小人女子高生の異世界冒険譚~転生したらグロースとミニマムが使えない件~

異世界サボテン

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第33話 少年の夢、そして決意

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「エノク・フランベルジュ・・・前へ進み出られよ!」







格調高いキースさんの声が僕の鼓膜を刺激した。

その声の高さと大きさに僕の脳髄すらも揺さぶられそうだ。







「・・・っはい!」







若干緊張が残る声でキースさんの呼びかけに応える。

心臓の高鳴りが先程から止まらなかった。

辺りには厳粛な雰囲気が流れ、これまで経験したことのない数多の人の視線が僕に集中しているのが分かる。

僕の視線の先には憧れの人が僕を見据えて佇んでいた。

カーラの若き英雄・・・・エレノア殿下その人だった・・・・

僕は彼女の少し前まで進み出ると、片膝を屈して深々と頭を垂れた。

拝謁の予行演習をこの日の為に何度練習したか分からない・・・・

謁見の間に通される間にもエレノア様に失礼がないように何度も頭の中でシミュレーションを重ねた。

いざ本番となって上手く出来たかは不安だけど、自分としてはヘマだけはしなかったと思いたい・・・

謁見の間は玉座までの通りに赤い敷布が敷かれ、クラウディア団長旗下の第9近衛騎士団が道の両脇を固めていた。

クラウディア団長はエレノア様のすぐ横に控えており、他にもアイナさん含め、僕が見知った顔も何人かこの場にいる。







「・・・面を上げなさい。エノク・フランベルジュ」







透き通るようなエレノア様の声に導かれるように僕は顔を上げた。

見目麗しいエレノア様が僕に微笑みかけて来ていた。

その瞬間・・・僕は殿下に心を奪われる。

キラキラと輝く瞳が僕を覗き込むように捉え離さなかった・・・

それは作り物の笑顔だったのかもしれない・・・

だけど、紛れもなく僕の為に殿下が作られた笑顔だった。

一臣民の僕の為だけに、殿下がそのようにしてくれたと考えただけでもう胸が一杯になってしまった・・・







「・・・そなたが、エノク・フランベルジュですか」


「この度は誠に大儀でありました」


「私の要望に応じ、神遺物を取り戻すために大層力を尽くしてくれたとクラウディアより聞き及んでいます」


「そなたが神遺物を持ち去った犯人を突き止めてくれたこと」


「また、犯人によって仕掛けられた罠を見破り、我が騎士団の危機を未然に防いだとも報告を受けています」


「危うく私は神遺物のみならず、掛け替えのない我が配下の忠臣達も失うところでした・・・」


「・・・まさにそなたの先を見通す智慧は“ミーミル“にも勝るとも劣らないものと言えるでしょう」







殿下からお褒めの言葉を賜り、落雷を受けたかのように身体に震えが走る!

その刹那、地面についた手と膝に力が上手く伝わらず、気を抜けばそのまま倒れてしまうかのようなふわふわした感覚が僕を襲った。

・・・あの殿下が僕にこんな言葉を掛けてくれるなんて・・・・!

僕は緊張と興奮と喜びが入り混じった頭で、必死に殿下に返答する言葉を導き出した。

これももちろん予行演習で考えてきた台詞だ。







「・・・・あ、ありがとうございますっ!」


「私のような者には身に余る言葉です!」


「また、この様な場を頂き誠に光栄の極みでございます!!」


「本日、エレノア殿下に直接お会いできたこと僕の終生の誉れとする所存です!!!」







殿下が僕の言葉を受け取ると、一瞬キョトンとした顔になる。

殿下の反応の意味が分からず、僕の頭が真っ白になった。







えっ・・・!?







僕が言葉に窮していると、エレノア様は口元に手をやり何故かクスッと笑われた。







「ふふっ・・・そなたも私のことを“エレノア“と言ってくれるのですね」







あっ・・・・!!しまった!!

この場合はエレオノーラ殿下だった・・・!!!







“エレノア“というのはカーラの臣民が王妹殿下を親しみを込めて呼ぶ名前ではあるが、正式名称ではない。

エレノアという名前はまだ殿下が英雄と呼ばれていなかった頃・・・

殿下に謁見に訪れた幼子がエレオノーラと言うべきところを、「えれのーあ様」と発音してしまったことがある。

しかし、殿下はそれを訂正することなく「はい、私がエレノアよ」と微笑みながら幼子を迎えたという話から来ている。

カーラの臣民達はその話を美談として捉えているが、当の本人である殿下にしてみれば茶化されていると思うかもしれない。







「・・・も、申し訳ありません!!エレオノーラ殿下!!」


「ご、ご無礼をどうぞお許しください!!」







僕は恐縮して再度頭を下げた!

