巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第十七集

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3の15のつづき

 沈天祐は徐有蓉と入れ替わりに 光海に戻ってきた娘を自宅へと送り届けた。しかし、その自分の行動が納得できなかった。死にに行くとまでは言わないが、それぐらいのことが待っている 父親を慕っている 風でもない。
「何故帰りたがる? どうせ帰っても暴力を振るわれるだけだぞ」
「………」
疑問をそのまま口にすると押し黙ったまま、俯いている。



 そんな事分かってる。
天祐さんの指摘は正しい。
それでも、何一つ言い返せない。他人の目から見れば何てバカなんだと思われる。自分でもバカだと思う。でも、私にとってはたった一人の家族。どんなにひどくても親は親だ。それに、一人ぼっちになりたくない。お父さんにそっぽを向かれたらこの世に私の名前を知っている人が居なくなってしまう。俊豪さんに気づいてもらえなかったら私は死んでいた。そんなのはまれで、私の存在を気にかけてくれるのはお父さんだけだ。そのお父さんが私を捨てたら、私の存在が消えてしまう。それは恐ろしいことだ。その気持ちが私をここへ連れてきた。なのに 苦しい。
(………)
唇をかみしめて地面を見る。

 「一月も家を空けたんだ。一緒に行ってやる」
そう言って歩き出した天祐さんを、
「とっ、とんでもない。おきづかいなく」
あわてて手を突き出して止めた。パッとこちらを見た天祐さんに大丈夫だと 笑いかけた。
これ以上迷惑はかけられない。送ってくれただけで十分だ。しかし 逆効果だったのか
天祐さんの眉間のしわが深くなった。
だけど、一緒に行ったら男に色目を使ったと
疑われて最悪殺されるかもしれない。
「本当に大丈夫なのか?」
「だっ、大丈夫です……たぶん」
お父さんは働くのが嫌だから。
なぐられるだろうけど殺されはしないはず。だって私が死んだら酒だって買えなくなるんだから。
「急な仕事だと言えば怒られないんじゃないか?」
「そっ……それは……」
無理だ。皿洗いの人間が出張なんておかしい。三日ならともかく一か月じゃ嘘だと直ぐバレる。
そういえば 言い訳らしい言い訳を考えていなかった。なんて言おう……。
そんな事を考えていると、天祐さんがスーツの内ポケットから財布を取りだした。財布からはみ出ているお札を見ておどろく。すごいお札の量。
「幾らだ。幾らなら、怒られない」
「えっ、あっ……」
なんで会ったばかりの私にそこまでしてくれるんだろう。天祐さんの親切にとまどう。
確かにお金を渡せばお父さんの機嫌が一時的に良くなる。でも、そしたら次もたくさんかせげと言われる。私にそんな大金をかせぐことなど出来ない。そうなったら余計にひどい目にあう。そして私に逃げ場は無い。

 それにしても天祐さんは何を考えているんだろう。ここまで連れて来てくれただけでも親切すぎる。その上お金まで受け取ったら、お金と引きかえに何か頼まれるかもしれない。
(この世にうまい話は無いのに……)

3の16

 天祐にしてみたら金で解決するのは不本意だ。だが、とても有効だと言う事も知っている。これから先は本人の問題。徐有蓉と入れ替わったのは私のせいでは無い。
だから、私に責任は無い。責任は無いが……。
この後この娘がどんな目に遭うかは想像に難くない。だから、少しでもこの娘が酷い目に遭うの減らしてあげたい。そう思っての申し出だったが受け取らない。初対面の男から金を貰うのは躊躇うものだが、疑わしそうな眼で私を黙ったまま見る娘にイライラする。
「欲しいのか、欲しくないのか? どっちだ。さっさと決めろ」
「………」
催促しても黙ったままだ。財布から札を抜いて強引に押し付けると両手を振って断る。
「だっ、大丈夫です、あっ、ありがとうございます。はい。本当に……大丈夫です」
「………」
要らないなら良い。
自分の親切を無下にされた気になるが、肩を竦めるとお札を財布を戻す。
「送っていただいてありがとうございます」
「………」
「えっと、あの……お気をつけてお帰りください」
不慣れな靴でおっかなびっくり歩いて行く娘の後ろ姿をしばらく見ていた。
しかし心の中では、「止めたい。助けたい。守りたい」そんな気持ちが浮かんでは消えていく。しかし、娘が建物の中に入って視界から消えた事で踏ん切りがついた。そう思って娘に背を向けると、車に向かってキーを押す。そして、乗りこもうとドアに手を掛けたが娘の背中を思い出した。何度も殴られても耐えて来たんだろう……。この後も言い訳一つ満足に言えず殴られ続けるだけだ。
「………ああ、もうー仕方ない」
自分でもお節介だと思うが。やはり、どうしても見過ごす事が出来ない。乗り掛かった舟だ。最後まで見届けよう。

