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第1章王子の多忙な日々
5 婚約フラグは折るべし。
しおりを挟む次の日、僕は今回の討伐と同行したクズの件を報告するため、城の王の執務室にきていた。
事前に人払いをお願いした室内には、この国のトップである王と宰相の二人のみが座り、報告に耳を傾けている。本来なら第一王子の兄もこの場に同席するはずが、自身が在籍する軍部の会議があるとかないとかで、恐らく、逃げた。
「ーー以上です。問題なければ近日中にこの報告書と同じ内容のものを、中央神殿に送らせて頂きます。よろしいでしょうか?」
王宮魔術師の正装である白いローブ姿で、王の左斜めの机に座る宰相に、魔王様を『丁重に』お帰り頂いた後、作成した報告書を手渡した。
『勇者』は国単位での管轄ではなく、唯一神である、創世の女神を祀る神殿が管理している。もちろん、それには理由があるのだが、説明が長くなるなので現状では割愛させて頂きます。残念ながら魔王様を前世のゲームよろしく、ラスボスとして倒すではないのだ。
身分がなければ、直接中央神殿に書類を送ってお終いなんだけどね。あいにく王子な僕は国としての立場もあるから、まず国を通してから神殿に報告という、二重に手間をかけなければならないのだ。
本来なら僕じゃなく、あのクズ達の仕事なんだけどねぇ…。
「…ふむ」
僕の金髪は目の前の父親譲りでそれ以外は母親似だ。因みにこの場にいない兄は父と同じ瞳が焦茶色で、容姿は若い頃の父にそっくりだったりする。
四十代後半という年齢を感じさせないくらい、若々しくがっしりとした体格の父王は、宰相から手渡された報告書に目を通した後、深く頷いた。
「被害も未然に防いだようだしご苦労であったな。件の婚約者についてもこちらで改めて良い相手を用意しよう」
「ありがとうございます」
「しかし、お前にも良い縁談の申し込みが殺到しとるんだかのうー…」
場にそぐわない間延びした声に、臣下の礼をとったままの僕は、ぴしりと固まった。
…またか。また始まったか父よ。態とらしい嘆息を吐くのはやめて下さい。頭が痛くなる。
死んだ魚の目をする僕に見せつけるように、王は鮮やかな手つきで、婚約申し込みと思しき封書を、パッと扇状に広げた。あんたは手品師かいっ!!決まったって、ドヤ顔すんな!!
「この国の有力な貴族から他国の王族まで選り取り見取りだぞ♪」
「謹んで辞退します。何度も申し上げました通り、私には結婚の意思はございません」
突き出されてもカードゲームじゃあるまいし、絶対引きませんよ。僕には全部がジョーカーですからね、それ。
「現在、貴族内では第一王子が次期国王と目され落ち着いてます。私が力ある貴族の令嬢と婚約すれば、すぐに浅慮な者たちが騒ぎ出すでしょう。周辺国とは関係も良好です。一つの国を選べば他の国との今後の関係に影響します。世継ぎは去年第一王子に男子が誕生しましたし王弟殿下も健在です。血脈が途絶える心配は皆無です」
不測の事態があったってチート能力を駆使して、徹底的に排除するつもりだから、父よ安心してあきらめろ。
つらつらと辞退理由を並びたてていけば、王が呆れ半眼になって僕を見る。
「…そこらへんはどうとでもなると、いつも言うておるだろうが。お前は本当に頑固じゃのう」
「ありがとうございます」
「褒めとらん」
「恐れながら私も以前から何度も申し上げておりますが、婚約以前に異性に興味はありません。相手を不幸にするのが分かっている婚姻など、慈悲深き我が王はお喜びにはなりませんでしょう?」
実はすでに性癖はカミングアウト済み。自分の予想以上に縁談がまいこんじゃって、断り辛くなったんだよね。いやぁ、王族って凄いね(自分のしでかしたことせい?え、何のことか知りませんよ?)。家族を悲しませるようなことは言いたくなかったけど、山の様な縁談にいっぱいいっぱいだったから。開き直って、離縁されるなら責務から解放されるしいいやー、なんて開き直ったらーー、
「法を改正すると原案送っただろうが。お前なら男女問わず引く手数多だ」
さすがは国のトップ。…というかなんというか。自分の考えの斜め上の返答を頂きました。息子一人のために国の法変えるとか、あんた親バカ過ぎでしょうが。
「ーいざとなったらお前なら、男でも妊娠する魔法薬作れそうだしな」
おい。
黒い笑みでとんでもない発言をかますのはやめて頂きたい。なまじ顔が整っているから悪役顔が様になっいるじゃないですか。側にいる宰相が無我の境地に達しそうになっているの、気づいてます?、曼珠沙華の下で、悟り開いちゃいそうな遠い目してますよ。ただでさえ後頭部が薄いのに心労で悪化しちゃったら、どう責任とるおつもりですか?
うちの身内のせいで申し訳ない、今度、育毛剤と増毛剤を作って贈っておこう。
「私めなどのために、そこまでお心を砕いて頂き勿体ない限りでございます。が、兄が立太子しましたら王族から籍を抜け一貴族になる所存でございますので。一貴族のためにそこまでしますと他の貴族から批判が上がるかと…」
「全く、お前と来たら事あるごとにそれだ。私はお前が王籍から抜けるのは認めんぞ」
王が呆れ大仰に首を横に降り、話は終いだと、椅子の背もたれに沈み込み目を瞑った。
「申し訳ございません。報告の件は先の通りにさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「うむ」
「では私は退出させていただきます。ーっとそうだ。宰相閣下?」
「は、はい」
呼ばれ、部屋のオブジェ化していた宰相の肩が跳ねる。やだなぁ、そんなに怯えた目をしなくても取って食いませんよ♪
「勇者に同行者に関して少々お尋ねしたいことがあるのですが…」
「ああ、それはぁー…」
そこ、目を泳がせない。黒幕は分かっているけれど、人事の最終決定権があるのは貴方でしょうが。安心してください。ちょぉっと言質をとるだけですから。後頭部?それとこれとは話は別です。
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