しかし、殿下は怒ることなくむしろ上機嫌に僕に話を続けてきた。







「ふふっ・・・良いのです」


「そなた達市井の者が私の事を“エレノア“と言ってくれるのは私にとって嬉しい事なのです」


「私を偶像として祭り上げられた英雄などではなく、一個人のエレノアとして見てくれているという事」


「それは私とカーラの民を繋ぐ絆と呼べるものであり、民が私を愛してくれている証だと私は思うのです」


「ですので構いません。私のことはこれからもエレノアと呼んでください」


「・・・は、はい!」







そう応えるだけで精一杯だった・・・

僕は顔を伏せながら、そのまましばらく固まってしまう。

で・・殿下に気を使わせてしまった・・・







「・・・殿下」







僕達がそんなやり取りをしていると、殿下の横に控えていた妙齢の女性・・・恐らく秘書の人がエレノア様に何やら耳打ちをしてきた。

何を言っているかは聞こえなかったけど、殿下はそれに頷くと、跪いている僕に改めて視線を合わせてきた。

そして、今度は厳粛な雰囲気で僕に祝辞を述べてくる。







「・・・エノク・フランベルジュ。改めて礼を言いましょう」


「神遺物の奪還こそ今回はなりませんでしたが、そなたのお陰で我々が追うべき相手が明確になりました」


「先の告知の第2項で触れたように、そなたは“襲撃犯、又は神遺物の有力な手がかりを寄こした者“に該当すると言えるでしょう」


「よって、報奨として“300万クレジット“をそなたに下賜します」


「また、今回我が騎士団を救ったその功も評せねばなりません」


「そなたは騎士団の正式な一員でないにも関わらず、犯人追跡の任務に同行し、犯人の仕掛けた恐るべき罠を未然に防ぎました」


「それにより、グラーネの町の民と我が配下の騎士たちの命を救った功があると言えるでしょう」


「よって、そなたにはさらに名誉臣民勲章を授与し、“スヴェルの楯“を下賜します」







エレノア様は僕に祝辞を述べた後、側に控えていた秘書の持ち物に目を向けた。

秘書の人はヘルヴォルの盾が刺繍された旗を持っており、

その上には金貨が大量に入った袋と不思議な模様が描かれた楯が置かれていた。







あれが、スヴェルの楯・・・!?

噂には聞いていたけど、あれがそうなのか!?







・・金貨ももちろん魅力的に違いないのだが、僕の視線はその楯に釘付けにされてしまう。

もちろんあれはレアアイテムだ・・・それも伝説のアイテムの一種。

その楯には太陽と山と海の紋様が描かれ、太陽と山と海の間には両者を隔てるように一筋の壁が描かれている。

神話におけるスヴェルの楯は、太陽の前に置かれ、地上が燃え上がるのを防いだという逸話があるから、その情景を表現しているのだろう。

その名を冠する魔法アイテムだけあって効果も絶大だ。

死の呪い、石化、狂化、強制変身(変化)、毒化、呪縛、など、バッドステータスを除くあらゆる負の状態異常を3度防いでくれる。

世の中には一発で死に至る、もしくはその人の人間性が永久に喪失してしまうような恐ろしい状態異常が存在している。

未知の秘境やダンジョンの探索、あるいは魔物との戦闘など、そのような状態異常にかかる危険はあらゆる場面で出てくる。

その為、冒険をする上で状態異常対策は必須だが、このスヴェルの楯は大冒険者すら喉から手が出るほど欲しい垂涎のアイテムと言えるだろう。

エレノア様は秘書から金貨袋とスヴェルの楯を受け取ると、跪いている僕に差し出してくる。

僕は膝をついたまま両手を高々と掲げ、仰々しく下賜された品を受け取った。







パチパチパチ!!







謁見の間に拍手が沸き起こる。

周囲で報奨の授与を見守っていた騎士達からの祝福に、嬉しさと同時に気恥ずかしさを感じてしまう。

エレノア様や騎士団の人達にしてみれば、今回の件は全て僕の功績だと当然思っている。

しかし、本当にここに立つべき人・・・レイナの事を公表出来ないのがもどかしかった・・・

・・・王都に帰還して数日。

正式に報奨授与のためにエレノア様への謁見が決まった時・・・

僕はレイナに信頼できる人にレイナの事を明かしてもいいか聞いてみた。

もちろん僕がそう聞いた理由は本当に讃えられるべき人が讃えられないこの状況を憂いたからだ。

そしたらレイナは・・・・







『うーん・・・今は必要ないかな』


『クラウディアさん達の事は信頼してない訳ではないんだけどね』


『以前エノクには“あの兄弟“のことを少し話したと思うけど、私がこの世界に転生してきた時にちょっと酷い目にあっちゃってね・・・』


『若干エノク以外の人に対して人間不信感があるのよ・・・』


『それに私達は今、クラウディアさん達に依存している状況でしょ?』


『下手に私のことを話したら状況が思わぬ方向に進んだ時―――』


『―――例えば、私を騎士団で保護する事になるとか、今回の件で英雄として祭り上げられる状況に進むとか・・・』


『・・・まあ彼女たちが私を悪意を持って取り扱うことは無いと思うけど、それが善意だった場合は断りきれなくなると思うのよね』


『私のことを話すのは、私達自身が自立して、自分たちで身を守れるようになってからで良いんじゃない?』







・・・という返事をもらった。

僕自身が彼女のように小さくなったわけではないから、

彼女の立場を完全に理解しているわけではないけど、それでもレイナはとても用心深いと思う。

まあ、レイナの言うことも分かるし、僕も彼女から了解を得るまでは他の人に話すつもりはない。

・・・だけど、いずれはレイナのことを紹介出来たら良いなぁと思っている。

そんな若干のもどかしさを抱えながらも報奨を得た事自体はとても嬉しかった。

僕が報奨品を受け取ると、エレノア殿下は僕の目の前に白いグローブが嵌められた右手を差し出してきた。







「殿下のご温情ありがたく頂戴致します!」







片膝を付いたまま頭を下げて、僕は殿下のその右手にキスをした。

王族から特別な恩寵を頂いた時や大役を仰せつかった時に忠誠を表す動作だ。







「よろしい」


「立ち上がりなさい。エノク・フランベルジュ」







許可をもらった僕は立ち上がり殿下を見据えた。

この時僕は初めて殿下のお顔を間近で拝見することになる。

クラウディア団長も綺麗だけど、エレノア様も別格の美しさを持っているんじゃないだろうか・・・?

