年下だけど年上です

あべ鈴峰

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オムレツ

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「魂を守る」
その効果を 聞いたクロエは、ネイサンから返って来た返事に耳を疑う。
 (たっ、魂?今、そう言った? 聞き間違いじゃないの? )
「・・魂・・ですか?」
 魂の存在を否定はしないが、 "守る"という事は 誰かに盗まれたり 壊されたりするという事を示す。何だか、凄く 仰々しい。 そんなこと現実にあるの?

 本気で言ってるのかと、その顔を凝視すると ネイサンが ハッとしたように私を見る。
 何?明らかに何か隠している。 まさか、 それは口実で 。実は惚れさせ為の術式が、 石の中に埋め込まれている みたいなヤバい物を作ってるんじゃないでしょうね? いくら好きでも やって良い事と悪い事がある。

 すると、ネイサンが慌てたように、言い直す。
「つっ、 つまり、たっ、 魂が 守られてると思うくらい。こっ、 心が安らぐ効果があると いうことだ」
「・・ ですよねー」
 なんだ。魂など 言い出したから驚いたが、要は気持ちを落ち着かせる効果があるというこか。
良かった。オーバーに言うから 紛らわししい。

ふと、いつも心配そうに私を見守っていた ビックス領に居る母様(かあさま)の 顔が浮かぶ。 
毎週届く手紙も 自分の事より、私の心配ばかり書いてある。 
そうだ。良い事を思いついた。
 母の誕生日が近い。 離れ離れで寂しい思いをさせているし、いつも手作りの物を 贈っていたけれど、たまには高価なものを送りたい。

「 これ貰っていいですか? 母にプレゼントしたいんです」
「 だったら、私がネックレスに加工してあげよう」
思わぬネイサンの申し出に クロエは、喜ぶ。
誕生日に間に合いそうだ。
「 本当に?ありがとうございます。いくらですか?」
 だったら、 それを似合う箱も用意しないと。
 ラッピングは大事だ 。
そうだなぁ・・。箱を買って、それに絵を書いてもらおう。 確か、絵が得意な使用人が居たはず。

「良いんだよ。伯爵夫人には、お世話になってるからね」
そう言うが タダでというのは申し訳ない。
でも、 何でも出来て 何でも持っているネイサンに 私が出来ることと言えば・・、
 あっ!一つある。そのことを思い出したは、クロエは、交換条件を言う。
「じゃあ、今度 お礼にオムレツを作ってあげますね」
「 そうか!」
ネイサンが 、くいぎみに喜ぶ。それを見てクロエも嬉しくなる。
 一度ご馳走したら好物になってしまった。

***

「よっと」
クロエは、オムレツを フライパンから 皿にうつすと、付け合わせの野菜とピクルスを乗せる。
クロエは、ネイサンとの約束通り厨房でオムレツを作りながら 初めて作ってあげたときの事の事を思い出す。

 こっちの世界も ご多分に漏れず貴族の食事は 大きなお皿に、小さく食べ物を 盛り付けた物が  何皿もでる。 それが当たり前だけど・・。 
常に給仕の者が控えてるし、 会話の最中に皿を交換されたりして 私にしてみれば食べた気がしない。
だからと言って 自分だけ別にしてと わがまま は言えない。 ならば、自分で作ろうと 思い立った。 歳は9歳でも 向こうで生きた20年間の経験がある。

多少見た目は違っても、 こっちの世界にも同じ物がある。 残念なのは調味料の種類が少ないこと。塩や砂糖はあっても、 醤油や味噌はない。 その中で簡単に材料が揃うのはオムレツ。
多少、トマトケチャップが水っぽいけど。

 こっそり オムレツを作って食べていた。
ところが、ある日ネイサンに 見つかってしまった。自分で作ったと言ったが 信じてもらえず 目の前で作って出すと 思いの外喜ばれた。 スープとデザートをつけると ネイサンがフルコースの完成だと驚いていた。

 それ以来、ネイサンの仕事がないときは お昼ご飯を一緒に食べている。
使用人が主人と同席するなど、 けじめが つかないが、ネイサンは私の手料理が好きだし、 注意する人間もいない。

「 はい。お待たせしました」
そう言って 厨房の隅のテーブルで 今や遅しと待っている ネイサンの前にオムレツを置く。
「 いただきます」
 ネイサンが小さな男の子のように、にこにこと笑いながら食べ始める。 それを微笑みながら見つめる。
自分のぶんもテーブルに置くと自分も食べ始める。 一人で食べるより二人で食べた方が 美味しい。 

 ずいぶん 感情を見せるようになったと思う。
 出会った頃は、人と距離をとっていて 7歳の私に対しても遠慮していた。 それが今では、軽口を言うまでになっている。 それほど信頼関係ができたのだと思うと感慨深い。
 だから、もっと役に立ちたい。

私の視線に気づいたネイサンが オムレツの感想を言う。 
「 何度食べても、おいしいよ」
「それは良かったです」
別に今日のオムレツの出来が 気になっていた訳では無い。しかし、 そう言われるのは嬉しい。
自分の作った料理を美味しそうに食べるネイサンを見ていると、 同じように喜んで食べていた向こうの世界の弟の姿が重なる。
 (あの子も、私が作るオムレツが好きだったな・・。元気にしているだろうか?)
「 クロエ。どうかしたのか?」
ネイサンの心配そうな声に、物思いから覚める 。 しまった!ぼんやりしていた。 聞かれるのも面倒だ。クロエは首を横に振って誤魔化すと 話をそらす。
「いいえ、何でもないです。そんな事より ケチャップが ついていますよ」
「えっ、そうか?」

