巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第五十四集

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 俊豪は皇太子に狙いを定め、容容は若渓と恋バナに花を咲かせていた。一方その頃現代の天祐は目撃情報があった場所に向かって車を走らせていた。その顔には笑みが浮かんでいた。

皆の協力を得て上司に内緒で早退すること成功した。今度酒でも奢ろう。

 着いた場所は十字路の四隅それぞれに高いビルが並ぶ繁華街だった。
写真が撮られた時間に合わせて此処に来た。
人通りも多い。行きかう男女は派手な服装をしている。どことなく王元っぽい。
そして、子供の姿が全く見えない。
チカチカと店の看板が光り、食べ物屋の匂いが溢れている。共通してどの店も胡散臭そうだ。それが雑居ビルの特徴。
天祐は一番本物っぽい写真を取り出すと、助手席に地図を広げSNSの写真を見比べながら場所を割り出すことにした。
動画? と言う奴なら立ち振る舞いで本人かどうか見分けられる。何故なら現代人は皆姿勢が悪いからだ。後姿でも、歩き方でも、判別しやすいのに……残念だ。

 本物の徐有蓉なら此処を通るはずだ。
車を通りが見える場所に陣取るとバレないようにサングラスを掛けた。
(これで良し!)
視界は悪いが、身元がバレるのは避けたい。



**

 静まり返った 駐車場。
人感センサーのライトが私の行く先を照らす。しかし、その周りは闇に包まれて、そんな中にいると孤独を感じる。
勿論、初日に見つかるとは思っていなかったが、やはり、空振りだと凹む。自宅に戻った天祐はコンビニの袋を机に置く。ネクタイを緩めて椅子に座るとカサカサと音を立てながら袋の中から缶ビールを取り出した。この炭酸と言う弾ける飲み物は歓迎会に参加した時、初めて飲んだ。最初の時は弾ける感覚に新手の毒かと驚いた。吐き出しそうになったが、皆が美味しそうに飲んでいたので毒ではなさそうだと調子を合わせた。しかし、一度も旨いと思った事は無い。
慣れぬ苦みに敬遠していたが、グラスを洗わなくて良いと言う理由で容容が行ってしまってから飲み始めた。洗い物が増えると彼女の不在を突きつけられているようで見たく無かった。プシュッと音を立てて蓋を開けるとその冷たい液体を一気に飲む。
炭酸が喉を通り過ぎる。
「カーッ」
空腹に飲んだから胃がキュッとなる。
缶を机に置こうとした時だらしなく垂れさがっているネクタイが目に入る。
前の部分が短くて後ろの部分が長くなっている。何がいけないんだ?
今日で十日。何度やっても上手く出来ない。

 毎朝、容容にして貰っていた。顎を上げてジッとしていれば良いだけだった……。
(ネクタイごときで苦労するとは……)
見かねた張勇に臨時でも誰かを雇ってはと言われたが、そうしたら彼女の居場所を奪ってしまいそうで嫌だった。何より容容以外の人間に身の回りの世話を任せるのは生理的に無理。縄張りを荒らされる感じがする。
彼女だから着替えも食事を任せられる。
その声も、その笑顔も、その足音さえ、恋しくて堪らない。蓉蓉が居れば何でも上手く行くのに、こんな風に思い悩むことなど無かったのに!
感情のままに二缶目に手を伸ばす。

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 空になった 4本目のエナジードリンクを助手席に放り投げた。
ここに来て三日目。何の手がかりも無い。
そろそろ場所を変えた方が良いのかもしれない。今日も空振りかと諦めて帰ろうとした時、こちらに向かって歩いて来る女にハッとした。本物の有蓉だ。
人目を気にするそぶりも無い。堂々と歩いている。その代わり自分と同じようにサングラスを掛けて変装している。しかし、追い続けていた私の目は誤魔化せない。
徐有蓉の神経の図太さには脱帽する。
私に見つからないと言う自信があるのか、髪をクルクルとうねらせて、派手な赤いコートを着ている。どんな服を着ようと髪の色を変えようがその体から漂う傲慢な雰囲気は消せるものではない。その気位の高さと性根の悪さには右に出る者が居ない。

 捕まえるのは造作も無いが念には念。逃げられて深く潜られては今までの苦労が水の泡になる。気取られないように 後ろ歩きながら、その靴の動きを注視した。立ち止まることも、何処かに立ち寄ることもなく。自分が働いている店に入った。門番のような 屈強な男と顔見知りなのを見ればわかる。


 スマホを取り出して店名をメモする。後は仕事が終わるまで待とう。車に戻ると エナジードリンクの代わりにコーヒーを飲み 眠気を追い払っていた。日にちが変わり生欠伸を噛み殺しているとやっと徐が店から出て来た。
人が多いと見失ってしまうかもしれない。
今度は自宅を調べようと、直ぐに捕まえずに後を付ける。

 予め居場所を知ってしまえば何時でも捕まえられる。声を掛けて来る男達を軽くあしらいながら足早に繁華街を通り過ぎる。その後ろを縫うように続く。
段々人通りが少なくなり追跡するのが難しくなった。一人で歩いている時に後ろに気配を感じると、強盗かもしれない、通り魔かもしれない、そんな風に女子なら警戒するものだ。天祐は懐からペン型のカメラを取り出すと尻ポケットに挿す。続いてスマホを取り出してアプリを起動した。
スマホの画面にカメラの映像が映る。王元が貸してくれた浮気調査用の道具だ。
これさえあれば後ろで何をやっているか分かる。スマホのRECの文字を確認。
大丈夫。録画されている。
徐が裏路地の住宅街に入った。小さな家が軒を連ねている。正直治安の良い所では無い。お嬢様の徐が住んでいるとは思えない。
(こんな所だなんて……)
同情を禁じえない。
落ちぶれたのか? それとも俺の目から逃れるためか……。
小さく かぶりを振った。
どちらにせよこれが今の徐の暮らしだ。
後ろを歩いていた徐有蓉が立ち止まるとスマホを弄りだした。この時代では 何気ない仕草だが、徐がすると不自然に見える。
(………)
画面を拡大した。
指は動いているが画面は見ていない。私の
姿が消えるのを待っている。
(随分、用心深いな……)
怪しまれないように歩調を意識しながら先を行く。しかし 素早く戻り、ポケットに入れたペンを掴んで徐に向かってかざした。
徐有蓉が角を曲がった。
足音を立てないように引き返すと、付かず離れず気付かれないように後ろをついて行く。
人が一人歩けるくらいの細い道だ。
奥に入れば入るほど建物が古くなる。見るからに貧乏人が住んでそうだ。ここは容容が住んでいたアパートより酷い。

 何処まで行くのかと思っていると、ふいに立ち止まった。
(ここに住んでいるのか?)
スマホの画面を見る。徐が誰も居ないのを確かめると青い扉を開けて入っていく。
錆びたような茶色くなっている外階段を上っていく。二階建ての木造の家だ。
そのまま外から見ていると三つの窓の真ん中に明かりがついた。それを確認した天祐は位置情報を検索する。『メゾン・ローズ』
これでよし勤め先も自宅も分かった。
これでどこへ行こうと捕まえられる。

満足してその場を後にした。だが、これだけでは不十分だ。細かい事は面の割れてない王元に頼もう。大通りに向かいながら明るい声で電話を掛けた。
「ああ、王元。頼みたい仕事があるんだが」
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