身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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 フィアナは 羽が完全に抜けて人間になったこと心から喜んでいた。アルと同じ人間になれた。それに、ねじれてしまったビビアンの運命が 元に戻って 人間になれることは喜ばしい限りだ。
(ビビアンには、私の分も幸せになって欲しい)

 しかし、アルは そのことを悲しんでいるようだ。未練がましく背中を撫でる。
「やっと本物の人間になったんだから、そんな顔しないで」
慰めるように、アルの頬に手を添える。すると、アルが その手の上に自分の手を重ねて来る。
「でも、羽が無くなったらお母さんと話が出来ないんだろう」
「ええ。でも、心は繋がっているもの」
そう言ってもアルの顔は曇ったまま。
(そんなに気にしなくてもいいのに……)
実は少し前から お母さんとも話ができなくなっていた。それにオーラもだんだん見えなくなっていた。だから、覚悟もあったし、お母さんとは お互いに別れを惜しむ時間がたっぷりあった。 私達親子が平気なのに、人間のアルの方が踏ん切れてないでいる。
おかしなものだ。

 フィアナは、からかうように小首をかしげる。
「それとも……人間になった私には興味が無くなった?」
「ちっ、違う。人間のほうがいい」
慌てたようにアルが首を左右に振る。
フィアナは 人差し指でアルの口角をくいっと上げた。
「だったら、笑って」
強引に笑顔を作ると 予想外の事にアルの目が点になる。間抜けな顔にフィアナは、ぷっと、噴出した。
拗ねたようにアルが、痛む頬を擦りながら私を見る。それがまた笑いを誘う。子供みたいだ。
「ふふっ」
「ははっ」
すると、アルも笑いだした。お互いに ひとしきり笑い会うと、アルが後ろから私を抱きしめる。ぴったりと隙間なく重なったアルの体を感じて、本当に羽が消えたことを改めて実感した。


*****

 ビビアンは フィアナの羽を抱えて大急ぎで妖精王の家に向かっていた。

 人間サイズの羽を、どうやって運ぼう
かと悩んでいたが、渡された羽は妖精サイズに戻っていた。フィアナの話では 抜けると同時に、元の大きさになったらしい。 それでも自分より頭二つ分大きくて、持つのに苦労した。
でも、意外に軽い。それが救いだった。フィアナの羽はアゲハ蝶の形で、私より妖精の粉もいっぱい付いていて、とても綺麗だ。妖精王が私の羽をしょぼいといった意味がわかる。

***

 ドランドル家に着くと、私に気づいた。妖精王がナポレオンに乗って 出迎えるように近づいてくる。

「はい。フィアナの羽よ」
そう言って羽を差し出すと、猫から降りて来た妖精王が嬉しそうに触れる。妖精王にとっても 待ちに待った時間だろう。私も嬉しくなる。 これで長年の呪縛から解放されるのだから。
妖精王が、クラウンの中から何かを取り出す。その何かが大きくなって、金色の杖になった。
(えっ? そんな所に隠していたの?)
驚く私の前で 杖が羽に触れると金の粉になり、クルクルと妖精王の周りを回りだした。これから どうなるのかと固唾を呑んで見守っていると、初めはゆっくりだった回転が次第に激しくなり、最後には眩しい閃光を放った。
その光に、フィアナとぶつかった時の事を思い出していた。
(あの時もこんなふうに光った)

 手で庇を作って終わるのを待っていると、光ったときと同じく 急に消えた。
手をどけると目の前に、妖精王が浮かんでいる。体は大きくなって、私の背を追い越した。その背中には六枚の大きな羽が生えている。
私のトンボの形ともフィアナのアゲハチョウとも違う。特別な形で力強く、神々しい光に包まれている。
舞っている妖精の粉も、私たちのような金色ではなく、ダイヤモンドのように白く透明な粉だ。太陽の光を受けて七色に輝いている。
余りの美しさに声が出ない。