  私の指摘に 恥ずかしそうにネイサンが ナプキンで口を拭う。 逆の口元を拭うネイサンを見てクロエはクスリと笑うと、ナプキンでネイサンの口元についた汚れを拭く。
「こっちですよ」
仕事では完璧なのに、こういうところを見ると、なんだかんだ言っても世話を焼きたくなる。
年は私より11歳上でも、 本当は6歳も下だからかも。
「あっ、ありがとう・・」
ネイサンが、私からナプキンを奪うと ゴシゴシと口を 力まかせに拭いている。
王子ではなく、ただのネイサンの姿に ほっこりする。

 よく見れば、すでにオムレツの残りが1/3になっている。
「 おかわりしますか?」
そう聞くと、ネイサンが おかわりしたいけど 私に手間をかけるから、どうしようと スプーンを弄ぶ。遠慮なんかいらないの に。

それでも食欲が 勝ったようで 躊躇いがちに 切り出す。
「その・・ 頼めるかな?」
「 お任せください 」
クロエは席を立つと ネイサンの食欲を満たしてあげようと フライパンに油をひいて卵を割る。

*****

 ネイサンは執務室の机に 地図を広げると 購入リストを見ながら 赤字で 事件の起きた街に 印をつけていく。
売人を見つける。そう決めたが、闇雲に探しても意味がない。 犯人の行動パターンを理解することが重要だ。
 次に青字で、ここ半年に使われている場所に限定して 印をつける。
『双子石』は、 開発されて以来ずっと悪用されていたが、 特にここ数年 頻繁に使われている。

 人は一度成功すると欲をかいて、 その次その次と 何度も利用するようになって キリがなくなる。行き着くところは、『双子石』を買う金がなくなるか、 敵を全て殺すかの そのどちらかだ。
人ほど恐ろしい生き物は いないそう思える。
 最後の一箇所に印をつけると購入リストを机に置く。 ふと、その分厚い購入リストを見て眉間に眉を寄せる 。このリストも氷山の一角かもしれない。
 (何としても売人を見つけないと)
これ以上 殺人犯を増やしては駄目だ。

出来上がった地図を見ながら、指で顎をこする。 こうして見ると、やはり大きな街に被害が集中している。 人も、金持ちも多いから仕方がないが、調べるとなると、その分厄介だ。
何処に探しに行くにしても、一度で見つけ出さないと。失敗は許せない。
 調査しているのが王子である私だと 気づかれたら 警戒される。 もし、売人同士に横の繋がりがあったら潜伏されてしまう。 そうなったら2、3年は尻尾を掴めない。 下手したら5年になる。

 慎重に場所を選ばないと・・。
 まず、調査対象になる貴族が少なくて頻繁に使われている街。
 ネイサンは青字の印の多い地方の街を見つけ出そうという 地図に指を滑らせる 。
そして、その指が止まる 。
ザンガル。 農耕が盛んでジャガイモと栗が名物。ここが良さそうだ。

行き先が決まったのは良いが、 どうやって探すかだ。ネイサンは手がかりを求めて購入リストをもう一度調べる。 そして、そのリストに書いてある「生存」の文字に目が留まる。
『双子石』だからと、言っても被害者が全員死ぬわけではない。

あまり知られていないが、人間の体のまわりには魔力の膜のようなものがあって 外敵からの侵入を防いでいる。しかし、『双子石』は魔力が強く、 その影響が残ってしまう。
その結果、深い眠りにつく。 どうしてそうなるのかは まだ解明されていない 。 ただひとつ言えるのは 死ぬことく 生き続けるという事だけ 。
10年も目を覚まさない者もいると聞く。 

ネイサンは頭の後ろで腕を組んと天井を見上げる。
 (彼らから事情を聞くことが出来れば、売人まで簡単にたどり着けるのに・・)
生きてるだけで、 喋れないからな。
喋れない? ・・喋らない?・・ だんまり?
・・黙秘?・・!
 そうだ!あの 犯罪者に使う 禁忌の石を父上に融通してもらおう。 そうすれば事件は一気に解決する。

いく場所も 探す方法も 決まったのに、ここにきて大問題が発生する。

一人で調査は出来ない。 いつもはジェームズ爺やに 同行を頼むんだが、『双子石』の危険性から今回は任せられない。
 売人に『双子石』を使われたらジェームズ爺やが、死んでしまう。 

しかし、 私兵を持たぬネイサンには 他に調査を任せられる人間がいないのが現実だ。
(う~ん・・)
 私のように魔力の高い人間が、もう一人いればいいんだが。 そうすれば『双子石』の魔力を弾き飛ばす。どうしたものかと悩む。

どこかに気が利いて、頼りになる人物が居れば良いんだが・・。
「 お茶の時間です」
ノックの音がしてクロエが部屋に入ってくる。もう3時間か・・。
 一息入れようと 机の上を片付けていたが、その手が止る。 
そうだ!クロエだ!
「 どうなさいました?」
 魔力の無いクロエなら、うってつけではないか。こう言ってはなんだが、 魔力の無いクロエの体は 『双子石』から見れば、物と同じだ。
 魔力の影響も受けないし、年の割に聡い。
 しかし・・10歳と言う年齢がネックになる。

 使用人で雇うなら問題無いが、旅に同行させるには幼すぎる。 妹と言い張るには歳が離れすぎているし、 似てない。
 私に変な趣味があると 噂がたっても 困る。
 (どうしたら・・)
悩みどころだ。 だが、適任者はクロエしかいない。 じっと顔を見詰めるとパチパチと瞬きしながらクロエが小首をかしげて見返す。
「ネイサン様?」
 まあ・・化粧すれば、 2、3歳は水増しできるだろう。
「 クロエ。頼みがある」
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