小人女子高生の異世界冒険譚~転生したらグロースとミニマムが使えない件~

異世界サボテン

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第32話 追跡

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「・・・新しい住居はどうだエノク?」







クラウディア団長が僕にそう尋ねてきた。

彼女は相変わらず忙しくしているようで、その顔には少し疲労の色が見て取れる。

そんな忙しい合間に訪ねたにも関わらず彼女は僕を快く執務室に招き入れてくれた。







「凄い良いところで快適に過ごせそうです」


「お心遣いに感謝いたします、クラウディア団長!」







慣れない敬礼でクラウディア団長の問い掛けに僕は答える。

彼女はニコリと微笑むと敬礼を返してきた。

そしてちらりと僕の後ろに控えていたアイナさんにも視線を送る。







「・・・アイナ。護衛の任務ご苦労」


「何か支障は出てないか?」


「はっ!今のところ問題ございません!」







アイナさんは敬礼をしながら覇気のある言葉で応じる。

日頃は冷静で、どちらかと言うと寡黙な彼女もクラウディア団長の前では立ち振舞が全く異なるようだ。

それだけアイナさんがクラウディア団長を敬愛しているとも取れるし、軍の規律の高さを示しているといえるかもしれない。

クラウディア団長はそんなアイナさんの言葉に無言で頷くと、僕に視線を戻してソファを手で示してきた。

それを合図に僕はソファに腰掛け、彼女も僕の対面に座る。

僕を見据えたクラウディア団長は早速話を促してきた。







「・・・さて、要件を聞こうか」


「何か事件で分かったことがあるとのことだが・・・それは本当か?」


「はい、そうです」







彼女の言葉に僕は相槌を返す。

僕は西門から王宮に戻ると、すぐにクラウディア団長に面会をお願いした。

もちろん、事件の犯人について話すためだ。

レイナと僕以外の第3者に語るのはこれが初めてであり、アイナさんにもまだ詳細は伝えていない。

僕とレイナはもう間違いないと思っている犯人像をクラウディア団長は果たして素直に受け入れてくれるだろうか・・・

僅かな緊張が僕の手のひらに汗を滲ませる。

ふぅ・・・と一息付いて僕は気持ちを落ち着かせた。

これまでの事件の事を頭に思い浮かべながら、僕はゆっくりと話を切り出した・・・








「・・・実は、宝箱を持ち去った犯人の目星が付きました」


「なにっ!!?」







僕の言葉に彼女の目が大きく見開く。

流石にこの言葉は彼女も驚いたようだ。

昨日レイナが話してくれたことをなぞるように、僕は彼女に説明した・・・













「―――と言う訳です」


「以上のことからも、宝箱を持ち去った犯人は“見世物小屋の劇団“の可能性が非常に高いです」


「是非とも奴らの追跡をお願い致します!」







ガタッ!







僕の言葉を聞き終わるやいなや、クラウディア団長はすっと席を立ち上がった。







「・・・アイナ!!」


「はっ!」







クラウディア団長の鋭い視線がアイナさんに向けれられる。







「ただちに、第1小隊と第2小隊を転送棟に招集しろ!」


「戦闘態勢でだ!」


「はっ!承知いたしました!」







覇気のある言葉で応じたアイナさんは、すぐに執務室を飛び出していった!

アイナさんの後姿を見送ったクラウディア団長は僕にも視線を向けてくる。

先程までと打って変わり、別人のような厳しい表情だった。







「エノク、奴らを追うぞ!お前も同行してくれ」


「この礼は必ず弾む!!」







クラウディア団長の言葉に僕は力強く頷く。













シュン!







