結婚までの30日

あべ鈴峰

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10 ラブレターの行方?

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アランは、 弁護士のグランドの口から出た人物の名前に 目を見開く。
「本当に 経営者は この男なのか?」
 渡された書類を見ると 確かにその名前が 書いてある。 それでも 信じられない。
 「ああ、間違いない」
 一気に血の気が引いて 目の前が真っ暗になる。 最悪の組み合わせた。
ティアス・ カークランド

 脳裏に血だらけで 自分に許しを請う姿が 浮かぶ。
極東商会といえば 誰もが知っている大手の貿易会社だが。経営者が、貴族嫌いで上流階級との付き合いを 断っているから 謎に包まれていた。 まさか アイツが経営者だったと…。

ここまで成功するなど 夢にも思っていなかった。 飼い犬に手を噛まれた気分だ。
「アラン。 どうした?」
 心配して声をかけてきた グランドに手を突き出して 気付かれないように息を吐く。
「 大丈夫だ。 何でも無い」
「 そうか…」
「 話を続けてくれ」
「… 問題は そのカークランドの自宅が ハッキリしない事だ」

グランドが書類のページをめくると そこには沢山の住所を書かれている。
「これを見てくれ 」
「何なんだ 。これは…」
「 それが原因だ 。全部所有している家だ。 最後の6軒は 事件の後に購入したもので、 郊外にも 数軒 持っている」

並んだ住所を見て 眉間にしわを寄せる。
 金持ちなんだから 持ち家が複数あってもおかしくない 。
「それは分かった。 私が知りたいのは 自宅だ」 
こんなのでは無いと リストを弾く。
「 そんな事は分かっている。だが、 ここに書いてある家全部に  使用人がいて特定が難しい」
「…… それでも自宅は一つだろう」
「 それは…そうだが。 何度 尾行しても巻かれるし、 どの家の使用人たちも口が堅い」
グランドが手こずっているようで、ため息をつく 。
シャーロットに 恩義のあるアイツが、簡単に尻尾を出すはずがない。 だからと言って 諦めたら、これまでの苦労が水の泡だ。
「 とにかく 至急断定してくれ。 金ならいくらでも払う」

「…やれるだけの事はやる」
気乗りしない様子のグランドに アランは腹が立つ 。
元を正せば 、そっちから誘ってきた話なのに 。
何を悠長なことを言っている。
「 やれるんじゃない 。やるんだ! お前だって 金が欲しくて俺を引き入れたんだろう」
「……」
グランドが苦悩の表情を浮かべるが、頷かない。
俺が一言いえば 弁護士資格だって、守秘義務違反 で剥奪されかねないのに。
「違うか!」
「…分かった」
「頼んだぞ」
ひきつった顔でグランドが 部屋を出て行く。

 アランは どさりと椅子に倒れこむと目を瞑る 。
(何としても勝ってやる 。負けるなど プライドが許さない )
目を開けたアランは口を引き締める。

***

 メイドの仕事を教えてくれと言っても 誰も教えてくれない。 それでも しつこく言い続けるとティアスが手紙の仕分けを 執事がいないから、代わりに してくれと頼まれた。

 シャーロットは リストを見ながら 山と積まれた手紙を仕分ける。
「これは… 取引先 。これは… 仕入先」
 手紙を振り分けていると 何処からか良い香りがする 。
「何の匂い ?」
クンクンと匂いのするところに 鼻を近づけて探す。
すると 他の手紙に紛れて 香りの強いものが1通出てきた 。 

これだ!

直接匂いを嗅いでみると 高級な香水の香りがする。 
差出人を見ると おしゃれな字で名前が書いてある 。
ラブレターだ。 

他にもそれらしき物が ぞくぞく 出てくる。
どれも、これも 少しでもティアスの気を引こうと 高級紙や 珍しい色の封筒を使ったり、 生花を同封したりと 涙ぐましい努力の跡がみえる。
ここまでするのかと 思う反面、羨ましくもある。 私も 恋というものを経験してみたい。

**

 シャーロットは 食前酒を楽しんでいるティアスに 手紙の束を差し出しながら 念を押 して言う。
「 これは私信 なので、 読んでいませんわ 」
いくら執事の代わりでも プライベートな事に立ち入っては イケない。
 受け取ったティアスが 差出人を確認もせずに 暖炉に   焼べようとする。
それを見てシャーロットは 思わず声を上げる 。