 娘を追い掛けて建物の中に入ろうとドアに手を掛けると、割れていてガムテープで補強してあるのに気付いた。良く見ればドアの左右で高さが違う。誰が見てもとんでも無くボロい。だから、エレベーターも無い。
階段の手すりは錆びていて鉄臭い。
「ちっ」
軽く舌打ちすると階段を三段飛ばしで掛け上げる。


 フロアーに着いた時には男の怒鳴り声と謝る女の声が踊り場まで響いていた。
「このあばずれが! よく帰って来れたものだ」
「ごめんなさい。お父さん。ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさい。お父さん、許して」
(言わんこっちゃない)
素直にお金を受けとれば良いものを。
「誰が許すか、この顔を見ろ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさい。二度としないから許して」
聞こえて来たのは謝る言葉ばかり。そうやって父親の怒りが収まるまで謝り続けてまで傍に居たいと思うものなのか? 自分の意見を伝えなければ、誰も自分の話に耳を傾けてなどくれないのに。

 ドアを開けると老人がビニール傘を娘に振り下ろしていた。何度も殴ったから軸が曲がっている。暴力をしつけ と勘違いしてる父親にも腹が立つ。そして、甘んじて体罰を受ける娘にも腹が立つ。この親は子供の事を自分の所有物だと勘違いしている。
「止めろ」
振り返った老人の顔は火鍋のごとく真っ赤だった。
(激昂しているな)
帰って来たのに何でここまで怒りを露わにする。見ると、その顔に新しい傷跡が生々しく残っていた。もしかして……入れ替わったとき気を失うほど折檻されていたと言っていたから、きっと入れ替わった時に徐有蓉に付けられた傷だな。
あの女の事だやられっぱなしのはずがない。
「お前は誰だ。勝手に入って来るんじゃない」
邪魔されたのが腹立たしかったのか私に向かって傘を振り回して来た。それをサッとそれを避けた。
「なっ! この若造が」
「五月蝿い」
「なっ、なんだと!」
父親と揉めていると娘が顔を上げた。
額から出た血が目頭へと流れている。それを見て弱い者いじめは好きじゃないと戦うのを避けていたが、堪忍袋の尾が切れた。つかつかと娘の傍まで行くと腕を掴んで引っ張り起こした。
「行こう」
「えっ?」
フラフラと立ち上がった娘の瞳に驚きが浮かぶ。
「何だと?」
「どっ、何処へですか?」
「いいから、ついて来い」
「こいつは俺のモノだ。連れて帰る」
「天祐さん、待ってください」
「分かったぞ。お前だな。お前が娘をそそのかしたんだな」
怒った老人が私に向けて老人が、またビニール傘を振り上げて襲って来る。まったく暴力で何でも解決したがる奴だ。その傘を片手で掴んで止めると、老人が奪い返そうとする。
そうはさせまいと傘を奪おうとすると老人が一緒に付いてきた。年を取って濁った眼に酒で赤くなった顔。どこから見てもクズ親だ。こんな親の所に居ては無駄死にするだけだ。
「なっ、何だ。放せ」
奪い返そうとするが、ビクともしないことに老人が狼狽する。女子供を殴る以外体を動かさないような奴に負けるはずが無い。
「今度コイツに何かしたら只じゃおかないぞ」
「なっ、なっ、何を」
「覚えておけ」
老人から傘を奪い取ると壁に向かって投げつけると、壁に突き刺さった。その衝撃で壁にひびが入りパラパラと破片が落ちた。
それを見て完全に度肝を抜かれた老人がへなへなと床にしゃがむ。
(これで懲りてくれると良いんだが……)
娘を抱きかかえると部屋を出た。

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