転送陣テレポーテーションがどうやら無事に発動したようだ。

転送前とは見知らぬ建物の中に僕は転送される。

周囲には魔法陣の他に、通行を管理している魔術部隊の人間がいるだけだった。







これが、テレポーテーションか・・・凄い・・・







転送陣を使ったのは初めての経験だった。

無邪気にはしゃぎ回って魔法陣を調べ尽くしたい衝動が湧き起こるが、何とかそれを抑える。

クラウディア団長や他の部隊は魔術部隊に無言で敬礼をすると、そのまま建物の外へと出た。

僕はアイナさん達と一緒に第1小隊の隊員と行動を共にしている。







ギギギィ・・・







重々しい扉の音と共に外の日差しが僕達の目を眩ます。

隊員たちが全員外に出るとクラウディア団長は各団員に指示を出した。







「よし・・・ただちに散開し劇団の情報をかき集めろ!!」


「・・・分かっていると思うが、奴らは王国の兵士を影で始末するくらいの手練れだ」


「行動は常に組として、単独行動は避けろ」


「奴らがまだこの町に滞在しているかは不明だが・・・もし見つたら必ず生かして捕らえるように」


「逃走や激しく抵抗した場合は、“足の健を切って“無力化しろ」


「以上!行動開始!!」


「はっ!!!!」







ザッザッザ・・・・・







クラウディア団員の言葉を受けて団員達は一斉に散開していった。

後に残されたのは、クラウディア団長に、宮廷服姿の書記官の男の人。

そして、アイナさんと僕だった。







「アイナ、キース、エノク・・・お前たちは私について来い!」


「我々は町の中心部を当たるぞ!」


「はっ!」







クラウディア団長の後に続いて、僕達はグラーネの町の中心街へと足を運ぶ。

グラーネの町はノイシュ候の領地で、ルリスターン連邦とカーラ王都の中心に位置している交易都市だ。

カーラ王国の中で最も人と獣魔が共存している都市と言える。

歩きながら周囲を伺うと、市内では多くの亜人の姿を見かけることが出来る。

防護カバンの中にいるレイナも市内を興味津々で伺っている事だろう。

彼女は前々から外に出たいと言っていた事だし、意図せず今回その要望に答えた形になる。







まあ、流石に今は観光という気分じゃないけどね・・・・・







クラウディア団長、アイナさん、そしてキースさん・・・彼ら3人の周囲を伺う目はとても厳しい。

劇団の痕跡を見つけ出そうと、殺気にも似た気迫が伝わってくる。

僕も気を引き締め直して劇団の姿を探す。

劇団が滞在しそうな酒場や商店、劇を催していそうな広場などを僕達は手当たり次第当たっていった。

しかし、彼らの姿を見かけることは出来なかった・・・・・

ただし、彼らがこの町に立ち寄ったことはどうやら間違いないようだ。

聞き込みを行っていく中で、何人もの人が彼らの姿を目撃しているという証言をしている。

・・・そんな中、僕達はついに奴らの尻尾を掴むことになる。







「・・・なに!?まだ、ここに滞在しているというのか!!」


「・・・ああ、そうだが」


「人数が多いのでこの建物の2階を全て貸し出しているんだよ・・・」


「・・・なっ!!」







クラウディア団長がある宿屋の主人に尋ねたときの事だった。

彼はまだ劇団がここに滞在していると答えたのだ。

驚きの回答にその場に居合わせた僕達も驚きの声を上げる。

宿屋の主人は僕達に訝しげな視線を向けながらも、話を続けてきた。







「・・・お前たち劇団の一座を探しているんだよな?」


「しばらく滞在するって言って、1ヶ月分ほど先払いで代金を頂いているよ」


「外に出払っていることが多いので中々部屋には戻って来ないけどな」


「ここ数日姿を見かけてないが、荷物自体は置いているしそのうち帰ってくると思うぞ?」







荷物が置いてあるだって・・・・?

僕の前にいるアイナさんとキースさんがお互い顔を見合わせる。

クラウディア団長もどうやら同じところに引っかかったようだ。







「・・・主人。彼らの客室に案内してくれ!」


「奴らは王都で起きた事件の重要参考人だ」


「お前にも奴らの確保に協力してもらうぞ?」


「仕方ねぇ・・・分かった。付いてこい」







宿屋の主人はあまりいい顔をしなかったけど、

王妹殿下直属の騎士団の頼みとあれば流石に断ることは出来なかったようだ。

僕達は彼の後に続いて宿屋の2階へと上がった。







「ここだよ・・・」







宿屋の主人に連れられ僕達は2階の大部屋がある扉の前に来る。

2階の最奥にあるこの部屋は他の部屋とは作りが違うから、恐らくスイートルームなのだろう。







ガチャ!

ギィ・・・







宿屋の主人が懐からマスターキーを出してドアを開ける。

クラウディア団長が扉から視線を外さずに僕達に小さく声を掛けてきた。







「・・・お前たち油断するな」


「奴らが潜んでいる可能性がある」


「周囲を警戒をしながら部屋の中に入れ・・・」







シャ・・・







そう言うとクラウディア団長は帯剣していた、腰元の剣を抜いた。

彼女はそのまま宿屋の主人に続き部屋の中に入っていく。







「エノクさん・・・私が後ろを見張ります」


「キースさんの後ろから決して離れないでください・・・・」







アイナさんが僕に小声で話しかけてきた。

僕の後ろに回った彼女も抜剣して、周囲に目を光らせる。

キースさんとアイナさんに挟まれながら僕達も部屋の中に入った。







「おいおい・・・厄介事はゴメンだぜ」


「調べたらさっさと帰ってくれよな・・・」







先に部屋の中で待っていたマスターが僕達の物々しい態勢に眉をひそめる。







「・・・主人。協力感謝する」


「後で返すから鍵だけ置いてお前は先に戻っていい」







クラウディア団長がそう言って、主人の前に手を差し出した。







「・・・ちっ!勝手なこといいやがって・・・!」


「騒ぎを起こしやがったら領主様に訴え出るからな!」







パンッ!