アッシュブロンドの髪や、黄金のティアラに白いドレス。

エレノア様のあらゆる箇所から輝くような光が放たれ、僕の目を眩ます。

その背はピンと伸び所作は優雅で華美。

まさに王者としての風格と女神のような美しさを彼女は持っていた。

例え、エレノア様が僕らと同じ様な平装を着ていたとしても、その身から漂う気品で彼女だとすぐに分かるだろう。







「エノク・フランベルジュ・・・最後にそなたに1つ尋ねておきたいことがあります」


「先の告知で述べた様に、わたくしは神遺物奪還に全てを捧げるつもりです」


「貴方のように才能あふれる臣民が市井にいるのは我が国にとっても大いに喜ばしきことです」


「聞くところによればそなたは“ある事情“により仮ではあるものの我が騎士団の一員になっているとのこと・・・」


「私やクラウディアはこのまま貴方の才能を市井に埋もれさせておくのは惜しいと思っています・・・」







そこで殿下は一旦言葉を区切られると、真っ直ぐに僕を見据えてきた。







「正式に私に仕える気はありませんか?」


「・・・・っ!!!」







王妹殿下からの勧誘のお言葉だった・・・







「そなたが魔法技師に強い拘りがあるのは分かっているつもりです」


「もしそなたが承諾してくれれば、仮ではなく正式に騎士団専属の魔法技師として迎い入れるとしましょう」


「また、そなたの知を活かすためにキースと同じく書記官としての地位も用意するつもりです」


「・・・・・」







殿下の言葉を聞き頭の中が真っ白になる。

信じられない・・・・

・・・まさか僕を騎士団に迎い入れようとしてくれるなんて夢みたいだ・・・・

カーラの誰もが憧れ、敬愛する王妹殿下の騎士団に所属するのはこの上ない名誉のことだ。

しかも僕の適性と要望を考慮に入れて、魔法技師として迎え入れようとしてくれている。

親方の工房は辞める事になってしまうだろうけど、自分の魔法技師としての実績を積むことを考えたら間違いなくこれは栄達だ。

カーラ王国の中でこれ以上良いオファーはないと言ってもいいだろう。

だけど・・・・







「申し訳ありません。殿下」


「今この場で即答は出来ません・・・・」


「ご無礼を承知で申し上げます」


「一晩だけ考えさせていただいてもよろしいですか?」







僕は殿下の前で再び膝を屈し謝罪をした。

昔の僕だったら二つ返事で了承の返事をしたと思うけど今は違う・・・

カーラの英雄であり、民の信頼厚い殿下の誘いをすぐに受けないのはあまりにも無礼かもしれない・・・

後でクラウディア団長に怒られるかもしれないな・・・

だけど、今後の僕の進退に大きく関わる判断だ。

どうしてもレイナに相談したかった。

僕の返答を聞いた殿下は少し肩を落とされるものの、頷かれた。







「・・・エノク。分かりました」


「少し性急に過ぎましたね・・・」


「良い返事を期待しています」


「しかし、どのように判断したとしても私はそなたの意思を尊重いたしましょう」


「ありがとうございます!殿下・・・!」







僕は再び深く頭を垂れた。

殿下はそれを見て右手を上げられると、キースさんの方へ向いて目配せをする。

それを見てキースさんは1つ咳払いを挟んだ後、再び高々と声を上げた。







「・・・それではこれにて王妹殿下への謁見、ならびに報奨授与式を終了する!!」


「エノク・フランベルジュ・・・今後も王妹殿下の為に忠節を尽くす事を期待する!」


「閉会!!」







キースさんの言葉を合図にエレノア殿下はクラウディア団長と秘書の人に連れられ、謁見の間を退室していった。

謁見の間にいる騎士達はそれを畏まりながら見送る。

エレノア様が退室後、騎士たちも各々散開していったが、彼女たちの僕を見る視線に怒気が孕んでいた。

謁見の場で殿下の誘いを保留にしたのは、配下にしてみれば主君の面子が潰された形になる。

冷たい視線を受けていたたまれない気持ちになっていると、アイナさんが僕を迎えに来た。

そのまま僕達はエレノア殿下が住まう離宮を後にする。

宿舎へと戻る途中アイナさんは表面上普通だったけど、いつもより言葉が少なげだった気がする・・・













ガチャ!







