猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰

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直腹筋の下にあるもの

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   ご主人様の言葉に世界がパッと明るくなる。目標達成! 三食昼寝付きの悠々自適な猫 ライフが約束された瞬間だ。
もう二度とあの(空腹)暮らしに戻らなくていいんだ。幸せいっぱい。



    猫らしく惰眠を貪っていたが、
マーカスが私をモデルに絵をかきたいと言うから付き合う事にした。モデルと言っても庭のブランコの上で丸くなって寝ているだけ、変なポーズをとる必要もない。気楽な頼み事だと完全に気を抜いていた。
「危ない!」
何時の間にか熟睡していたが、マーカスの大声に目を開けたときには最悪な状態だった。筆を洗うため桶が私目掛けて飛んできている。逃げようとしたがビックリしたからか体が固まって動かない。これは間に合わないと諦めて目を閉じだ。
バシャ
普通の猫と違って水は平気だけど頭から水をかけられるのは、やはり嫌な事だ。
カラコロコロン
転がった桶が椅子の足に当たって止まった。
「猫ちゃん、ごめんなさい!」
「うっ」
目を開けると顔にしたたり落ちて来た。

   ずぶ濡れになった体の水を何とかしようとブルブルと揺らす。
しかし、周りに撒き散らしただけで たいして変わりない。
気持ち悪さだけが残った。
自慢のフワフワの毛がベタッと体に張り付いて見ずぼらしい姿になっている。
「はぁ~」
散々な目にあった。小さく溜め息をつく。
「本当にごめんなさい。今 ふくから」
マーカスが雑巾を手に取ると慌ててこちらに向かって来る。それを見てギョッとした。流石に雑巾で体を拭かれるのは、勘弁して欲しい。 
「リサ。待って! 何処行くの?」
後ろでマーカスが騒いでいるが、逃げ出した。


    何とかしたいが、一歩進むたびに水たまりを作る。体が重くて動きづらい。
このまま建物の中に入ると、そこらじゅうが水浸しになる。
(………)
よし! お風呂場に向かおう。
その方が手っ取り早い。湯船は無かったとしても水は有るだろう。
廊下を濡らしながらお風呂場に到着した。僅かに開いているドアに
前肢と鼻先を押し込んでこじ開ける。すると、もわ~んとした湯気が出迎えてくれた。
ラッキー。湯船が用意されている。ぴょんと上手にバスタブの縁に乗っかる。陶器で出来ているからツルツル滑りやすい。
落っこちないように、前肢を入れて湯加減を見る。良い感じ。
湯船の淵からスルリと中に入る。しかし、このままでは深いから溺れてしまう。だからこんな時は昔プールでやったみたいに体の力を抜く、するとプカリと浮いた。これなら溺れる心配はない。ゆらゆらと水面に身を任せる。全身が温められて気持ちいい。時々お湯をお腹にかければ寒くない。
(極楽、極楽)

    「おや、先客が居たね」
ご主人様の声に目を開けると裸で立っている。
何で? どうして? 
お風呂なんだから 裸なのは当たり前だけど、まだ午後になったばかりだ。どうしてお風呂に入るの?
眉間に皺を寄せて予想外の人物の登場に驚く。すると、私の言いたい事を察して答えてくれた。
(目は口程に物を言うかな)
「この後パーティーに出掛けるんだよ」
あっ! そう言う事か。じゃあ、出よう。バスタブの縁に行こうと犬かきならぬ猫かきで泳ぐと、ご主人様が私を出してあげようと手を伸ばした。その手目掛けて淵に近付くと、ご主人様も身を屈めた。すると、目の前に直腹筋の下にある物体がプランとお出迎えしていた。
(なっ、ちょっと、待って!)

   実物を見た事などないけど、形は知っている。ドアップで迫ってくる大事な物から逃げようと仰け反る。しかし、溺れていると勘違いしたご主人様が、身を乗り出したから更に近づいてくる。金髪なのにあそこと毛の色が違う。どうして色が違うんだと、そんなどうでもいいことに気付いた。
直視できない。三次元の物体を見て駄目だと前肢で目を覆う。するとブクブクと沈み始めた。慌てて前肢をバタつかせて縁に向かう。
それに合わせてご主人様のアレが迫ってくる。
(近い。近い。このままじゃ触っちゃう!)
「キャー、キャー」
こっちへ来るなと全部の足をばたつかせた。裸を見たいと思っていたけど、こんな風に見たかったんじゃない。私としては指の間から見るだけで十分だ。
キスさえまだの私には早い。