主人は半ば投げつけるようにクラウディア団長に鍵を渡し、肩を怒らせながらそのまま出ていった。

事態が事態だから仕方ないよな・・・

彼には申し訳ないが、劇団と戦闘になるかもしれない事を考えると、いないほうが都合が良いだろう。

宿屋の主人がいなくなった後、僕達は改めて部屋の探索を行う。

部屋はスイートルームらしく巨大なベッドが置いてある寝室や、ダイニングルームに執務室。さらには応接間もあるようだ。

戦闘になるかもしれない・・・と思い緊張の面持ちで僕は周囲を伺うが、

一見すると劇団の姿はなく、物陰にも潜んでいないようだった。

僕達は固まりながら各部屋を当たっていく・・・・







「・・・これは!」







・・・応接間に入った時だった。

クラウディア団長が剣を構えながら目の前の異様な光景に思わず声を出す。

・・・面食らったのは彼女だけではない。

アイナさんやキースさん・・・そして僕もそれは同じだった。

クラウディア団長と、キースさんの背後から覗き込むように前を伺った僕は驚きの声を出してしまう。







「・・・・これは・・・宝箱!!??」







この場にいる全員の視線の先には、アダマンタイト製の“あの宝箱“があった。

オークション会場で見た神話のアイテムを収められた特注品の箱・・・

それも御大層に横一列で綺麗に並べられていた。

・・・しかし、明らかに違和感というか・・・何かが可笑しい。

劇団が置いていった荷物が“これだけ“しかないのだ。

彼らが本当にまだ滞在しているというのなら、他にも荷物があって然るべきだ。

しかし、見当たる荷物と言えば目の前にあるこの7つの宝箱だけだった。

まるで、誰かがこの光景を見ることを想定して宝箱だけを置いていったんじゃないかと思ってしまう・・・

そう考えたのは僕だけではなかった。

キースさんがすぐに警告の声を上げる。







「・・・団長、これは罠です!」


「奴らの荷物がこれだけというのは余りにも可笑しすぎます!」


「あの中には“例のミミック“が仕込まれているかも知れません!!お気をつけを!」


「・・・ああ、分かっている・・・!」







クラウディア団長が剣を構えたまま、キースさんの言葉に深く頷いた。







「どうやら我々はここに誘われたようだな・・・」


「しかもありがたい事に、我々が探し求めた置き土産を残してな・・・!」







クラウディア団長の剣を握る手に力が込められる。

その表情は伺えないが、彼女の怒りが僕にも伝わってきた。

僕達をおちょくっているとしか思えないこの光景に不快感を感じているのだろう。

“ほら・・・お前らが探しているものをここに置いておくぞ!“と。

“中を開けて調べてみろよ“と。

・・・そういう嘲弄の声が聞こえてきそうだ。







「・・・どうなされますか?」


「私は一度宝箱を運び出してから中身を確認するべきだと具申いたします」


「時間はかかるかも知れませんが、魔力封じの囲いを持ってこさせてから運び出しましょう」


「アビスミミックが入っている可能性がある以上、今、不用意に近づくべきではありません!」


「・・・・・」







キースさんの意見にクラウディア団長は黙って考え込む。

・・・そう、宝箱はなぜか“7つ“あるのだ。

今回オークションで出品された神話のアイテムは、

“ 魔法の薬“、“アムブロシア“、“ネクタル“、“賢者の石“、“ホーリーグレイル“、“知恵の実“、以上の6つ。

もし、神話のアイテムが目の前の宝箱に入っていたとしても一つ余る計算になる・・・

そして、奴らがアビスミミックを持っていることを考えると、どれかに入っていたとしてもおかしくない。

キースさんの意見は最もだった。

・・・しかし、クラウディア団長は彼の意見に難色を示す。







「今は時間が惜しい・・・」


「劇団の追撃もせねばならんが・・・これ以上の戦力の分散は避けたい」


「従って、目の前の宝箱に神遺物が入っているかすぐに白黒を付ける必要がある」








クラウディア団長はそう言うと、僕の方に振り返ってきた。







「・・・エノク。お前は直接アビスミミックを見たと言っていたな?」


「あれをこの場で判別する方法はあるか?」








僕は少し間をおいて彼女に返答する。







「何か魔力を帯びたもの・・・そう、例えばポーションでも投げてみれば反応するはずです・・・」


「しかし、もしこの狭い部屋でアビスミミックが出現すれば宿屋の建物に損傷が出るでしょう」


「下手をすれば他の宝箱も吸い込まれてしまうかもしれません・・・」


「・・・ですので、僕はキースさんの意見に賛成です・・・」







クラウディア団長を諫める形で僕は答弁する。

安全に確認できる方法があればそれに越したことはない。

ただし、僕はアビスミミックを見たことがあるとは言え、その生態はほとんど何も分かっていなかった。

・・・分かっていることはアビスミミックは魔力のあるものに反応すること。

そして開いたら最後、周囲にあるもの全てを飲み込もうとすること。

生物は大なり小なり魔力を帯びているから、誰であれアビスミミックに近づけば“地獄の釜“は開く。

あれを反応しないようにするには、劇団がそうしたように魔力を遮断する檻の中に閉じ込める他ないだろう。

クラウディア団長は僕の言葉に渋い表情を返した。







「お前も同意見か、エノク・・・」


「だが、お前がそう言うならば、仕方あるまいな・・・」


「分かった・・・」







しかし、彼女はすぐに頷いて納得してくれた。

彼女は周囲に敵が潜んでいないことを確認してから、剣を鞘に納めてキースさんに指示を出す。







「・・・キース。お前はすぐに搬送の手配をしてくれ」


「我々はここで宝箱を見張っている」


「・・・はっ!」







キースさんは敬礼をして部屋を出ていった。

魔力封じの囲いを取りに行ったのだろう。

クラウディア団長は続けてアイナさんにも指示を出す。







「アイナ・・・お前は任務中の第1、第2小隊をここに集合させろ」


「そして宿屋の周囲を固め、我々以外誰も宿屋に入れさせるな」


「もちろん宿泊客が帰ってきたとしてもだ!」


「・・・宿屋の主人は“50万クレジット“くらいで黙らせとけ」


「はっ!承知いたしました!」







アイナさんも駆け出していった。

残されたのは僕とクラウディア団長だけ。

僕達はしばし宝箱を傍観して待つことになる。







「ふぅ・・・もどかしいな・・・」


「目の前にカーラの宝があるかもしれないというのにすぐに調べられんとは・・・」


「そうですね・・・」







クラウディア団長の言葉に同意する僕。

そんな僕に顔を向けてきた彼女の表情はなぜか少し嬉しそうだった。







「ふっ・・・だが、これこそまさに贅沢な悩みというやつだ」


「捜査が八方塞がりだったこれまでとは違い、追うべき相手が明確になったのだからな」


「これも全てお前のおかげだエノク・・・お前のその洞察力には改めて感服したぞ」


「いえ・・・そんな・・・お褒めに預かり光栄です」







ポリポリと頬を掻く僕。

僕のおかげじゃないんだけどなぁ・・・・と心の中で苦笑いをしてしまう。

・・・レイナからは“胸を張って手柄をアピールしなさい“と言われている。

変に友達のおかげだというと話がややこしくなるし、最悪分け前が減る可能性があると釘を刺されてしまっている。

素直にレイナのことを言えないのが心苦しかった。







「王都に戻ったら、エレオノーラ殿下にお前の貢献を上奏するつもりだ」


「・・・もしかしたら殿下から直接お褒めの言葉を頂けるかもしれないな」


「・・・・え・・・ええ!?」







話の流れの中で、クラウディア団長にさらっと凄い事を言われた!

殿下に直接お目通りが叶うかもしれないって・・・!?