「レイナ・・・ただいま」


「おお!おかえりエノク!どうだった!?」


「・・・うん。報奨は無事に頂けたよ」







宿舎に戻ってきたら、レイナは興奮気味に僕に状況を聞いてきた。

彼女としては報奨を貰えたかどうかが気になるところだろう。

僕は手に持っているモノを彼女に見せた。

“大量の金貨の袋“に、大冒険者すら欲しがる伝説のアイテムである、“スヴェルの楯“。

レイナはスヴェルの盾がなんの効果があるかは知らないだろうけど、僕が大事そうに抱えている姿を見てすぐに察したようだ。







「・・・おおお!凄いじゃない!!」


「報奨でもらえる予定だった300万クレジットと・・・あと、それは何か特別な恩賞でしょ?」


「伝説のアイテムか何かかしら?」







レイナの台詞に僕は微笑みながら頷いた。







「うん。そうだよ」


「凄いアイテムをくれたよ・・・」


「正直、こんなもの貰っちゃっていいのか迷うくらいにはね・・・」


「・・・うん?」







僕が目を泳がせながら返答すると、レイナはすぐに僕の違和感に気づく。







「・・・な~に?その含むような言い方は?」


「謁見で何かあったの?」


「エレノアさんに嫌味でも言われた感じ?」







想像の斜め上な問いかけに僕は慌てて手を振って否定した。







「いやいやいや!!そんなことないよ!」


「殿下は凄い優しい方だったよ!!」


「僕に気を使ってくれたし、不愉快な思いは全然しなかったよ!!」


「むしろ逆だよ!」


「・・・・逆?」







彼女はさらに眉を顰めて僕に問い詰めてきた。







「・・・うん。実はね・・・」













「・・・という事があったんだ・・・」







僕はレイナにエレノア様から騎士団に誘われたことをすぐに打ち明けた。

僕の人生の転機になるだろう大きな岐路に立っているという事を彼女に知ってもらいたかった。

彼女は頷きながらも黙って僕の話を聞いてくれた。

そして・・・・







「・・・なるほどねぇ」







・・・とだけ、言葉を返した。

もっと反応があると思ったけど・・・レイナは僕の話にもさして驚きはしなかった。







「・・・驚かないのかい?あの王妹殿下から僕は騎士団に誘われたんだよ?」


「これはカーラの臣民にとって凄い名誉なことなんだ」


「僕は未だにあれが夢なんじゃないかと疑っちゃっているよ」







僕がそう言うとレイナは少し逡巡した後、僕に返答してきた。







「・・・うん。まあ、名誉な事は私も分かるわよ?」


「だけど、エレノアさんがエノクを誘ってくるのは至極当然なことだと思っていたからね・・・」


「むしろ、エレノアさんの見る目に間違いがないと分かってホッとしたくらいよ」


「・・・・えっ・・?」







レイナの言葉に僕は驚く。

エレノア様が僕を誘うのは当然だって・・・?

そんな恐れ多い事を・・・

僕とレイナの認識が噛み合わなくて戸惑ってしまう。







「・・・もしかして、僕に自信を持たせようとして持ち上げてくれているのかい?」


「でも、今はレイナに正直に答えてほしいんだよ・・・」


「僕が過剰な評価を受けているのは分かっているんだ」


「レイナが本当に評価されるべきところを、僕がその功績を横取りしてしまっているからね」


「分不相応な役職を得ようとしてしまっているというのに、エレノア様から勧誘されて僕は喜んでしまっている」


「でも騎士団に雇われるということは、僕達が自由に冒険できなくなることも意味しているし、僕は断りたいとも思っているんだ」


「・・・レイナはどう思う?」


「・・・僕はエレノア様の勧誘を受けるべきなのかな?」


「・・・ううん・・・」







レイナは考え込むように唸ると、頬をポリポリとかきながら僕に返答してきた。







「・・・まず、何か勘違いしているようだから訂正しておくけど・・・私は別にエノクを持ち上げてなんかいないわよ?」


「・・・!?」







彼女の返事の第一声がそれだった。

僕が眉をひそめると、彼女はさらに言葉を続けてきた。







「私はこの世界の事をまだきちんと知っているわけじゃないけど、それでもエノクが凄い人間だというのは分かるわよ」


「エノクが持っている魔法やアイテムの知識、そして状況の分析力があればこそ、私はあの推理が出来たと言っても過言ではない」


「今回の報奨の功績の半分が私にあるとすれば、もう半分は間違いなくエノクね」


「だからエレノアさんがエノクを誘うのは至極当然だと思ったのは私の本音」


「・・・・・」







意外だった・・・

レイナが僕をそんな高く評価してくれているなんて・・・・







「あと、エレノアさんの誘いを受けるかどうかだけど・・・」


「・・・この際だから、私が逆にエノクに聞きたいわね・・・」


「エノクは私と冒険に出ても本当に後悔しないの?」


「・・・えっ・・・・」







思わぬ逆質問に僕はまたしても戸惑ってしまう。







「エノクの人生を掛けるに足る目標が冒険に出なくても叶えられるものなら、わざわざ危険を犯す必要はないと思う」


「私のバッドステータスの解呪の為に冒険に出る話をしたけど、でもそれはあくまで私自身のためよ」


「エノクにしてみれば、素性の知らない転生者の手助けをする事になり命を落とす危険性もある」


「・・・・・」







人生を掛けるに足る目標・・・







「私はもちろんエノクが一緒に冒険に出てくれると嬉しいけどね・・・」


「だけど同時にカーラ王国の魔法技師として花開こうとしているあなたを私のわがままに巻き込んじゃうかと思うと、少し申し訳ない気持ちにもなる」







そう言って言葉を区切った後、レイナは僕の瞳を真っ直ぐに見つめてきた。

その目は真剣そのものだ。

有無を言わさない気迫が僕に伝わってきた・・・







「・・・改めて聞くわ。エノク・フランベルジュ」


「あなたは自分の人生を掛けてまで冒険に出る覚悟があるの?」







レイナ・・・

彼女の瞳に吸い込まれそうだった・・・

彼女の覚悟の決まった目。

そうか、レイナはずっと決めてたんだな・・・







「・・・・・」







レイナの問いに僕はすぐに答えられなかった・・・

瞼を閉じてしばし瞑想にふける。

冒険に僕の人生を掛ける価値があるか・・・・

この問いにもしノーと答えたら、レイナは二度と冒険に行こうなんて言わないかもしれない・・・

もちろんレイナは今の暮らしに満足している訳では無いだろう。

小人の姿では人としての当たり前の幸福を享受することすら出来ない。

バッドステータスを解呪できるならしたいに決まっている。

だからこそ冒険に行くとレイナは明言しているのだ。

では、僕が冒険に出る理由はなんだ?

