結婚までの30日

あべ鈴峰

文字の大きさ
15 / 21

ティアスの幸せ

しおりを挟む
アランは 満足げに微笑む。
競争相手が いると 言ったことは 効果覿面 。
依頼したその日の夜には 最初の調査書が届けられた。
(こんなに早く 結果が出るなら  最初から頼めば良かった)

 翌朝。
アランは 清々しい気分で朝を迎えた。
 調査書を読みながら ノックの音に返事をする。 
「入れ 」
小間使いが 封筒を手に入ってくる。
 2件目が届いたか 。
「旦那様 。 アダム探偵事務所から 調査書が届いております」
「ん」
封筒を受け取ったのに ぐずぐずと小間使いが出ていかない 。
「何だ?」
「 それが… ビルズ探偵事務所と キャメル探偵社からも 届いています 」
「…分かった」
  いっぺんに 4社に増えた。調査内容を比較検討すれば、自ずとシャーロットの居場所が分かるぞ。

 アランは、小間使いが出て行くと いそいそとペーパーナイフに手を伸ばす。が、 また ノックの音がする。
(用があるなら いっぺんに済ませろ!)
要領の悪さに 呆れながら返事をする。
「入れ」
「 旦那様。 デヴィッド探偵事務所の者が、 直接報告したいと 訪ねてきております」
アランの瞼が ピクリと動く。
どうして、 わざわざ来る? 紙に書いて届ければいいものを こちらの都合はお構いなしか。
 来客は嫌いだ。 金も時間もかかる。
しかし、 重要な情報かも しれない。
とっとと、聞いて 帰ってもらおう。
「分かった」
 アランはペーパーナイフを戻すと 渋々重い腰を上げる 。

すると、また ノックの音がする。
落ち着きがない。 騒がしいのは好きじゃない のに。
アランはイライラと髪を撫で付ける。 
「入れ」
  3人目の小間使いが顔を出す。
 「旦那様 。フォード探偵社の方が お会いしたい と来ています」
 (何なんだ今日は!)
次から次へと、人が訪ねてくる。
これでは 面接と変わらないじゃないか!
 アランは 痛み出した こめかみを押さえる。
怒鳴り出したいのを なんとか耐えていると 4人目の小間使いが姿を現す。
「 旦那様。 イースト」
小間使いの話を 遮って怒鳴る。
「 五月蝿い! どいつもこいつも 勝手に来やがって 」
怒りに任せて机を叩く。
 すると、 5人目の小間使いが、 こっそりとこちらの様子をうかがっている。
全く 朝からうんざりする。

 この調子では 1日中 来客が絶えない 。
今更ながら 全員 に声をかけたことを後悔する。
「はぁ~」
 アランは 深いため息をつくと 仕方なく 重い足取りで 応接室に向かう 。
これで シャーロットの居場所が 分からなかったら、 ただじゃおかない。 ギリギリと歯ぎしりする。

***

シャーロットは 休憩室のドアを 勢いよく開けると お茶を飲んでいるマリアに迫る。
「 今すぐ 紹介状を書いてちょうだい!」
「急に、 どうしたんですか?」
戸惑うマリアを 無視して命令する 。
「 良いから 。私の言う通りにしなさい!」
「…… 」
 マリアが 私の心を探るように じっと見る。
 しかし、シャーロットは 臆することなく見つめ返す。 すると 横からローズが口を挟んでくる。

「 紹介状は ティアスが 書くんですよ」
「…… それでしたら、 口利きで構いませんわ。下級メイドは、紹介状が 不要なんでしょう」
ローズに向き直ると 私もそれくらい知っていると 答える 。
「下級メイドですか?」
「ええ。贅沢なんて 言ってられる状態では、 ありませんもの 」
下級メイドは 十歳ぐらいの子供でも 採用してくれるらしい 。いくら今まで 何もしてしてこなかったとは いえ 17歳ですもの やれるわ!

「この前 出て行かないと 約束たしたはずです。あれは嘘だったんですか?」
「 それは ……」
痛いところを突かれた。マリアの指摘に口ごもる。
確かに、 意見をコロコロ変える優柔不断な人間だと思われても仕方ない。
でも、今と あの時では 状況が違う。
それに、その理由は 言いたくない。
「もしかして、シャーロット。 家出しようとしたの?」
「そっ、それは……」
ローズが 呆れたように言う。秘密がバレて 恥ずかしさに俯く。
「 家出 好きだね」
「なっ」
思わず反論しようと面をあげたが また俯く。
でも、そう言われても仕方が無い。私だって、自力で解決できなら、したい。

 自分の意見が通らないからと 逃げてばかりでは子供と変わらない。 そんなの私らしくない。
いつもは真っ向勝負なのに……。
「 なんか シャーロットらしくないね。 戦いもせずに 逃げ出す なんて 」
「うっ…… …… 」
返す言葉がないと 黙り込む 。
 私はティアスから、  恋の辛さから、 逃げようとしている。 真実を知る私の この想いは 禁じられた恋だから。