突然のサプライズで僕は裏返った声を出してしまう。







「・・・何を驚いている。当然だろう?」


「今回のお前の貢献を考えたら報酬授与は確実だ」


「王都に戻ったら礼装を新調しておいたほうがいいぞ」


「・・・・は、はい」







僕はそう小さく肯定の言葉を返すだけで精一杯だった。

エレノア様に直接会えるかもしれないなんて、庶民である僕にとって夢が叶うかのような大事だった。

クラウディア団長と僕はしばらくこの部屋で番をしていたが、

僕はエレノア様への謁見の事で頭が一杯になってしまう。

・・・それから程なくしてキースさんに率いられた輜重隊の部隊がここに到着する。

魔力封じの囲いをそれぞれの宝箱に被せた後、拍子抜けするほど呆気なく宝箱は搬送された。

全ての宝箱が搬送された後、宝箱はクラウディア団長旗下の第1、第2小隊に厳重に警備されながら人目の付かない広場に運ばれる。

本当は転送魔法陣を使って王都まで宝箱を運んでから中身を確認したいところだが、

この箱は特別な呪法が掛けられており転送陣を通ることが出来ないらしい。

そして、グラーネの町の一画で確認作業が行われることになった・・・・














「団長、対象の配置完了いたしました!」


「よしっ・・・!投擲するぞ!」


「お前たち檻から離れろ!!」







クラウディア団長の掛け声とともに、彼女の視線の先にある檻の周囲から騎士達が離れる。

7つある宝箱には魔力封じの檻が付けられており、それぞれの周りには2・3名の騎士たちが周囲の警戒に当たっていた。

クラウディア団長と第1、2小隊。そして輜重部隊の第5小隊が合流し、総勢30余名の騎士団が広場に集結している。

今、彼女たちの視線が集中する先には魔力封じの檻が被されたアダマンタイト製の宝箱が1つ置かれていた。

既に檻の周囲10メートル以内からは騎士の姿はなかった。

クラウディア団長は団員が避難したことを確認すると、手に持っていたポーションを中央の檻に向かって放り投げた!







ヒュッ・・・・







ポーションは緩やかな放物線を描き宝箱が置かれている檻の中へと入る。







パリン!







「・・・・」


「・・・・」







ポーションが入っていた小瓶が衝撃によって割れてしまう。

中身の液体が宝箱の表面を濡らすが、起こった現象としてはそれだけだ。

宝箱はうんともすんとも言わない。

クラウディア団長は反応があるかしばらく観察していたが、数分経っても宝箱は何も反応しなかった。

もし、アビスミミックが入っていたら既に反応しているはずだし、あれの中にはいないと見ていいだろう。

アビスミミックの出現に身構えていた一部の騎士たちの間で安堵のため息が漏れた。







「・・・ふむ、何もなしか」


「・・・すぐに次を出せ」







クラウディア団長の言葉を合図に、避難していた団員が駆け寄ってキャスター付きの檻を押していった。

入れ替わりですぐに次の檻が運ばれて来る。

設置が完了したのを確認するとクラウディア団長は檻の周囲にいた団員を避難させた。







「・・・よしっ。いいぞ、離れろ」







対象の檻の周囲にいた団員が離れたタイミングを見計らい、クラウディア団長は再度ポーションを投擲した。







ヒュッ・・・







先程と同じ様な光景が繰り返され、パリンと宝箱の上で割れたポーションの音が辺りに虚しく響いた。

・・・この箱も特に反応がなかった。







「よし・・・次を出せ!」







再びクラウディア団長の号令のもと、定位置に未確認の宝箱が運ばれる。

中央の檻へと騎士団の視線が集中する中、僕も固唾を飲んでその光景を見守っていた。

今のところアビスミミックは無さそうだな・・・

まだ、分からないけどこの距離なら当たりを引いても大丈夫だろう・・・

騎士団たちは中央に運ばれた未確認の檻から円を描くように10メートル以上離れた位置で身構えている。

先日アビスミミックを見ていた経験がここで活きてくるとは思わなかった。

アビスミミックについて本当に何も知らない状態だったら、どれくらいの距離から確認すればいいかも分からなかった。

何事も経験が活きてくるとはこの事だろう。

結果的にレイナと王都を観光していたことが劇団の情報を得ることに繋がったのだから世の中分からないものだ。

中央にまた運ばれていく未確認の宝箱を見守りながら、僕がそんな事を考えていた時だった・・・・・







トントントントントントントントントン!!!!







「・・・・ん?」







僕の抱えていた防護カバンからノックが何度もされた。

レイナからの合図だ・・・

『はい』、または『肯定』がノック1回。

『いいえ』、または『否定』がノック2回。

『もう一度言って』がノック3回。

それ以上の回数で乱打された場合は『至急!伝えたいことがあり』というレイナからの緊急の合図になる・・・

最近追加された新ルールだった。







えっ!?・・・どうしたんだ・・・!!?







ただ事じゃないノックの調子に僕は思わず焦ってしまう!

僕の焦りが伝わったのか、横にいたアイナさんが何事かと尋ねてきた。







「エノクさんどうしたんですか?」


「何か驚かれているようですが・・・」


「い、いえ!ちょっとその・・・トイレに行きたくて・・・」


「・・・・・」







アイナさんと僕の間に微妙な空気が流れてしまう・・・・

・・・もう、僕のバカ!

