私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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今日に限って……

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ロアンヌはレグールから手渡された枝をじっと見つめる。 これで本当に見つからないの? こんな子供だましみたいなことで?どうも信じられない。
ディーンは どう思ってるのかと視線
を向けると、すでに枝で姿をカモフラージュしながら小屋へ向かっていた。
レグールを見ると 真面目に枝で顔を隠しながら木の陰に移動している。
( ……… )
 仕方ない。内心ため息をつきながら、自分も同じように枝を顔のそばでもつ。

***

やっとたどり着いた小屋を見て、開いた口がふさがらない。
もし私がクリスなら、 こんなところに連れてきたルーカスにがっかりするだろう。
(もっとましな小屋があるでしょうに)
「……一応小屋と言えるかしら」
小屋を目の当たりにして、ディーンの言っていたのは本当だと納得した。良く今まで持ち堪えられたと変に感心する。隣で見ているレグールも同じ気持ちなのだろう。唖然としる。


「やっぱり、 寝てる」
ディーンの言葉に、その視線の先を見ると用心棒の一人が 壁に寄りかかって目を閉じている。
犯罪を犯しているとは思えないほど警戒心がない。犯人たちは、この場所が絶対、見つから無いと高を括っているのだろう。
だから呑気にしていられるんだ。

「まずは小屋の裏に回ろう。私が先導するから、二人はついて来ること」
分かったと頷く。
レグールが先に行って安全を確認してから、手招きして私達を呼ぶと言うのを何回か繰り返して小屋のギリギリまで近づいた。
「私は、こっち側から様子を見るから、ディーンは そっち側から見てきてくれ」
私に待つように言うと、ディーンが小屋の山側へ レグールが逆の谷側の方へ二手に分かれて偵察に行った。
ロアンヌはクリスの傍まで来ることが出来て安心した。後もう一息で無事助けることが出来る。
(クリス。あと少しだから待ってって)

暫くするとレグールが戻って来た。少し遅れて疲れたような顔をしてディーンが戻って来た。
3人で肩を寄せ合ってヒソヒソと話し合う。ここまで近いと声が漏れる可能性がある。
「どうでしたか?」
「谷側は足場が悪くてあまり近づけなかった」
「小屋の山側に、クリスとルーカス。 入り口の扉の所にもう一人の用心棒
がいました」
「なら、山側から近づこう」
とうとうここまで来た。気を抜かないでいこう。しかし、さっきからディーンが、 黙ったまま何も言わない。
見ると目が死んでる。
何か見たくないもの見たんだろうか?
「ディーン。どうかしたの?」
 声をかけると顔を上げて私たちを見た。その奇妙な表情に驚いてレグールと顔を見合わせる。
「クリスを口説いてましたから、 早く行った方がいいです」
ディーンの話した内容に時間が止まる。
「 ……… 」
「 ……… 」
男が男を口説く?触れてはいけない事にしようとしたが、ある可能性に気付いて スッと立ち上がる。
ルーカスがクリスをさらった目的が、騎士道精神ではなく。自分の欲を叶えるためだったら?
早くしないとクリスのファーストキスの相手が男になってしまう。クリスの貞操が心配だ。
騎士なら礼節は守るだろう。
と言うか、守って欲しいと心の中で祈った。



レグールが手招きして私達は更に、丸くなって顔を付き合わせて作戦を話し出した。
「見張りを倒した後、もう一人の用心棒を、私がおびき出して捕まえる」
そこまで言うと私とディーンを交互に見つめる。どんなことを任されるのかとゴクリと喉を鳴らす。
「クリスがルーカスと2人きりになったら隙を見て中に突入して、救出してくれ」
「分かりました」
「了解です」
「だが、決して無理をするな。いいな」
レグールの念押しに頷く。自分の力を過信して余計な事をして、足手を引っ張ることが一番いけない事だ。慎重に行動しないとクリスが危ない。

****

ディーンはレグールの命令に従いながら、本当は自分がその役を勝手出たかったと思っていた。相手は用心棒だ。救出より敵を倒す方がかっこいい。何よりアピールのチャンスだ。
しかし、自分にレグール以上の実力があるとは思えない。今は自分の出来ることをしようと割りきる。
(チャンスは、また来るさ)
「じゃあ、開始だ」
レグールがそう言って小屋へ歩き出した。
ディーンは隣を歩くロアンヌに、段取りを説明した。ルーカスを足止めすれば、ロアンヌ一人でも何とかなるだろう。
「二人は向かい合う形でいるので、俺がルーカスの気を引きますから、その隙にクリスを連れて逃げて下さい」
「分かったわ。ディーンも気を付けて」
「はい」

