。全部推測でしょ。私に双子石を買うお金はないわ。そのことはあなたたちも知っているでしょ」
伯母の話に父様が顔を向ける。
それを見て伯母が 嬉しそうに口角を上げた。父様の考えを楽な方に動かそうとしている。
誰でも、複雑な事より 単純な事の方が理解しやすいし、そっちへ逃げたくなる。

「二人の作り話なのよ。騙されないで」
双子石の犯罪から逃れるために、父様を利用しようとしている。 証拠が無いから、父様がそうだと言ってしまえば、買った証拠も、持っていたという証拠も無いから、これ以上追求できなくなってしまう。 私たちにあるのは ひびが入ったペンダントが1つ。 だから、ここで 終わらせる。 考える時間を与えてはいけない。
「伯母様は、伯爵家の当主なのよ。それくらい あってもおかしくないわ」
「何を根拠に言っている」
「だって、私が帰ってくるたび、いつも新しいドレスを着ていたじゃない。 それだけ お金に余裕があるって事でしょ」 
「それは……」
「エミリアのお母さんと競いあっていたんだから、お金が無いなんてありえないわ」
「っ」
ライバル関係の二人は、ことあるごとにマウントを取り合っていた。それは 周知の事実。伯母のまぶたが痙攣する。 思うように、ことが行かず 悔しくてたまらないらしい 。
「ドッ、ドレスと双子石とでは、桁が違うでしょ」 
「1着ならね。でも、伯母様は一年に何十着も ドレスを作っていたじゃない」
「ぐぐっ」
 ギリギリという音が聞こえそうなほど 伯母が歯を食いしばる。 

 畳み掛けるように伯母がいかに金持ちかアピールした。
でも、これは一時のこと。伯母を黙らせるには弱い。 もっと伯母を追い詰めないとダメだ。
(他に何かに……)
「私に双子石を使ったのは、お姉様よ」
「えっ?」
「母様?」
「キャサリン?」
「 ……… 」 
突然、母様がはっきりとした声でそう告白した。驚いて母様を見つめる。父様もネイサンも驚いている。しかし、それ以上に伯母が唖然として 母様を見つめる。さっきまで 青白い顔で、叔母の話を聞いていたのに、今は凛としている。
同一人物とは思えない。
その顔はどこか すっきりとした表情をしていた。 

 記憶が戻ったんだ。早く私たちに教えてくれたら、ここまでしなくても良かったのに。
無理する必要はない。 そう思って母様の腕に手をかける。すると、私の手をトントンと叩いて、大丈夫だと私の手を外す。

 みんなに注目される中、母様が伯母の前に自ら進み出ると、見せつけるように父様の手を掴んで、しっかりと目を合わせる。
「あなた。本当の事よ。眠り薬入りのお茶を飲ませたのも、魔法陣の描かれている布を広げて 四隅に魔法石を置いてヒビを入れて魔法陣を発動させたのも。お姉様よ」
「 ……… 」
「なっ、何嘘を言っているの。眠り薬? そっ、そんな物飲ませてないわ。私が帰る時 まだ起きてたでしょ」
「それは お茶の中にハラルハウス の 花 を使ったからです」
黙っていたネイサンが口を開くと叔母が顔色を失う。 何の花か知らないが、伯母にとっては致命的な証拠 のようだ。


「『目が覚めたら貴女は私になってるのよ。今度は貴女が孤独に生きる番よ』そう言っていたわ」
「 ……… 」
母様が伯母を見据える。伯母は顔を引きつらせて聞いている。初めて聞く内容に驚く。随分細かいところまで覚えているものだ。
(もしかして……本当は記憶があったの?)
それならなぜ嘘をついていたの?
「止めさせたかったんだけど、どんどん意識が無くなって……」
「 ……… 」
「母様……」
「 ……… 」
その時の事を思い出しているのか悔しそうに唇を噛む。
「どうして言ってくれなかったんだ?」
父様が母様の両腕を掴んで揺さぶる。秘密にされたことで傷ついたんだろう。だけど、傷ついた顔をしているのは 母様も同じだ。
「だって、姉様が私の命を狙っていると言っても信じてくれないでしょ?」
「そんな事無い」
父様が母様の肩に手を置いて自分の方を向かせようとしたが、それから逃れるように母様が距離をとる。
「いいえ、姉様と喧嘩したんだと、思って相手にしてくれないわ」
「 ……… 」
「もし言っていたら信じてくれた?」
「それは……」 
母様の訴えに父様が言葉を濁す。
そんな父様を母様が泣きそうな顔で見つめている。その視線に耐えらず父が視線を外す。
感情の話より、理由がある論理的な話の方が父様は受け入れやすい。それは理解できる。だけど、愛する妻より伯母を信じるというのは、あまりにもむごい。
それでは、愛していることまで信じてないのと一緒だ。
「ほら、やっぱりフィリップは信じないのよ」
「 ……… 」
伯母の声に母様が父様を恨みまがしい目で見つめる。
それでも父様は無言を貫く。


 父様としても、実の姉が妻を殺そうとした言うことは信じたくない。それを受け入れるには時間が掛かる。
(だから 丁寧に説明したのに……)
「信じないで妹の被害妄想なのよ。この子は昔から想像力が豊かだから」
「いいえ、本当の事よ。あなた信じて」
「 ……… 」
「父様、母様を信じて」
しかし、 父様 は苦渋に満ちた表情を見せる。母様 気落ちしたように瞳を伏せる。それを見て伯母が割り込んで来た。
「全く、夢と現実の区別がつかないなんて」
呆れたように伯母が母様を見る。
母様がきゅっと口を引き結んで怒りを抑える。その姿に伯母が満足気に笑う。
「くっ」
何時もの伯母のやり方だ。 勝ち誇ったような態度に、はらわたが煮えくり返る。

 父様の態度に見切りをつけた母様が背を向ける。
「キャサリン」
機嫌を取ろうとする父様の手を払いのける。 母様がキッと父様のを睨みつける。 母様が本気で怒っている。 こんなこと 今までなかった。このまま 行ってしまったら、取り返しのつかないことになる。
止める間もなく母様が 歩きだした。
「母様。待って!」
「キャサリン!」
私が呼んでも、父様が呼んでも母様は出て行こうとする。
しかし、その時
「全て本当のことです。証人だっています」
ネイサンの言葉に、母様は止まり、全員の視線が集まる。

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