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第2章 アナタに捧ぐ鎮魂歌
16 終わる悪夢の先に ②
しおりを挟む風を切る音と共に流れて行くのは枯れ果てた山林の景色たち。
蠢く木の根が意思を持って次々と襲いかかってくるのを、黒い獣が青い炎を纏った四肢を使い、器用に軽々と避けて行く。
現在、僕たちはギルフィスが喚び出した冥界の番犬に乗って移動中。
山中を目指し移動しようとした途端、木の根が行く手を阻もうと襲いかかってきた。いくらさばいてもキリがない木の根に、最終的に業を煮やした魔王様が自分の眷属を召喚しました。さすがに僕も冥界の幻獣なんて生まれて初めて見たよ。
犬といっても自在に大きさを変えられ、二人を乗せ走る今の大きさは馬よりも一回り大きい。山中を走るには少々窮屈かなと思ったんだけど、半分しか実体がない幻獣は木々の隙間を難なく通り過ぎ、あっという間に道無き道をかけ抜けて行く。
早いし毛並みはすべすべもふもふで触り心地がいいし、冥界の番犬の乗り心地は中々である。
唯一の難点を上げるならば、手綱を引くギルフィスの前に僕が座らされていることだろうか。落ちないようにするためとはいえ、小さな子供のように腰に手を回されているのは、正直言ってかなり恥ずかしい。
「あのっ。どうやって、僕のピンチを知ったんですか?」
恥ずかしさを紛らわすために、疑問に思っていたことを背後に聞こえるよう大声を張り上げた。
能力が封印されている現状、助けに来てもらったことには感謝しているが、偶然にしてはあまりにタイミングが良すぎる。
姿を消していたギルフィスがどこで何をしていたのかは、ノワールさんが襲げ…もとい、訪れた際にすでに説明は受けていた。なんでも、僕と顔を合わせづらくなった魔王様は自国に出戻って、一人寂しくブレスレットを外す方法を探そうとしていた矢先に、貴族間のトラブルに巻き込まれてしまったとか。
若干の個人的観点が垣間見えるが、まあそんな感じで最初はすぐに戻るつもりだったが戻れなくなってしまったので、その代打としてノワールさんが白羽の矢をもぎ取ったらしい。…うん。彼女の言うことを深く考えちゃダメだね。
それはさておき、つまり分からないのは自国に戻っていたはずのギルフィスが、どうやって僕の危機的状況を知り、来たこともない場所に駆けつけたかということだ。
「どうやって…」
「言い方を変えましょう。どんなストーカー行為をしたんですか?」
「………」
「………」
いや、だってねぇ?てっきりアッシュ達と合流して事情を知ったから、僕を助けに来てくれたんだと思っていたのに、確認したら素通りして直行でこっちに来たって言うんだもの。絶対しているでしょう?
僕のストーカー発言に押し黙ることしばし、観念したギルフィスが重い口を開き、自供をしたのは以下の通りである。
魔王様は少し前まで放浪癖があり、よく城を空けてふらふら歩きまわっていたそうだ。王がしょっ中不在なんて国としては問題なのでは?と懸念を口にしたら、人間の国とは王の役割が少々異なるから大丈夫らしい。そうは言っても、王がいなくては処理出来ない案件が無いわけがない。そういう時のための魔族の国では連絡手段として共有魔法を使用しており、今回ギルフィスはノワールさんを通じ、連絡ではなくこちらの様子を窺うために使っていたということだ。
ちなみに共有魔法とは、魔法をかけた相手と一部の感覚や単純な思考を、魔法をかけた者が主導なり共有する魔法する魔法である。簡単に言えば簡易テレパシーといったところかな。
「大体の場所さえ分かれば、後は魔力で君を探せるしな。…どうせ、俺はのぞき魔でストーカーだよ」
おや。拗ねた。僕より何倍も長生きしているのに、時々魔王様も妙に子供っぽいところがあるよね。
腰に回った手に少しだけ力がこもり、つい口元に苦笑いが浮かんでしまう。
仕方なく前方に置いていた重心をずらし、自分より大きな身体に背中をくっつける。驚いたのか背中から、慌てた気配が伝わってきたのがちょっと楽しい。
「アル?」
「略さないで下さい。今回に限っては助かりましたからね。不問にします。って、え、まっ、ちょっ、く、苦しいぃぃぃ!」
振り返って顔を見られない代わりに猫みたいに後頭部を胸に擦り付けたら、腰に回った手にますます力が入り腹部を強い力で締めつけられた。助けに来たくせに僕を殺す気か。腹部を圧迫されて、危うくエクトプラズムですよ。
不問にするって言ったのに、何が不満なんですか貴方はっ。
悲鳴混じりの呻き声にすぐ手の力は緩められたものの、以降、抗議の意味を込めて目的地に着くまで口を聞きませんでした。
枯れた木々を辿り着いたのは、高山の中程にある源流近くの崖の上。崩れた地表がまだ新しい、埋もれかけた自然洞に『彼』はいた。
「人間も中々残忍だな」
ここに来る直前に自分に起こった出来事を説明し、改めて『彼』を目にしたギルフィスが呟いた無感情な言葉が、いやに胸に突き刺さる。
壁に埋め込まれた大樹の真ん中で、禍々しく脈打つ楕円の赤い光。
能力が封印されていても、肌に刺さる悪意は否が応でも分かる。
「……混沌の吹き溜まり…」
場に渦巻くドス黒い感情に、心がひりつき無意識に胸の前で拳を握りこむ。
僕はこれが何なのか知っている。
「まさか一つの命を縛るために、人為的に吹き溜まりを作るとはな。神にでもなろうとしていたのか、彼の一族は余程禁忌が好きだったようだな」
嘲笑めいた声音に呼応するように、血のごとく赤い光が揺らめいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
☆エクトプラズム:心霊関係の言葉ですが、ここでの表現は魂的なものがでかかるイメージです。
半端で申し訳ありませんが、一旦ここで切ります。
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