僕が冒険に出る理由・・・もちろんレイナのバッドステータスを治したいというのも理由としてあるだろう。

レイナには言ってはいないけど・・・僕はあの日、あの時、何か運命めいたものを感じた。

僕の家に迷い込んできた小さな女の子を拾い上げた時に彼女の美しさに魅了されたのだ。

そして、今は彼女の神秘的な先見力にも惹かれている。

もちろんちょっとお調子者で軽口を叩くレイナも好きだ。

僕は最初から今に至るまでずっとレイナに惹かれ続けている。

最初は何となく綺麗な子だなとしか、思わなかったけど、

今じゃその才色兼備なレイナの全てに惚れ込んでしまっていると言ってもいい。

こんな事恥ずかしくて、レイナには絶対言えないけどね・・・・

好きな女の子を助けたい・・・男が冒険に命を掛ける理由としては十分だ。







では、僕自身の夢はどうか?

僕の夢は神話のアイテムを創作することだ。

・・・その為には僕自身のレベルも上げなければならないのは言うまでもない。

僕のプライマリースキルは”アナライズ”と”創作能力向上”。

僕自身が神からの贈り物だと思うくらい魔法技師として有用な能力だ。

だけど、これを活かすも殺すも僕自身の努力による。

プライマリースキルは使いこなせなければ、セカンダリースキルと全くと言って良いほど変わらない。

ただ、注ぎ込めるMPの上限が違うだけで、そもそもその上限に達する能力を持っていないと宝の持ち腐れになってしまう。

プライマリースキルがセカンダリースキルと隔絶した能力を発揮し始めるのは、

熟練の冒険者と言われるLv50以上の領域に到達した達人になってからだと言われている。

そこに到達しなければ、この与えられた魔法技師としての才能は真の能力を発揮することなく僕は生涯を終えることになる・・・







・・・そんなのはいやだ・・・!!







僕の中に明確に否定の感情が沸き起こる。

僕は自分の才能を活かしたいと思っている。

その為には、常人では体験しえない数々の経験を得て、自らレベルを上げる必要がある。

じゃあ・・・僕がこのまま騎士団に参加してそれは叶えられるのか・・・?

騎士団に参加すれば、僕はこれまで以上に色々な経験をすることは間違いない。

魔物との戦闘もあるだろうし、任務によっては世界中の色々な場所へ出かけることもあるだろうし、未知の体験もするだろう。

僕のレベルが上がっていくことは間違いない。

ただ、自由にそれが体験出来るかと言われればもちろん否だ・・・・

騎士団の最優先事項はエレノア様の護衛なのは言うまでもない事。

よしんば、神遺物の探索部隊に僕が配属されたとしても僕は後方支援に回されるだろう。

僕は戦闘向きの能力を得ていないし、もっぱら騎士団のサポート役に徹するだろうことは想像に難くない。

もちろん騎士団の皆は、得体のしれない冒険者たちよりもずっと信頼が置ける。

カーラ王国の騎士団という最高の環境に身を置きながら僕は安全にレベルを上げられる。

・・・そう、安全に確実に強くなるのであれば騎士団に入団したほうが間違いないのだ。

・・・だけど・・・・それでは熟練の冒険者以上には恐らくなれない。

確かに彼女たちは一般人よりも遥かに強い・・・

カーラ王国の軍人は熟練の冒険者にも匹敵する豪の者も多いと僕は聞いている。

第9近衛騎士団の最高戦力は副団長のエミリアという人だと僕はアイナさんから聞いていた。

そしてエミリアさんのLvは”45”・・・・十分強い。

一般人など瞬殺できるくらい強いし、彼女だったら熟練の冒険者にも対抗できるだろう。

・・・だけど、そこまでだ。

たぶん僕はそれ以上は強くなれないだろう・・・

冒険者とそれ以外の人には埋められない差というものが存在する。

冒険者は未知のダンジョンや魔物を相手にするため、常に生死を掛けて日常を過ごしている。

一方騎士団は鍛錬をしているが、それでも冒険者のように常に気を張っている訳でもないし、常時魔物と戦闘をしているわけでもない。

修羅場をくぐり抜ける機会が全然違うのだ。

それはつまり自分の能力の限界が事実上決められているということになる・・・

熟練の冒険者止まりでは、神話のアイテムの創作なんて夢のまた夢だろう・・・

僕の夢は、文字通り夢のままに終わる・・・・







・・・・・いやだ!!







心の奥底から、マグマの煮えたぎるような激情が僕を猛烈に焦がした!

確かに命は惜しい・・・あの巨人に踏み潰されそうになった時・・・僕は何を差し置いても生きたいと思った。

魔法科学の真髄である神話のアイテムをこの目に焼き付けるまで僕は死ねないと思った。

人間の能力がどれほどのものになるのかを僕は知りたい!

そして、人類の未来の可能性を垣間見たい!