もう少しまともな返答は思いつかなかったのかな・・・・

自分のアドリブ力のなさに落ち込んでしまうが、

アイナさんはあくまで冷静に言葉を続けてきた。







「・・・護衛は必要ですか?」


「・・・い、いえいえ!大丈夫です」







僕は頭と手をブンブン振りながら彼女の提案をお断りする。

周囲で見守っている騎士団員の何人かが僕に冷ややかな視線を送ってきていた。







「そうですか・・・お気をつけて行ってください」


「ここは敵地です。まだ、劇団がこの街に潜んでいる可能性もあります」


「何かありましたら、用を足している最中でも恥ずかしがらず大声を上げて助けを呼んでください」


「それがエノクさんの身を守る術になります」


「は、はい・・・すみません。すぐに戻りますので・・・」







アイナさんに平身低頭の姿勢で、僕はそそくさとその場を離れる。

そして、近くの建物の影に潜むと大きく息を吐いた。

はぁ・・・アイナさんに悪いことしちゃったな・・・

彼女はあくまで僕の身の安全を最優先に考え、あのように言ってくれたんだ。

とっさに出た言葉とは言え、彼女に嘘を付いた事に引け目を感じてしまう。

後でアイナさんにはそれとなく謝っておこう・・・







「っと・・・・いけない」


「レイナお待たせ!」







一息付いてゆっくりしたいところだが、

当初の目的を思い出した僕は直ぐに防護カバンの口を開いてレイナに言葉を掛けた。







「・・・あっ!エノク!」


「遅いわよ、もう!!」







レイナはいまかいまかと待ち構えていたようで、

僕が覗き込むとぴょこっと顔を出してすぐに反応してきた。







「・・・ごめん!訳は後で話すけど、エノクにすぐに確認したいことがあるの!」


「なんか、嫌な予感がよぎっちゃったのよ・・・」


「単刀直入に聞くけど、あの箱の中にアビスミミックがいる可能性ってあるの!?」


「箱の外見が見世物小屋で見たものと全然違っているじゃない?」


「なんでそれでみんなあんなにアビスミミックを警戒しているのかしら?」


「・・・ああ、そうか。そこは説明していなかったね」







レイナのやけに慌てた様子に僕は少し面食らう。

・・・嫌な予感がよぎると言ったのが少し気になるところだけど、

レイナの疑問点については取り敢えず僕も承知していた。

彼女の言う通り、見世物小屋でアビスミミックが入っていた箱と、オークション品の箱は外装が全然異なっているのだ。

見世物小屋で見たアビスミミックの外装は金メッキが施された木箱。

そして、今広場で確認しているオークションの箱は全面に宝石が散りばめられたアダマンタイト製だ。

箱の材質も、見た目の豪盛さもまるで違っていた。

彼女はそれでアビスミミックがそもそも入っていないんじゃないかと疑ったのだろう。







「・・・確かに、レイナの言う通り箱の外装は見世物小屋で見た時とまるで異なっているね」


「しかし、それでアビスミミックが入っていないと判断するのは実は危険なんだ」


「ミミックの錬成アルケミースキルを活用する研究は盛んに行われていてね」


「その中には、ミミックの箱の移し替えの研究もあるんだよ」


「箱だけ取り出せれば、錬成された上質な魔法アイテムを手に入れることが出来るからね」


「・・・・!」







レイナが僕の言葉に大きく目を開いた。







「そして箱の移し替えの研究が盛んということは、それだけミミックがトラップとしても転用されていると言うことなんだ」


「・・・まあ、アビスミミックを移し替える事が出来るかは僕もさすがに分からないけどね」


「でも、もしもの事を考えたらアビスミミックがいると想定して対処するのは当然だよ」


「それにオークションの箱は凄い大きいでしょ?」


「極端なことを言えば、あの木箱をそのままアダマンタイトの箱の中に入れる事も出来るんだ」


「アビスミミックがオークションの箱の中に潜んでいる可能性は十分にあると思うよ」







レイナにそう説明すると、彼女は何故かさらに顔をしかめた。







「・・・つまり、エノクは当然として・・・」


「クラウディアさんや他の騎士達も、あの場でアビスミミックを警戒したというのは当たり前の流れということか・・・」


「ごめん!さらに一つ質問!」


「アビスミミックがいないことが確認できたら、箱を開ける前にアナライズして中身を調べることは出来る?」


「・・・・・」






レイナは何をそんなに恐れているんだろうか・・・?

確かに宝箱にトラップがある可能はもちろんあるから、警戒するに越したことはないんだけど・・・







「・・・それは無理だね」


「アビスミミックを抜きにしても、あのオークション品の宝箱は鉄壁の防御性能を誇っているんだ」


「伝説の金属であるアダマンタイトはその硬さに加え、外からのあらゆる魔法を打ち消す効果を持っている」


「それを打ち破るくらいの魔法効果があれば話は別だけど、今の僕達には不可能と言って良い」


「そういう意味で言えば、中身を確認できるのはパスコードを掛けた連盟魔術師くらいだろうね・・・」


「・・・だけど、神話のアイテムが入っているかどうかを確認することはこの場にいる僕達でも出来るから大丈夫だよ」


「もし、まだロックがかかって開くことが出来なかったら、劇団は連盟魔術師のパスコードを突破できなかったということだし、」


「逆に素直に開いてしまえばやつらはもう中身を持ち去ったと判断することが出来るからね」


「アビスミミックさえいないことが分かれば確認することは容易だよ」







僕がそう説明すると、レイナは頭を抱えた。







「はぁ、なるほどね・・・やっぱり開けて確認することになっちゃうのか・・・」


「ならすぐにクラウディアさんに言ったほうがいいわよ・・・!」


「あの宝箱絶対あけちゃだめだって!!!」


「・・・えっ!?」







・・・いつもの軽口を叩くようなお調子者の雰囲気はそこにはなかった。

レイナの鬼気迫る様子に僕はあたふたと反応をしてしまう。

彼女がここまで焦った物言いをしてきたのは初めてかもしれない・・・・

僕の慌てる様子を見て逆に冷静になったのか、レイナは「ふぅ・・・」と一旦、一呼吸置いた。







「・・・急ぐから、早口で説明するわね」


「エノクも見たわよね?あの7つ目の箱を・・・!」


「う、うん・・・そうだね」


「・・・それで僕達はアビスミミックが入っていると思ったわけだけど・・・」







今まさに広場でクラウディア団長がその調査を行っている最中だ。








「問題なのは奴らが7つ目の箱をいつ手に入れていたか?ってことのよ」


「アダマンタイトの箱なんて、そんな容易に手に入る代物じゃないんでしょ?」


「劇団が移動しながらあんな箱を用意できたとは思えないのよ!」


「・・・・・」







レイナの言葉に僕は頷きながら黙って聞いていた。

僕はまだいまいちピンと来ていない・・・

彼女は何に引っかかって、こんなに焦っているんだ・・・?