「兎に角 私が、この家を出れば 全てが丸く収まりますわ。ですから」
 強引に話をまとめようとすると、怒ったマリアが 食ってかかってくる。
「どうして 、今更そんなことを言うんですか? 虫が良すぎます」
「虫って……」
マリアの言う通りだ 。私はティアスを 利用するだけ利用して 用が済んだと お払い箱にしようとしている。
ティアスにも マリア達にも 恨まれるけど それでも構わない。
「 私は 、…私はティアスに これ以上 迷惑をかけたくないだけですわ」
でも、分かって欲しい。と、思ってしまう。

「迷惑かけても 良いんじゃないですか? 」
しかし、シャーロットは、頑なに それは良くない事だと首を横に振る。
 トラウマの関係者である私が 、ここを立ち去るべきなんだ。 ティアスの心に平穏な日々を取り戻すさせるためには 、こうするしかない。
「 ここに、いればいいじゃないですか?ティアス様も そう望んでいます」
「 いいえ。ティアスは 私が命の恩人だから義理で匿っているだけですわ」
マリアが ため息をつく。
「ふ~」
「 ここまで鈍感だと浮かばれませんね」
「どっ、鈍感?」
 「そうね 。 かわいそうだわ 」
ひどい言われようだ。 私は人より 機微が分かると自負している。 出なかったら貴族社会で生き抜いていけない。
「いったい 私のどこが鈍感だと 言うんですの?」
「そう言うところ」
「なっ、なっ」
そんなふうに 言われては言葉に 詰まる。

「 何を言っているか分かりませんが 、仕事先を紹介してくださいな」
「自分がしたいことを するだけ と言って ましたけど 。 この家を出て行くことが、したい事なんですか?」
「そっ、それは……」
「 それなのに 今回に限って 我慢するんですか?」
 私にだって 分別はある。 匿ってもらったのに それ以上望むなんて。それこそ 虫が良すぎる 。
今、私が したい事は、ティアスを幸せにすること。

「 ここは令嬢パワーで 、ガツンとやってください 」
 その言い方には 語弊がある。 貴族の令嬢たちが みな、 我儘で 他人の気持ちなど考えない 傲慢な人ばかりではない。
「 もう! ローズ。私の事を どう思っているんですの。 私は その辺にいる伯爵令嬢ではありませんことよ」
「知ってる。だからこそ 言ってるんじゃんか」
ますます 判らない。
ローズが、そう言って私を小突く。
 何をするのかと 痛む 腕 をさすりながら 睨むと、 笑顔を返されて 訳が分からない。
「 結婚したくないからと 強盗 しちゃうような伯爵令嬢は、 シャーロット 以外 いないよ」
「そうです。シャーロット様には 誰も敵いません」
「……」
 とても褒め言葉には 聞こえない 。
しかし、二人とも 私のその 無鉄砲な行動力に 期待しているらしい 。
でも、 いったい何が 言いたいのか ピンと来ない。 二人の期待に満ちた目に シャーロット眉を顰める。

***

トボトボと自室に戻りながら、右手で自分の顎を支える。全く言いたい事があるなら 素直に口にすれば良いのに。
( 口にするか……)
そう出来たら、どんなに楽か。

ティアスは、私の事をどう思っているのかしら。命の恩人? 我儘な伯爵令嬢? 政略結婚の被害者? 表情を崩さないティアスからは、 その心の内を読み取るのは難しい。
閉じた瞼の裏にティアスの顔が浮かぶ。 戸惑った顔。 呆れた顔。驚いた顔。 苦しそうな顔。 その全てが私に向けられていた。
( でも……)

そうなのかも しれない 。
私に対して 少しでも好意があるのなら、 その表情に その仕草に現れる。でも、ティアスは いつも私との間に 見えない壁を作っている。
それは 私と親しくなりたくないと思っていないのね……。
ティアスの心を知ったシャーロットは、ため息をつく。 どうして私は命の恩人なの?
 (違った出会い方をしていたら……)
それでも ティアスへの想いが雪のように降り続く。

シャーロットは、雲一つ無い空を見上げる。
その雪もいつか止んで 、この空のように晴れる日が来るだろう。でも、今は雪に埋もれそう。
このままズルズルと この家にいたらティアスの事が 忘れられない 。だからと言って 自分の気持ちを 隠したまま生活するのは 辛い 。
(出ていこう)
そう決めると、これからの事を考え始める。
二人に 口利き してもらうのは 難しそうだ 。
他の使用人に 頼んでも同じだろう 。自分で探すのは 危険すぎる 。
このままでは 逃げることも、 隠れることも 出来ない 。
(どうしたら いいのかしら?)
シャーロット 唇を引き締める。
こうなったら 格安ホテルに 泊まるか、 キャルの家に 居候するしか無いわね。

グズ男も まさか 私が 下町にいるとは 思わないだろう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

王の影姫は真実を言えない

柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。 けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。 一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

処理中です...