破滅フラグを回避する為に完璧な淑女になったはずが、何故私は婚約者の兄にライバル視されてるんですか!?

弥生 真由

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Ep.35 『そんなんじゃない』

「まあ、大丈夫ですか?
悪いけど新しいものを用意して頂戴」

 アンナが可愛い陶器のベルを鳴らし、片付け役の侍女を呼び付ける。
 わっとなだれ込んできた数名がテキパキと割れたカップとこぼれた紅茶を片付けてくれている間にも、私の頭の中はぐるぐるだった。

 初めてケンカを吹っ掛けられた日から、私の殺人級の歌を聴いても見限らずにレッスンしてくれた日々、魔物討伐で大怪我を負ったと聞いて駆けつけた時のリヒト様とイグニスの態度の差とか、いろんな記憶が2倍速再生のように繰り返し頭の中を回り続けて煙が出そうだ。

「…………そっ」

「ーー『そ』?」

「そんなんじゃないからぁぁぁぁぁっ!!」









 この日、私は初めて同世代のご令嬢の前でとんでもない大声を上げた。

 びっくりしたのか、噴水に水浴びに来ていた小鳥たちが一斉に飛び立っていく。驚かせてごめんね!

「まあまあ、何をそんなに慌てていらして?
わたくしはただ、『どの位置か』をお伺いしたに過ぎませんわよ」

「え、あ……、そっか。そう、よね……」

 動揺しすぎてバクバク言っていた心臓がやっと落ち着いてきたら、今度は恥ずかしさで顔に熱が集まる。

(そうじゃん。単にアンナは私達が懇意になった経緯を知らないから『どう言う仲なの?』って確かめただけじゃない)

 それなのに私ったら、さっきまで恋愛小説なんて読んでたせいで変な勘違いして恥ずかしい……!

 項垂れている私にお茶菓子を差し出しながら、アンナは苦笑を浮かべる。

「今やリヒト殿下と貴方様の婚約は正式に解消されたとはいえ、婚約期間にカナリア様側の『落ち度』をでっち上げやすい餌となるのは確実に対抗馬であらせられるイグニス様ですからね」

「えっ?でっち上げ……!?」

「えぇ。我が家が調べている限りでは、王室はまだ貴方様を完全に諦めては居ないように感じられますの」

「……そうね。王妃様の席が空のままと言うのは、リスクが多すぎるもの」

 はぁ、と互いにため息をついた。
 ーーが、かと思うとアンナがにっこりと笑ってこちらに詰め寄る。

「で・す・の・で♡情報の共有の為にもわたくしに、カナリア様とイグニス様のこれまでの関係性をご説明頂けますわね?」

「は、はい、お話させていただきます…………」

 真面目3割、好奇心7割な目の前の乙女の圧力に完敗した私は、イグニスとの出会いから現在までのあれやこれやを赤裸々に話す羽目になってしまったのだった。

(な、なんか、改めて人様に話すのすごく恥ずかしいんですけど……!
私に聞くならイグニスの方に聞いてよーっ!)

 まぁ!

 あらあら

 きゃーっ!

 話している間ほとんどその3つしか発しなかったアンナが、先ほどの小説感想会以上に満たされた表情でミルクティーを飲み干した。

「なるほど、よーー……くわかりましたわ」

「い、一応お互いに周囲を誤解はさせないよう気をつけてはいたのよ?」

「ふふ、そちらはもちろん理解しておりますからご安心なさって」

 さらっと返され、ほっと胸をなで下ろす。
 随分話し込んだから私も喉乾いちゃったわ、お茶いただこう……。

「ところでカナリア様」

「なあに?」

「倫理的な観点はさておき、これまでに一度もあの方を殿方として意識されたことはございませんの?」

 
 ーー・・・。

 トノガタトシテイシキ?
 
 どちらの国のお言葉ですの???

 殿方として……
 殿方として…………

 アンナの先ほどの言葉が何回も繰り返し響いて、私の頭はパンクした。

「~~~~ッ!冗談はよして頂戴!
私がイグニスを恋をするお相手として見たことは今まで一度もございません!!」

「あ……」

「何よ!ーーっ!?」 

 と、その時真後ろから低めの咳払いが聞こえた。
 明らかに女性の声ではない。騒ぎすぎて執事か誰かが忠告に来てしまったのかもしれない。
 恐る恐る、アンナが口元に手を当て視線を向けた先に振り返る。

 丁度侍女に案内されてきたらしい私服のイグニスと、しっかりバッチリ目が合った。

「い、イグニス……様」

 き、聞いてた、よね。今の……!

 ガッチガチに固まった私の顔を見て、イグニスがふっと笑い出した。

「なんて顔してんだ。当たり前だろ、義兄だぞ。
あった方が大問題だろうが」

 なんてこと無い様に笑い飛ばされて、力が抜けたのかぺたんと椅子に掛け直す私。
 何を期待してたわけじゃないけど、拍子抜けだわ……。

「わざわざご足労いただきましてありがとうございます殿下。
今お茶を淹れさせますのでおかけになって」

「あぁ、邪魔するぞ
隣いいか?」

「へっ?あっ、はい!痛ぁっ!」

「一旦落ち着けよお前……」

 ガンっとテーブルに打ち付けた膝からつま先に痺れが広がる。
 呆れ顔のイグニスは何も悪くないのだが、何となく腹立たしくて椅子を思い切り離してやった。

 なんか、もう今日は散々だ!!











「さてと、それでーー進捗は」 

「ええ、鏡の方はいまいちでしたがヴァルハラそのものについて少しばかり情報をまとめさせて頂きましたので、お二人ともお持ちになって」

 一度瞼を落して、ゆっくりと顔を上げたアンナは『侯爵令嬢アンナ』だった。





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