 人間の言葉では説明できない 近寄りがたい雰囲気をまとっている。
(これが妖精王の本来の姿……)
新調した服を着た時のように、妖精王
が体を左右にひねって羽を確かめている。ビビアンは、そんな妖精王を見つめていた。 こうして見ていると確かに王様ね。威厳を感じられる。
「これで、自由になる」
妖精王がそう言うと 空を蹴って飛び上がる。
「なっ、ちょっと! 私との約束は?」
「直ぐに戻るから心配するな」
引き止める私にそれだけ言って、空に向かって垂直にぐんぐん飛んで行く。 まるでロケットみたい。

 何処まで行く気なんだろう。
手で庇を作って、その後を目で追う。
『にやぁ~』(元気だな)
「そうね」
隣で私と同じように空を見上げているナポレオンに同意する。
元に戻れてうれしいのは分かるけど……。太陽と喧嘩でもする気なのかしら?

 豆粒ほどの大きさになるくらい高く飛ぶと金色の杖を高く掲げた。
すると、パリーンと言う何か薄い物が割れたような音がした。何をしたのかと、目を細めて妖精王を見ていると空にひびが入っていた。そう思ったのもつかの間、キラキラしたモノが降って来た。何が起こったの?
「えっ? 雪?」
欠片が地面に付くと雪のように消えて無くなった。だけど、太陽がさしている。それに、落ちてきたモノは六角形じゃない。不規則な形をしたものばかり。

  一体何が降ってきたの? 空を見上げると、さっきより心なしか空が クリアになった気がする。
妖精王の言葉。割れるような音。落ちてきた破片。色がはっきりした空。
(もしかして、外に出られないように魔法で閉じこめられていたの?)
それが壊れたの?
私は自由に出入り出来ていたが、実は妖精王だけ、行動制限がかかっていたんだろうか?
もしそうならずっと、閉じ込められていた理由が分かる。
(妖精王だけが、魔法で出れない作りになっていたのね) 

 そんなことを考えていると、すうーっと妖精王が下まで降りて来ると、私の両手を掴んで頭を下げた。
「感謝しているぞ」
「いっ、……いて……お役に立てて何よりです」
素直に礼を言われると戸惑う。
口喧嘩ばかりしていたから。嫌味のひとつも混ぜると思っていた。でも私を見る目は、そういったものは浮かんでいない。それどころか、やる気に満ちている。

 顔をグイッと近づけてくる。
「約束通り人間に戻してやろう」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。ここは他所の屋敷よ。見つかったら不味いわ」
今すぐ人間に戻しそうな勢いの妖精王をビビアンは 両手を突き出して 慌て止めた。 入る変わった時フィアナが
ウェディングドレスに着替えていたことを考えると、ここで人間に戻ったら丸裸なってしまう。そんな姿で帰ってたら両親が 卒倒してしまう。
久しぶりに両親と 対面することを考えれば、少しでも身なりを整えて安心させたい。
「それもそうだな。お前の家に案内しろ」
やっと家に帰れる。嬉しくてたまらない。どんなに怒られても構わない。
触れるし、私の声が届くんだから。
長くて短かった妖精生活も今日で終わり。今では いい思い出だ。
「行きましょう」
妖精王に向かって元気よく手を差し出す。

*****

アルへ贈るハンカチの刺繍をしていると下から人の争う声が聞こえる。
揉めてる?

 いつも静かで、皆が声を荒げたところを見たこともない。気になったフィアナは
「 ロージー。誰か来たの?」
控えていたロージーに問うと、ぶんぶん首を横に振る。
「何でもありません。奥様は、お気になさらず」
どこかトゲのある言い方に首をひねる。訳ありの相手が訪ねてきた? それとも使用人の誰かが大きなミスをした?探るようにロージーの顔を見ていると、すっと顔を逸らされた。
( ……… )

私に知られたくない内容なんだろう。どうしても気になる。さっと立ち上がって扉を開けようとした。しかし、その前にロージーが両手を広げて立ちふさがる。
「駄目です。ここでおとなしく刺繍の
続きをしていてください」
「 ……… 」
何を必死に隠そうとしているんだろう……。余計に気なる。

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