それを知れないまま死ぬなんて嫌だった。

思考の深い深い渦の中に入ってようやく僕は悟る。

僕はどうやら想像以上に自分の中に強い欲望があったようだ。

自分の人生を捧げるに値する目標。

それが・・・冒険の先にこそあるのを僕は今になってようやく知覚するに至ったのだ・・・

なんだ・・・

レイナに関係なく僕は冒険に出たかったんだ・・・

結論が導かれた僕は驚くほど平静な気持ちになる。

そして。僕はゆっくりと目を開けた。







「エノク・・・」







レイナがじっと僕を見つめていた。

その瞳に僅かな戸惑いと、諦観の気持ちが見て取れる。

僕の回答を待っている間、レイナはどのような気持ちでいたのだろうか。

レイナを不安にさせていたかも知れないな・・・

気持ちをハッキリさせてこなかった事を申し訳なく思う。

僕はレイナの視線を受け止めて、静かに彼女に語り始めた。







「レイナ・・・ようやく分かったよ」


「僕自身の気持ちと、本当のやりたい事がね・・・」


「レイナの言葉を吟味してようやく分かるなんて、全く僕はどんだけ鈍いんだろうね・・・ハハッ」


「・・・・・」







重々しい空気の中に僕の自嘲の言葉が虚しくこだまする。

引っ越したばかりということもあり、最低限の荷物しか存在しないこの部屋はやけに空気の通りが良かった。

抑えめに発した声ですら部屋全体に拡散し、広々とした空間は空虚な感情をより隆起させる。

僕の言葉にレイナはピクリと反応を示すと、首を一回縦に振り、その顔に掛かった前髪を両手でかき分けた。

そして、僕の答えを待つかのように、じっと僕を見返してきた。

僕はそんな彼女を見据えると、一旦大きく息を吐いて呼吸を整えた。

僅かに緊張が残る面持ちで言葉を続ける。







「結論から言うね・・・僕は冒険に出たい」


「これは誰に言われたからという訳でもない」


「僕自身の内にある、飽くなき探究心と創作の意欲が僕に冒険に出ることを訴え掛けてきたんだ」


「・・・冒険に出なければ僕は後悔するって今ハッキリわかった」


「・・・僕は神話のアイテムを創作して、人々の未来の役に立ちたい」


「・・・この“堕ちた牢獄の世界“・・・争いと大魔王の呪いが宿命付けられた世界を今よりも良くしたい」


「人々と世界の未来をこの目で直に見届けたいんだ」


「僕が魔法技師を目指した理由はそれだ。これは僕の人生を捧げるに足る目標だ」


「・・・・・」







レイナは黙って僕の述懐を聞いている。

心なしか、彼女の目は少し潤んでいるようにも見えた。







「自分を鍛え今よりもさらに知識と経験を積まなければ、僕のこの夢は本当に夢で終わる・・・」


「そんなのは嫌だ・・・・!!」


「だから僕は自分の意思で冒険に出るよ」 


「レイナ・・・こんな僕のわがままに付き合ってくれるかい?」


「・・・・っ」







レイナは目尻を手の甲で拭うと、コクリと一つ頷いた。







「いいわ・・・なら一緒に冒険に出ましょう!」







そして、今度は満面の笑みで応え手を差し出してくる。

レイナの言葉に僕も微笑みながら頷くと、僕たちは改めて握手を交わすのだった・・・・・















「そうですか・・・そなたはそう決断したのですね」


「はい・・・・殿下のご期待に添えぬ形になってしまい誠に申し訳ございません・・・」







殿下に深々と頭を下げながら僕は詫びの言葉を口にする。

新たな決意を誓った翌日・・・僕は殿下の執務室を訪れていた。

殿下のお部屋は意外なほど質素で、とても華々しい英雄譚を持っている方のお部屋とは思えなかった。

部屋にはエレノア殿下とクラウディア団長。

副団長のエミリアさんにアイナさんと秘書のリーファさんがいる。

殿下は僕の言葉を黙って聞いてくれた。

口述が終わった後僕は殿下を仰ぎ見たがその表情からは感情を読み取れなかった。

達観の表情といえばいいだろうか。

殿下が今どういうお気持ちを抱かれているのか分からない。

お気を悪くされていないといいけど・・・







「残念ではない・・・と言えば嘘になります」


「特にそなたを推薦したクラウディアは誠に惜しいと思うはずです・・・」


「はい・・・申し訳ございません・・・・」







殿下の言葉に僕は謝罪しか返すことが出来なかった。

クラウディア団長にも申し訳なく思う。

エレノア様の横に彼女も控えているが、どんな顔をして僕を見ているのだろうか・・・

クラウディア団長と顔を合わせづらかった・・・







「・・・咎めるつもりはもちろんありませぬ」


「そなたも事情あってのことだと重々承知しています」


「しかし、理由を聞いても良いですか?」


「わたくしの誘いを断った訳を知りたいのです・・・」


「はい・・・」







エレノア様へのせめてもの返礼は、自分の気持ちを嘘偽ることなくお伝えすることだろう。

顔を上げた僕は殿下の視線を真っ直ぐに受け止めた。







「自分には夢がございます」


「魔法技師として今よりもさらに研鑽を積み、神遺物の創作をするという目標でございます」


「自分の人生を捧げても、私は古の技術を会得しカーラのため・・・そして人類の未来のために尽くしたいと思うのです」


「・・・・・」







エレノア殿下の側に控えているクラウディア団長にチラリと目線を移すと、彼女は驚きの表情をしていた。

彼女には僕の夢のことは話していたが、ここまで本気で僕が考えていたとは思っていなかったかも知れない。

まあ、それも当然だ・・・