「・・・まだ、分からない?」


「つまり奴らは行き当たりばったりに、いたずら目的でこんなことをやってないって事よ」


「あいつらは最初からこの状況を想定して、あの宝箱を用意していたってわけ」


「私達の様な追撃者を始末する事が最初から計画に入っていたって事」


「もしかしたら、7つ目の宝箱は劇団の協力者・・・つまり内部犯が用意したものかもしれない」


「内部犯からしたら、自分達の犯行がバレるのは避けたいと思うはずだからね」


「自分達の正体に気づけそうな奴は劇団に始末するように依頼していたとも考えられる」


「そう筋道を立てて考えると、あの宝箱の中には私達を始末するに足る何らかの罠が貼られている可能性が高いのよ」


「アビスミミックじゃないなにかが・・・!」


「・・・ううん」







彼女の言葉を唸りながら、レイナの今の言葉を考える。







「・・・でも、それこそアビスミミックを使って追手を始末しようと思うんじゃない?」


「今クラウディア団長が、アビスミミックを警戒して一つずつ調べているけど、あれじゃ対応として不味いのかい?」







レイナの言葉に僕はまだ要領を得なかった。

確かに奴らが罠を張っている可能性が高いのは分かったけど、

だったらアビスミミックの警戒を第一にするのは対応としてはおかしくない。

彼女がそこまで焦る理由がイマイチしっくりこなかった。







「・・・それが、不味いのよ・・・」


「奴らの立場で考えてみて?」


「奴らからしたら追手は当然まとめて始末したいと思うはずよね?」


「・・・今、追手の騎士団はどういう状況になっているかエノクは分かるでしょ?」


「・・・・えっ・・・・・・ああああ!!」







そこで僕は叫び声を上げた!!!

彼女の言わんとしたことがようやく分かったのだ!!







「・・・広場で一箇所にまとまっている・・・!!?」


「で、でも・・・流石に偶然じゃないのかい・・・・?」







つぶやく様にレイナに確認すると、彼女は静かに首を振った・・・







「・・・・違うわ」


「劇団を追ってきた経緯を考えれば分かるけど、これは偶然なんかじゃない」


「劇団が意図して私達を一箇所にまとめて始末しようとしている巧妙な罠よ」


「奴らにしてみれば追撃者がアビスミミックの情報を掴んでいるのは百も承知のはずよ」


「・・・というより、見世物小屋の出し物でアビスミミックを出している時点で、自分達の手の内は出しているわけだから当然追撃者はその情報を掴んでいるということを前提に奴らも動いている」


「つまり、追撃者は7つ目の箱があった時点でアビスミミックがあることを疑ってしまうという状況が想定できてしまうわけ」


「もし6つしか宝箱がなければ追撃者が罠に気づかず宝箱を開けてしまうかもしれない」


「だけどそれだと宿屋に調査に来た限られた人数しか始末ができない・・・」


「・・・・そこで考えついたのが今回の作戦よ」


「神話のアイテムが入っているかもしれないけど、宝箱のどれかにはアビスミミックが入っているからすぐには開けられない・・・」


「そうなるとクラウディアさん達がやったように魔力封じの檻に入れてから運び出すことになるわけだけど、」


「神話のアイテムが入っているかもしれない宝箱を警護をせずに運び出すなんてことは当然無理な話よね?」


「7つもある宝箱には周囲に警護の兵を常時配置しなければならず、あの宝箱は転送陣を通ってすぐに持ち帰ることも不可能」


「そうなると劇団をすぐにでも追いかけたい追撃者はどう考えるか・・・・」


「当然、手近な場所でアビスミミックが入っているか確認をして、宝箱を開けたいと思うはずよね?」


「・・・それが今の状況よ」


「・・・あ・・・あ」







レイナの説明を聞いて僕は背筋が凍りついた・・・

レイナの言う通り、偶然と片付けるにはあまりにも状況が閉塞していた・・・・

アビスミミックだけに注目していた僕達は気づかないうちに視野が狭くなっていた。

そして、今の状況に自然と追い込まれてしまっていたんだ・・・・!







「・・・レイナ!あの宝箱の中には何が入っているというんだい!?」







レイナに思わず僕は聞き返してしまった。

彼女だったら箱の中身について、もう予測が付いているんじゃないかと思ったからだ。

案の女レイナはすぐに返答してくる。







「ぱっと思いついたのは何らかの“爆発物“ね」


「・・・状況から推測すると、あの宝箱の中身は広場に集まっている騎士たちをまるごと始末出来る何かだということ・・・」


「王宮に爆発物が仕掛けられていたでしょ?」


「今回の宝箱を提供した人物が同じ内部犯であればその可能性が高いと思う・・・・」


「でも、あくまでこれは推測よ。もっと恐ろしいものが中にあっても可笑しくないわ・・・・」







レイナは厳しい表情をしながら思索を巡らせていたが、すぐにハッとなって顔を上げた!







「・・・てっ!そんな事より今はクラウディアさんに早く知らせなきゃ!!」


「中身の詮索は後回しよ!!」


「・・・そ、そうだね!分かった!!」







レイナの言葉に頷くと僕はすぐさまその場を駆け出した!

彼女が防護カバンの中に引っ込んだことを確認した後、広場を遠目に確認する。







「・・・まずい!」







僕は思わず驚きの声を上げてしまった。

幸いなことに宝箱はまだ開封されていないようだった。

しかし、魔力封じの檻は既に取り外されており、7つある宝箱の周囲には騎士たちが集っていた。

もしアビスミミックがいたら、檻がない状態であの距離に近づけば自殺行為も良いところだ。

・・・どうやら、アビスミミックはいなかったらしい。

明らかにこれから宝箱を開けようとしている様子が見て取れた!







「・・・す、すみません!!」


「ちょっと、その宝箱を開けるの待ってくださーーーーい!!」


「開けちゃだめだ!!」







そう大声で警告の声を発しながら、僕は広場に駆け戻った。

僕のただ事じゃない様子に騎士たちは何事かと疑惑の視線を向けてくる。

アイナさんも僕の様子に驚きの表情を浮かべていたが、今はそれに構っている余裕はない。

中央に控えていたクラウディア団長に向かって再度声を張り上げた!