   お湯が飛び散っているのに何故かアレだけは、はっきり見える。大事な物の後ろにある ちょっと縮んだ皮膚も見えた。
(ヤダ、ヤダもう見たくない!)
「落ち着いて。落ち着いて」
と言ってご主人様が宥めるが無理だ。
「キャー来ないで」
叫んだからかお湯が口の中に入って来る。このままじゃ溺れる。と思った。だけど、気づけば、ご主人様に抱き上げられていた。
「ほら、もう、大丈夫だよ」
その言葉にパニックになっていた気持ちが静まって行く。もう少しでペタリと顔にアレが当たるところだった。
(色んな意味で助かった……)
「ふーっ」
外に出してもらおうとご主人様を見ると、強張った顔で下を見ている。何を見ているのかと、ご主人様の視線の先をなぞる。薄いピンク色の乳輪に色を濃くした乳首があった。
(人間のおっぱい?)
何故か人間のおっぱいがある。
これって……私のおっぱい?
なっ、何で?
これって幻? ご主人様の大事な物を、まじかで見たから頭がおか
しくなったの?
訪ねるようにご主人様を見たが、まだ見てい。私も もう一度見ると乳首がツンと上を向いていた。
えっ、ハッ、何で? 何で反応してるの? 顔を上げると、まだご主人様の視線は乳首に釘付けになっている。見ちゃ駄目。両手で胸を押さえると、ブクブクとお湯の中に隠れるようにしゃがんだ。
「あっ、駄目だ」
ご主人様が騒いでいるが、もうこれ以上は無理だ。容量オーバー。これ以上裸を見せられない。

   恥ずかしくて顔を合わせられない。全身が恥ずかしさに赤く染まる。両手で顔を隠していると急に腕を掴まえられた。放してくれと嫌がったが、ご主人様が掴んでいるその腕は、紛れもなく猫の手だった。
やっぱり、妄想だった。ホッとした途端体から力が抜けた。

***

    「……起きないなぁ~」
マーカスの声に目を開けると圧し掛かるように私を覘き込んでいた。何でマーカスがここに?
「あっ、起きた」
(ああそうか……)
お風呂での一連の事を思い出す。気を失ちゃったから心配かけたかな。でもどちらかと言えば湯あたりだ。大丈夫だと言おうとしたが、その前にマーカスがパタパタと足音をたてて、そのまま何処かへ行ってしまった。
一人になると、さっきの事が勝手に甦ってきた。
(あれって 夢だったんだろうか?)
前肢を上げるとピンク色の肉球が見える。猫のままだ。
もし自分が人間だったらと考えて
淫らな事を想像したってこと? う~ん。でも……その割にリアルに感じた。引き上げられたときピタリとくっついたご主人様の素肌を感じた。胸だけじゃない。お腹も腕にも感じた。
(………)
ご主人様に聞けば夢か現実か分かるけど、ご主人様の顔を思い出すとアレの事も同時に思い出しちゃう。目に焼き付いて忘れられそうにない。しかしアレが通常状態だったら、あの時は何倍になるの? 
……二倍は無いだろ。だったら、一・五倍? 
そんなの無理入らない。
きゃー私の馬鹿! そんな事を想像するなんて。

    一人布団を抱えて体を回転させながらゴロゴロと悶えていたが、
「猫ちゃん。何をやってるの?」
マーカスの言葉にハッとしてピタリと止まる。子供の前でいやらし事を想像するなんて反省しきりだ。
「はいお水。父上が飲ませろって」
そう言ってコップを手渡す。

***

   リチャードは人気も無く静かで暗い廊下を歩きながらシャツのボタンを外す。
「ふーっ」
家に戻って来た安堵から溜め息をつくと、ネクタイを緩める。
(本当なら今夜も彼女を抱いて一緒に眠っていたのに……)
パーティーなど煩わしいだけだ。ちっとちっとも楽しくない。
男は出資してくれと仕事の話。女は一夜でも構わないと、やたら誘って来る。
(人を何だと思っているんだ)
私は金の成る木じゃないし、男娼でもない。思い出すだけでも腹立たしい。苛立ちが、そのまま足音に出る。ズカズカと自分の部屋に向かう。

   ドアを開けると怒りのままドアを閉めた。
バタン! 
思いのほか大きな音が出てハッとして彼女を見るとすやすやと寝ている。
(良かった……)
サイドテーブルのランプの淡い光に照らされて丸くなっている彼女の傍にいく。
その可愛らしい姿に癒される。
「……ただいま」

ふふっ、よく寝てる。
まさか、こんなに早く私の邪な願いが叶うと思わなかった。人間の彼女は背が引く 小柄(私の肩にも届かなかった) だったが、十分 成熟していて大人の女性だった。茹でたトマトみたいに真っ赤になって恥ずかしがってる姿は 食べてしまいたいほど可愛らしかった。
せっかく 喋れるチャンスだったのに、見とれてるうちに猫に戻ってしまった。
(次こそは その声を聞かせてくれ)

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