あの時はまだ自分の目標は明確ではなかったし、本気でそれを目指そうとする腹も決まっていなかった。

半分本気、半分冗談だと捉えられても仕方がない。

それがこの土壇場・・・カーラの英雄である王妹殿下の誘いを断ってでも、その夢物語を追求したいなんて言い出したんだ。

一体僕の心境に何の変化があったのだと疑っているのかも知れない。

一方、エレノア殿下は僕の話を表情一つ変えず黙って聞いてくれていた。

殿下の心情をそこから読み取ることは出来ないが、今の僕に出来るのは誠心誠意話を続けることだけだ。







「自分の夢を成し遂げるために、私は大冒険者にも匹敵する力を身に付けなけねばなりません」


「その為には、カーラの地から離れ、数多の魔物を倒し、」


「そして、この広い世界を冒険して神遺物創作の謎を突き止める必要がございます」


「故に、自分は冒険することを決意いたしました」


「もちろん旅をする中で奪われた遺物の情報があった時はエレノア様にご報告申し上げる所存です」


「どうかご容赦の程、お願い申し上げます」







最後の言葉を言い終わると、再び膝を屈して僕は深々と殿下に頭を垂れた。

彼女たち全員誰一人笑うものはいない。

誰も僕の話を与太話と思わず、皆真剣に聞いてくれていた。

クラウディア団長以外にも、エミリアさんやリーファさんも僕の話を聞いて少なからず驚いている様子だった。

彼女たちから嘆息の声が聞こえてくる。

アイナさんだけは相変わらず無反応のままだったけど・・・







「・・・それがそなたの決めた道なのですね」


「なるほど私では引き止められぬ訳です」


「そなたの目を見れば分かります。そなたは全く嘘をついていない・・・」


「本気で己の人生を掛けてでも神遺物の創作をしようと考えている」


「どうやら私はそなたの事を見誤っていたようですね・・・」







エレノア殿下は僕の言葉を聞き終わると、晴れ晴れとした表情で僕を見つめた。







「エノク・フランベルジュ。そなたの行く道は誠に困難でしょう」


「幾度の試練がそなたの前に立ちふさがることでしょう」


「しかし、決して諦めてはなりませぬ」


「そなたなら失われた錬金術の秘技も解き明かせるかも知れません」


「そして“新たな世界“を開くことも夢ではないかも知れませぬ・・・」


「私はこれ以上何も出来ませんが、せめてそなたの旅の無事を祈るとしましょう」


「そなたの行く末に偉大なるリーヴ神とヘルヴォルの導きがあらんことを・・・」







エレノア様は白いグローブが嵌められた右手を高々と僕の頭上に掲げられた。

右手を上げる意味はその人の立場や職種によって違うが、この場合は「祝福」を意味する。

殿下が僕をお認めになった証だ。







「殿下・・・ありがとうございます・・・!」







殿下に深々と再び頭を下げた。

エレノア様は頷くと、クラウディア団長に顔を向けた。







「クラウディア・・・エノクを我が騎士団に迎え入れられなかったのは残念ですが、これもノルンの導きなのかもしれません・・・」


「旅立ちまで彼を出来るだけ助けてあげなさい。それが彼へのせめてもの礼でしょう」


「・・・・はっ!承りました」







エレノア殿下の言葉にクラウディア団長も頭をさげる。

僕を騎士団に推薦してくれたのは他ならぬクラウディア団長だ。

表情には出ていないが、彼女にも当然思うところがあるだろう。

旅立ちの前にクラウディア団長に直接会ってこれまでのお礼と挨拶をしなければならないな・・・・







「では、行きなさい。エノク・フランベルジュ」


「はい!殿下失礼します」







エレノア様に別れを告げ、僕はアイナさんと一緒に執務室を退室した。

部屋の外に出るとアイナさんは僕に一瞥くれる。

そして、そのまま付いてこいと言わんばかりに歩き出す。







「・・・・・」


「・・・・・」







無言のまま僕たちはエレノア様の離宮を離れ騎士団宿舎に向かった。

うっ・・きまずい・・・

事実上僕は騎士団との決別を宣言したに等しい。

クラウディア団長やアイナさんには多大にお世話になったということもあるから、彼女たちとは気持ちよく別れをしたいものだ。

下を向きながらどうすればいいだろうと僕が悩んでいると・・・







「・・・意外でした」


「・・・・えっ」







突然の言葉に僕は反応が遅れる。

アイナさんが前を向いて歩きながらふと僕に語りかけてきた。








「エノクさんは王妹殿下の提案を間違いなく受け入れるだろうと隊長も私も思っていました・・・」


「貴方にとっても悪い提案ではなかったはずですからね」


「それにあなたの王妹殿下への忠誠と敬愛は本物だとも思っていましたから・・・」


「・・・・・」







アイナさんの独白にも似た言葉に何も返せなかった・・・

僕だってカーラの英雄であるエレノア様に仕えられたらどんなにいいだろうと思う。

その気持ちは今も変わりはしない。

しかし、自分の夢はまた別にあると僕は気づいてしまった。

その為には僕は己を鍛えることを優先しなければならない。

自らの夢を叶えられる実力を身につけた後は僕は王妹殿下に仕えたいとも思っている。

流石にこれは虫が良すぎるからこんな事は誰にも言えないけどね・・・・

それに殿下はもう僕を誘うことはないだろうし、僕が望んでももう受け入れないだろう。

従って、この場でアイナさんにどう回答したところで彼女に満足のゆく答えは返せない。

「殿下への忠誠は本物です!」なんて下手に取り繕ってしまえば彼女の心象を今よりも悪くするだけだ。