「・・・クラウディア団長!」


「宝箱を開けるのは待ってください!!」


「開けちゃだめです!!」







クラウディア団長は騎士達に配置の指示を出している最中だった。

彼女は僕の声に反応してこちらに振り返ると、腕組をしたまま鋭い視線を向けてきた。







「エノク!?・・・急にどうした!?」


「今の言葉はどういうことだ!!?」







僕の姿を捉えたクラウディア団長の表情にははっきりと戸惑いが出ていた。

彼女は今まさにこれから号令を掛けて宝箱を開けようとしていたのだろう。

間一髪だった・・・!!

クラウディア団長の側に駆け寄ると、僕は一旦膝に手をついて乱れた呼吸を整える。







「・・・ふぅ、すみません!!!」


「至急お伝えしたいことがあるのです!!」







顔を上げてクラウディア団長を見据えた僕は、事情を話し始めた――――















「――――アナライズ!!」







連盟魔術師の能力発動に伴う声が周囲に響き渡る。

ただ単に、分析の魔法を掛けているだけだというのに、

周囲からは息を呑む雰囲気が漂っていた。

連盟魔術師・・・確かあの人はラナさんって言ったっけ・・・?

僕が事情を説明するとクラウディア団長は直ちに商人ギルド連盟へ急使を派遣して助力を仰いだ。

僕の言葉を受け入れ、クラウディア団長は迷うことなく宝箱の開封を先送りにするという決断をしてくれたのだ。

正直言って、騎士団の一員でもない僕の言葉を何故素直に受け入れてくれるの疑問だった。

ラナさんの到着を待つ間に僕がその疑問を質問すると、クラウディア団長はこう返事をしてきた。







『なぜ、素直にお前の言うことに従うかだと?』


『・・・愚問だな。信頼出来るからに決まっているだろう・・・』


『お前が我々に道を示してここまで導いてくれたのだ』


『そのお前が危険と言っているんだ』


『お前を無視して開けるほど私は愚かではないさ』


『・・・・・』







彼女の言葉を受け取ると僕は下を向いて縮こまってしまう。

僕への評価の高さに恐縮してしまった。

どうやらこれまでの一連の流れですっかり彼女の信頼を勝ち取ってしまっていたようだ。

僕としては意見を言えば聞いてくれるんだから、この状況は喜ぶべきなのだけど、

虚像を含む僕への信頼は僕自身に重荷となってのしかかって来る。

後で化けの皮が剥がれた時に彼女はどんな顔をするんだろうか・・・

レイナは僕の手柄にすれば良いと言ってくれているんだけど、それは言い換えれば僕は道化を演じる事になる。

レイナのお陰で僕は多くのことを助けられたし、彼女の知恵に今後も頼る事になるのは想像に難くない。

彼女の助言・・・特に緊急時において僕はもうそれを聞き入れることに抵抗が無かった。

人によっては小さな女の子に頼るなんて情けないなんて思うかもしれないが、僕は“あの時“何を差し置いても生きたいと思ってしまった。

僕の小さなプライドをかなぐり捨ててでも僕はまだ生きたいと思うし、

魔法技師として研修を積み重ねていきたいし、未知のことを経験していきたいと思っている。

そして、ゆくゆくは神話のアイテムを創作するという大きな夢を持っている。

自分の人生の目標を達成する上でもレイナの助言は貴重だ。

既に助言を拒むのが怖いとさえ思ってしまっている。

後は僕がそれを受け入れられるかどうかだけ。







僕自身がピエロを演じ続ける覚悟を持たなければならないのかもな・・・







回想しながら僕がそんな小さな覚悟を決めた時だった・・・







「・・・・あああ!こ、これは!!?」







連盟魔術師のラナさんが恐怖に顔を歪めながら、悲鳴を上げた!

