ギャルゲーのはずが攻略対象外男子に好かれてます。

12月

1

 ゆるゆる微睡みの中誰が呼ぶ声がする。
温かく甘い心地の良い声。

 夢心地に口元を緩めれば、唇を柔らかいものが軽く啄む。




 「……んっ」

「なーぎーさっ、いい加減起きないと襲うぞ」




 物騒なセリフを甘ったるい声で耳朶に囁かれ、数秒後ーーー、




「不法侵入すんじゃねー！！！」




  飛び起き様に相手の顔面に裏拳をかました。




「お前にモーニングコールを頼んだ覚えはないっ」




 目覚ましが故意に止められているのを確認し、俺は鼻の辺りを片手で押さえる吉良を睨め付ける。

 


「凪沙の顔が見たくて」

「学校で会えるだろうが」

「可愛い寝顔は学校でゆっくり見られないだろう」

「…吉良警察行こうか」




 文化祭の夜から俺達の関係が変化した。

 雰囲気で流されてしまい、うっかりこいつにファーストキスをくれちまったは思い返すだけで叫び声を上げて消えて無くなりたくなる。



（若さって恐ろしい…）



 あれから朝練の無い日は吉良はわざわざ遠回りして、俺を起こしにくるようになった。

 最初は菜美に玄関を開けてもらっていたがいつのまにか合鍵作ってやがりました。立派な犯罪です。

 しかも起こす時のあの胸焼け起こしそうな甘ったるさ。

 朝一であんなのやられる側の身にもなれ、気を抜いたら死ぬ。恥ずか死ぬ。



（目覚めのイケメンアップ恐るべし）



 自分の破壊力分かっているんだろうか。深い溜息をつき俺は着ているパジャマに手をかけて、振り返る。

 ぶつかる視線。




「………出てけ」

「別に減るものじゃないだろ」




  毎回毎回この男はお約束をしないと気が済まんのか！？

 俺は予め近くに用意していた分厚い辞書を顔面目掛けて投げつけた。