だから僕は黙っているしかなかった・・・

アイナさんは僕の沈黙を察してか、それ以上何も言ってこなかった。

しかし、宿舎の部屋に到着した後、別れ際彼女から思わぬ言葉を掛けられる。







「エノクさん・・・勘違いされているかもしれないので言っておきます」


「私はあなたの選択に驚きはしましたが、正しい選択をしたと思っています」


「私としてもエノクさんに騎士団に入って欲しかったですが、貴方が冒険を優先する理由も理解できるのです」


「王妹殿下の要望に応えることは国家の大義に叶うものですが、あなたの成し遂げようとする目標はそれ以上・・・全ての種族と世界の繁栄に関わるもの」


「あの場であんな事を言われてしまっては誰も貴方を引き留める事は出来なかったでしょう」


「私達は想像以上の大人物を勧誘していたのかも知れませんね・・・・ふふっ」







そう言い終わると、珍しくアイナさんは破顔した。







「貴方の旅立ちまで私は引き続きサポートするつもりです」


「何なりとおっしゃってください」


「・・・では!」







バタン!







ビシッ!っと僕に敬礼をしてからアイナさんは部屋を出ていった。







「・・・アイナさん」







彼女の言葉に僕は胸がいっぱいになる。

彼女は別に怒ってはいなかった。

むしろ僕の背中を後押ししてくれた・・・

彼女には本当感謝しか無いな・・・







「良い人ね、アイナさんって・・・」







僕がアイナさんの言葉の余韻に浸っていると、仮設住宅で僕の帰りを待っていたレイナが顔を見せた。







「そうだね・・・僕が断った後でも彼女は自分の任務を全うしようとしている」


「クラウディア団長と騎士団の人達が高潔さを持っている事がよく分かるよ」


「カインとその部下たちとは大違いだよね・・・」


「ふふっ・・・・」







レイナが僕の言葉に苦笑する。

僕がカインとクラウディア団長達を比べたのがおかしかったのだろう。

クラウディア団長もカインも貴族の家柄であるけど、その性格や志は天と地ほども違うといって良い。

同じ貴族でもここまで違ってくるのかと驚くばかりだ。

人と直接接することによってその人となりが初めて分かる。

今回の件で僕は少なからず、貴族にも立派な人がいるんだとわかったのはとても良かった。

クラウディア団長に会うことがなければ僕は貴族そのものに不信感を抱き、変な偏見を持ちつづけてたかも知れない。







「・・・断ったこと、少し後悔している?」







レイナが顔色を伺うかのように尋ねてきたので、僕は首を振る。







「・・・いいや」


「確かに少し名残惜しさはあるけど後悔はないよ」


「殿下も僕に理解を示してくれて、最後には祝福までしてくれたんだ」


「むしろ今日断らなかったら、僕は後悔していただろうね」







今の僕には後悔はなくただ安堵感があるのみだった。

細かく言わなくてもレイナは僕の気持ちを察してくれたのだろう。







「・・・そっか」







と僕の言葉に感慨深げに呟く。

僕がエレノア殿下をとても敬愛している事をレイナも重々承知している。

冒険の為に殿下の誘いを断る選択したとはいえ、殿下の理解を得られるに越したことはなかった。

事態が丸く収まって今はホッとしているというのが僕の正直な感想だ。







「・・・これからどうするつもり?」







レイナの問いに僕はしばし考え込む。







「そうだね・・・まずはやっぱり旅に必須なアイテムの調達かな」


「軍資金は十分手に入ったことだしね」







そう言って僕はテーブルの上に置かれたものに視線を移す。

・・・テーブルの上には高級そうな布袋の中に溢れんばかりの金貨が入っている。







ブルッ・・・







・・・昨日はエレノア様との謁見で頭がいっぱいになってたからあまり実感がわかなかった。

だけど、今になって僕はその額面の多さに身震いしてしまう。

300万クレジット・・・とてつもない金額の報奨金だ。

これだけあれば当面お金の心配をする必要はないだろう。

もちろん、未開の地へと赴く大冒険者が買うような装備やアイテムの購入は無理だろうけど、

駆け出しの冒険者が赴くようなダンジョンや魔物討伐に必要なアイテムだったら十分揃えられそうだ。







「それと、冒険者ギルドにも行って見るつもりだよ」


「旅に必要なアイテムの情報収集や魔物の情報なんかも仕入れたいしね」


「それに今後所属する冒険者ギルドも目星を付けておかなきゃいけないと思うし」







・・・まあ、順当に考えたら、マルバスギルドになるとは思うけどね・・・

マルバスギルドは国内最大の冒険者ギルドで、カーラ王国が運営しているギルドだ。

所属している冒険者の数も質もピカイチだ。

最も大きいギルドで探したほうが自分の条件に合うパーティーも早く見つけられるだろう。







「うーん。そっか、冒険者ギルドに行くのね・・・・」







レイナは僕の言葉を聞くと、何か考え込み始めた。

彼女の視線が宙に向いている。

その視線の先には当然冒険を見据えた何らかの計画が練られているのだろう。







「・・・だったら私も付いて行こうかな」


「後、ちょっとお願いもあるんだけど・・・」







レイナはそう前置きをすると僕に要望を話してきた。















To Be Continued・・・
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