先に行っていたレグールが ジェスチャー で、待つように指示すると、忍び足で寄りかかっている髭の用心棒の背後に立つ。そして、さっと口を塞いで小屋から引き離す。髭の用心棒が驚いて暴れるが 手刀で気絶させた。ぐったりとした髭の用心棒を近くの木までレグールが連れて行くと、ディーンは あらかじめ準備していた紐で括ってしばる。その間にロアンヌが猿ぐつわを噛ました。打ち合わせをしてわけでもないのに、連携プレー が上手くいった。

あと一人。

3人で頷きあうと小屋の扉の山側の壁に沿ってロアンヌと立つ。
レグールが その反対側に。
全員が定位置に着いたのを確認すると作戦通りレグールがドアを叩いた。
ドンドン。
「なっ、なんだ」
「どっ、どうしたの」
「良いから、さっさと外を見て来い」
突然聞こえて来たノックの音にルーカスたちが色めき立つ。慌てた様子が筒抜けで聞こえて来る。完全に不意を突いた。ルーカスが用心棒に命令している。
「まさか! 誰か来たの?」
犯人の声に混じってクリスの間の抜けた声がする。その声を聞いてロアンヌが安心したように 笑みを浮かべる。 もう一人の用心棒が出てきたら突入だ。しかし、音だけでは難しい。
中の様子が分かった方がタイミングが分かり易い。ディーンは腰にさしてあるナイフを取り出すと、壁に穴を開けようと刃を立てる。苦も無く削れて中が見えるようになった。

「早く確かめろ。ロアンヌ様、大丈夫です。私に任せて下さい」
「うっ、うん」
クリスが ルーカスのシャツを掴んで、ずっとドアを見ている。もう一人の用心棒は背が低かった。 その背の低い用心棒が抜刀したが 、入ってくると思っているのか壁に張り付く。 随分消極的だ。用心棒だから もっと荒々しいと思っていた。 背の低い用心棒が扉を開けたが、慎重なのかちょっとだけだ。
「ちゃんと外に出て確認しろよ!」
苛立ったようなルーカスの声音に、そろそろかと 三人で壁に張り付いて隠れる。

すると急にドアを蹴破ったみたいに凄い速さでドアが開く。急に迫って来たドアを間一髪で避けた。
「ふぅー」
静かに息を吐く。心臓がドクドクと鳴って息苦しい。二人を見ると自分と同じようにホッとしている。
その後、背の低い用心棒が 一歩一歩、用心しながら小屋から出てきた。
その瞬間、レグールが一歩、背の低い用心棒に近づく。二歩目で剣の柄で首筋を叩いた。俺がルーカスたちに見られないようにドアを閉める。
「くっ」
背の低い用心棒は 何一つ出来ないまま気を失う。三歩目で、背の低い用心棒がを担ぐと四歩目で 小屋から離れる。
一連の動作に無駄は無く。物音一つ立てなかった。
「おい! 何かあったか? 返事をしろ!」
中からは焦ったルーカスの声がするが、勿論誰も返事はない。

とうとう ルーカスとクリスの 二人きりになった。
俺たちの出番だ。
静かに息を吐く。緊張で手汗をかく。
それでもディーンは抜刀して、ロアンヌに目で合図を送る。
ロアンヌが ドアを開けると、すかさず中に侵入してルーカスに剣を向ける。
「おとなしくしろ!」
「きゃあー!」
入ってきた俺に驚いてクリスが悲鳴をあげて尻餅をつく。
「くっ、来るな」
ルーカスがクリスを引っ張り、立たせようとするが 腰を抜かしているのかなかなか立てないで。
そこへロアンヌが飛び込んできた。
「クリス!助けに来たわ」
「ロアンヌ!」
やっと立ち上がったクリスがロアンヌの姿に喜んで、ルーカスを押しのける行こうとした。しかし、ロアンヌの様子が変なことに気づき動きが止る。
「クリ……ス?……」

信じられないようなものを見るようにロアンヌが呆然とクリスを見つめる。 それはそうだ。
女の子に間違われるのを死ぬほど嫌がるクリスが、ドレスを着ているんだから。ロアンヌにとっては 相当のショックのはずだ。
「なっ、なんで?」
その事を思い出したのかクリスが大慌
で、ルーカスの後ろに隠れる。二人のやりとりにルーカスが戸惑ったように
クリスの顔を見る。
「ロアンヌ様…… お知り合いですか?」
「どういうこと? 無理やり着させられたの?」
「えっと……その……」
「クリス! 正直に答えて」
「何を言っている。ロアンヌ様が 自分の意思で着替えたんだ!」
「嘘よ。そんなのあり得ないわ!」
「ロアンヌ様 なんとか言ってください」
「だから……」
「クリス!」
「ロアンヌ様!」

三者三様の様子にディーンは高みの見物を決める。
(修羅場だな)
クリスは、これからどうする気だ?
どんな言い訳を言うのか面白がって待っていると、そこへグールが戻ってきた。
「どうした?」
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