「待って !」
「どうなさいました ?」
目の前で 彼女たちの努力が日の目を見ることなく 灰になってしまうと思うと 何とも言えない気持ちになる。
「 読まずに燃やしてしまうのは…  薄情なような…」
「 その気が無いんですから 読んでも意味がありません」
「 それは …そうなんですけど …」
ティアスの言うことは正しい。 恋愛において同情は禁物 。
でも、 いとも簡単に切り捨てられるのを見ると 哀れでしかない。

「…… では、読みます」
 手紙の束をじっと見ていたティアスが 一番上の手紙を開封しようとする。
「 駄目! 読まないで 」
シャーロットは 止めた自分の行動に戸惑う。
 言っていることが 矛盾している。
( 私は 読んで欲しいの? それとも、読んで欲しくないの? どっちなの?)
 心の中を覗いても 答えが見つからない。 こんな気持ちになったのは 初めてで モヤモヤする。

 ティアスが 手紙の束を 暖炉に投げ入れると 私をエスコートする。
「 それでは 食事にいたしましょう」
「ええ…」
振り返るとラブレターが 灰となって跡形もない。
 何故か それを見て安心している自分がいる。 
そんな自分も理解できない。
 他人の不幸を喜ぶような人間では 無かったはずなのに…。
 シャーロットは 気持ちを切り替えようと首を振る 。
 今はティアスから 了承を得るのが先。
 そうしないと、一人前のメイドになれない 。

**

ティアスと打ち合わせという名の 食事をしながらチャンスを伺う。
 食事の進み 具合 からして  今が頃合い。

本題 を切り出そうと口を開いたが、
「ティアス…あのね 」
「却下!」
言う前に にべもない返事が返される。
 下手に出ようと思っていた気持ちが 吹っ飛ぶ。 人の話を聞く耳を持っていない態度に出られては 、こちらも構っていられない。

 テーブルに両手をついて 身を乗り出して迫る。 
「まだ、何も言ってませんわ」
「 メイドの件なら 絶対ダメです。 これ以上は 承諾できません 」
「違いますわ 」
いつも正攻法で攻めると思ったら大間違い。
 私の答えに ティアスの顔が微妙に曇る。
 相手の出方がよくわからない時の表情。
「… では 何の話ですか?」

「将来の話ですわ。 私… 結婚したら色々と夫に 尽くしたいと思ってますの」
 真実味を持たせるために 恥ずかしそうに目を伏せながら 手を落ち着きなく 捻る。
 夢見る乙女のような言い草だが 嘘では無い。 私が、そうしたいと思う夫ならする。
「 わざわざ 、メイドの真似事をしなくても シャーロット様が妻ならば、 それだけで十分です。 ですから 事態が収拾するまで 私にお任せください 」
そう言って手を重ねてくるが シャーロットは手を引き抜くと 腕組みして ティアスを見下ろす。
戸惑った顔でティアスが見上げてくる。

「 でも 覚えても損はないでしょう。 ティアスだって 、そうしてもらったら嬉しいでしょ?」
 小首を傾げると ティアスが考え込む。 今後を考えたら、やらせた方が私の為なのかもと 迷っている。
「 …例えば?」
「そうね…」

 やりましたわ!
 これでメイドの仕事が覚えられる 。作戦が成功して 嬉しさのあまり 頬が緩む。 
ここで 気を緩めないように 慎重に言葉を選ぶ。
「 テーブルセッティングとか?…着替えの手伝いとか?」
 シャーロットは横目でティアスの様子を伺いながら メイドの仕事を頭の中で色々と思い浮かべる 。キッチン関係は 指を切るとか火傷するとか言われて 無理そうね 。
ベッドメイク ? 駄目だわ 。妻として夫への 身の回りの世話でないと 怪しまれる。

 お祖母様が お祖父様に していたことを思い出すのよ。
「 髭を剃ってあげるとか?」
 ティアススの表情が柔らかい。 いい感じだわ。 上手く行っている 。
「…体を洗ってあげるとか?」
 答えが気に入らないのか 渋い顔になる。
 何が気に入らないのか さっぱり分からない。 
ティアスのボーダーラインはどこにあるの?

「やはり反対です」
「 どうしてですの?」 
「反対なものは、反対です! 」
ティアスが 声を荒らげると ナプキンを椅子に投げつけて 部屋を出て行こうと している。
 何とかしなくては。 私に次のチャンスを待つ余裕は無い。

「… 戻りなさい!」
「……」
 命令口調で言うと ティアスがピタリと 立ち止まったが 、こちらへ戻ってくる気配がない。
このままでは、物別れになってしまう……。
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