そのただ事じゃない様子に周囲の緊張感が更に高まった。

険しい表情で騎士たちはラナさんを見つめ彼女の言葉に意識を集中しているのが見て取れる。

そんな中ラナさんの隣りにいたクラウディア団長はあくまで冷静に問いかける。







「ラナ殿・・・何が見えたのですか・・・?」







ある程度彼女も想定していたのだろう・・・

ラナさんが驚くような何かがあった事を・・・

一方ラナさんは宝箱を信じられない様な顔で見つめると、ゆっくりと振り返ってクラウディア団長に返事した。

その顔は明らかに強張っており、身体が小刻みに震えていた。







「・・・この中に入っているのは・・・“スルトの小剣“です!!!」


「・・・・っ!!」







ラナさんの言葉にクラウディア団長も僕も息を呑んだ。

周囲で見守っていた騎士たちの顔も真っ青になる。

「嘘でしょ!?」という声がどこからともなく聞こえてきた。

彼女たちは任務で幾度の苦難を経験し、戦闘も経験豊富なはず・・・

それなのにこの狼狽ぶりはそれだけラナさんが発した言葉に衝撃があったことを意味している。

“スルトの小剣“・・・それは禁忌とされている魔法遺物の1つだ。

先史文明の残した遺物にも種類がある。

文明の礎たる魔法科学の発展に貢献が期待されている“正の遺物“。

使用者に多大な魔力と恩寵を与える神遺物はその代表と呼べる代物だ。

そしてもう一つには破壊と絶望をもたらす“負の遺物“。

純粋な兵器や災いをもたらすと伝えられている魔法アイテムがそれに属する。

スルトの小剣が属するのはもちろん後者だ。

その効果はまさに災いと呼べるもの・・・

大気中の魔素マナと接触したら最後・・・無尽蔵に周囲の魔素を取り込みそれを熱エネルギーへと変換する。

変換された熱エネルギーは円形状に放射され、周囲数十メートルが“蒸発“し、数百メートルが火の海と化す・・・

その威力の恐ろしさから、古の大巨人スルトがそれを使って地上を焼き払ったという剣をもじり、“スルトの小剣“という忌み名が付けられている。

魔力結晶体マジカル・コアを改良して作ったものと言われているが、その製法は今には伝わっていない。







「・・・なんて恐ろしいものを奴らは仕込んでいるのだ・・・!」







流石のクラウディア団長もスルトの小剣の名を聞いて絶句してしまっている。

それもそのはず、これは人が使って良い兵器ではない。

というより使い方を間違ったら自分たち自身も“蒸発“してしまう恐れがある諸刃の剣。

それを平然と使用し、罠として仕込める劇団達のイカれ具合は推して知るに余りある・・・

僕達は想像以上に危ない集団を追っているのかもしれないな・・・・







「・・・アナライズで内部をスキャンしましたが、どうやら宝箱を開封すると同時に起爆するようですね・・・」


「魔素が入り込めないようにスルトの小剣の外部は封印の壁で覆われておりますが、」


「宝箱を開封すると同時に、封印の壁も解ける仕掛けになっております」


「危ないところでした・・・宝箱を開いていたら、皆様は既にこの世にいなかった事でしょう・・・・・」







震える声でラナさんはそう述懐した。







「そうでしたか・・・私はどうやら良い友人と仲間に恵まれたようだ・・・」







クラウディア団長は言葉少なげにそう応答し、目を伏せて物思いにふけった。

しかしそれも束の間、彼女はすぐに目を開くとラナさんに改めて問うた。







「ラナ殿・・・一応確認なのですが、スルトの小剣以外には何か入っておりましたか?」


「神遺物はあったのですか?」


「いえ・・・残念ながら・・・」







ラナさんはその問いにゆっくりと首を振った。







「7つある宝箱はすべて同じ仕掛けのようです・・・」


「宝箱に掛けられていたパスコードは既に突破されており、神遺物はすべて持ち去られたと見て間違いないようです」


「誠に残念ですが・・・・」


「・・・・・」







ラナさんの言葉にクラウディア団長は肩を落とした。

さすがに彼女もショックを隠しきれなかったようだ・・・

劇団は既に行方をくらましており、見つけたと思った宝箱の中身は既に持ち去られた後。

これまでは神遺物が入っていた宝箱、もしくは劇団を追跡すれば良かったのだが、これで手がかりが1つ消えたことになる。

奪還の希望が見せられた矢先にこれだ。

クラウディア団長の立場で考えれば肩の1つも落として当然だろう・・・

・・・しかし、やはり彼女は強かった。

その顔に覇気を改めて宿らせると、すぐに次の行動に移った。







「・・・・ラナ殿、ご協力感謝いたします」


「神遺物がなかったのは残念ですが、落ち込んでばかりもいられません」


「宝箱をこのまま放置するわけにはいきませんので、このまま連盟に返却させて頂きます」


「・・・商人ギルド連盟の方で罠の解体をお願いしてもよろしいですか?」







クラウディア団長の問いかけに、ラナさんは頷く。







「承知いたしました。クラウディア公女」


「スルトの小剣は恐ろしい存在ですが、魔素を取り込めないように封印してしまえばただの加工された鉱物です」


「連盟本部から応援として解体部隊をここに呼ばせましょう」


「解体自体は容易ですのでご安心を」







ラナさんの承諾の言葉にクラウディア団長はお辞儀カーテシーで返礼した。







「ありがとうございます。ラナ殿」


「それでは解体部隊に引き渡すまで、我々が責任を持って護衛致します」







彼女はそう言うと、傍に控えていたキースさんに顔を向けた。







「キース、悪いが引き渡しを頼めるか?」


「護衛部隊としてこのまま第1・第2小隊を置いていく」


「お前が引き渡しまでの指揮を取ってくれ」


「はっ!承りました!」







キースさんが敬礼で応えると、クラウディア団長は言葉を続けた。







「こんな恐ろしい策を弄す奴らだ」


「何をしでかすか分からない。十分気をつけてくれ」


「はっ!」







彼女の警告の言葉に、キースさんは覇気のある言葉で答えた。

クラウディア団長はその頼もしい応答に僅かな笑みを浮かべながら頷くと、

後は任せたと言わんばかりに彼の肩をポンと叩いた。

クラウディア団長とキースさんの信頼関係が伺えそうな微笑ましい光景だった。

なんか、こういう光景いいなぁ・・・

先程僕はクラウディア団長に信頼されていると思ったけど、少し勘違いしていたかもしれない・・・

あくまで僕に対してのそれは外部の人間に対してのそれで、仲間に対しての信頼ではなかった。

明らかに僕とキースさんに対しての距離感は違う。

ガングマイスター工房ではそういう人間はいなかった。

アベルは仲間と言うより悪友という感じだし、信頼関係が無いわけではないけど結局僕はレイナの事を彼に話していない。

親方の事は信頼しているけど、仲間と言われると少し違う。

親方はあくまで親方だ。僕の目標となる人であり、尊敬する人物。同じ肩を並べて背中を預けるような関係ではなかった。

同じ部隊に所属すれば僕も信頼関係が築ける仲間が出来るのだろうか・・・?

僕がこれまで経験してこなかった一幕を見たからだろうか、僅かな疎外感を感じてしまう。







「・・・よし!全員聞け!」


「我々だけで劇団の追撃を行うのはリスクが高い事が分かった!」


「追撃は一旦取りやめとし、お前たちは宝箱を引き渡し後直ちに王都に帰還しろ」


「今回の件は至急王妹殿下にご報告申し上げなければならない」


「私は先に王都に戻っている。以上、後は頼んだぞ!」


「はっ!」







クラウディア団長の言葉に騎士たちが敬礼を持って応える。

彼女は続けて僕とアイナさんにも視線を向けてきた。







「アイナ、エノク。お前たちも私と一緒に帰還するぞ」


「はっ!」


「・・・了解しました」







僕達の了解の返事を受け取ると、クラウディア団長は僕とアイナさんを連れ立って広場を離れた。

転送棟がある建物へと向かう途中、彼女は僕に耳打ちをしてきた。







「・・・特にエノク、お前の事は念入りにご報告申し上げるつもりだ」


「謁見の用意をしておけ」


「は、はい・・・・!」







クラウディア団長に間近に寄られて、薔薇の良い香りにドギドキしながら、僕は襟を正すのだった・・・・















To Be Continued・・・
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